自衛隊、オスプレイの空中給油能力を活用? その1
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
昨年12月13日、沖縄県名護市にある米海兵隊基地、キャンプ・シュワブ近海で在日米海兵隊の垂直離着陸輸送機、オスプレイMV-22機が事故を起こして浅瀬に着陸し、乗員5人が負傷した。在日米軍は事故原因について夜間の空中給油訓練中、乱気流などによってオスプレイのプロペラが空中給油機のホースと接触して損傷したためと説明した。
そして在日米軍はわずか6日後の19日からオスプレイの飛行を再開し、事故後3週間の1月6日からはオスプレイの空中給油訓練も再開した。防衛省はこの墜落事故に関しては実質的に蚊帳の外にあったと言ってよく、アメリカ側がこう言っているというだけで、まともな説明をしてこなかった。いや、できなかったと言ったほうが良いだろう。いずれにしても当事者能力を欠いていたと言わざるを得ない。
防衛省は現中期防衛力整備計画で17機のMV-22を陸自の航空隊向けに調達することになっている。このため極めて高価な装備であるオスプレイ導入に際して調査をしたことになっている。だがその実態は、オスプレイの導入は政治決定だったために期間も短く、予算も1億円と僅かだった。つまりはアリバイ工作程度の、形だけの調査をしたにすぎない。つまり、防衛省はオスプレイについて熟知しているわけではない。自衛隊オスプレイは今回の事故で、多くの国民が危険ではないかと疑うオスプレイによる空中給油を行うのだろうか。
中谷防衛大臣(当時)は記者会見で筆者の質問に答えて「オスプレイを合計何機導入するか、計画はない。買ってから考える」と述べている。換言すればどのような目的で、そのような作戦構想があり、どの程度の部隊が必要か、そのためのコストがいくら掛かるのかは、全く考えていないが、面白そうなので買ってみた、ということだ。
これを機密だから言えないのだと弁護する向きがあるが、民主国家においては軍の主要装備調達に関して概要程度は明らかにし、議会で議論するのが当たり前である。人事と予算は文民統制の根幹であるが、現状我が国の政治がそれを把握しているとは言い難い。それをしないのは、我が国の防衛調達が欧米先進国は勿論、他の民主国家よりも中国や北朝鮮に近いことを意味している。
防衛省は競争入札の形をとるために、もうひとつのティルトローター機であるレオナルド社のAW609を候補として挙げていた。だが同機は完全にビジネスユースで機体規模が小さく、ランプドアもない。オスプレイは完全武装兵士24名が搭乗できるのに対して、AW609は乗客が最大9名であり、完全武装兵ならば5、6名がいいところだ。またオスプレイのような空中給油装置は搭載していない。更に申せばAW609は依然開発中の機体であり、防衛省の予定する現在の中期防衛力整備計画での調達はまず不可能だろう。しかも防衛省はオスプレイで行った実地調査をAW609では行っていない。
オスプレイがダンプカーならば、AW609は軽乗用車である。建設会社がダンプカーを調達するのに、同じタイヤが4つだからと軽乗用車を候補に入れるだろうか。だが、江渡防衛大臣(当時)は記者会見で筆者の「オスプレイとAW609は同じカテゴリーの機体かという」質問に対して、そう考えていると述べたが、自分は無知蒙昧なシロウトだと公言したに等しい。こうして「形だけの」競合が行われた。他国では議会で徹底的な追求を受けるような問題だ。しかし防衛省記者クラブの記者でこの発言を問題視した記者はいなかった。
防衛省は陸自に配備するオスプレイに空中給油を行う予定があるのだろうか。現在のところその予定はなさそうだ。オスプレイの最大ペイロードは約9トンであり、航続距離は概ねヘリコプターの3倍である。垂直離陸の場合の航続距離はペイロードが4.5トンの場合、350海里(648キロ)、同じく3.6トンの場合707海里(1310キロ)、短距離滑走離陸の場合最大ペイロードでは400海里(740キロ)、約半分の4.5トンの場合は950海里(1,760キロ)である。
オスプレイは垂直着陸の場合最大ペイロードの搭載はできず、約7トンに抑えられている。オスプレイは胴体下部に最大6.8トンの貨物を懸吊できるが、その場合短距離滑走離陸はできない。また貨物懸吊時は空気抵抗が増して速度・航続距離が落ちる。
沖縄本島から尖閣諸島までの距離は約410キロである。空中給油を行わないのであれば尖閣諸島で紛争が起こった場合に、沖縄本島を起点に作戦行動ができるのは滑走短距離離陸で機内ペイロードがせいぜい5トン程度、すなわち半分強程度の人員・貨物しか搭載できない。垂直離陸では作戦は不可能だ。後は石垣島あたりを経由するしかない。また同様に本土から水陸両部隊や、特殊作戦群、第一空挺団など精鋭部隊を搭載して一気に沖縄あるいは尖閣まで飛行することはできない。
空中給油を行うのであれば、重貨物を懸吊することは勿論、最大機内ペイロードでも数倍の距離を一挙に飛行することも不可能ではない。つまり空中給油を行わないということはオスプレイの能力をフルに活かせないし、戦術的な柔軟性も制限されることになる。
1月6日の東京新聞によれば、防衛省はオスプレイの空中給油を想定しているという。『陸自のオスプレイについて、防衛省幹部は「空中給油機能がある機種を調達する。空中給油の実施は想定している」と述べた。』
もし自衛隊がオスプレイに空中給油をするならば、空自の輸送機、C-130Hの空中給油機型を増やす必要がある。空自は16機のC-130Hを保有しているが、その内3機を救難ヘリUH-60Jに給油するために給油機能を付加している。もし、10数機からなるオスプレイ1個飛行隊に給油するならば、まったく機数が足りない。
だが防衛省にはC-130Hの給油型を増やす計画はない。また同様に新型輸送機、C-2の給油型を調達する具体的な計画もない。空自のもう一つの既存の空中給油機KC767はフライングブーム方式(注1)を採用しているため、オスプレイが採用しているプローブ・アンド・ドローグ方式(注2)とは異なるので給油ができない。アダプターを装着すればできないことはないが、KC767はわずか4機である。追加で米空軍と同じKC-46Aが3機新たに調達されるが、それでも空自の戦闘機に対して十分な数ではない。オスプレイに回せる機体はない。先の報道のコメントは「遠い将来の希望」を述べたものではないのか。それにそれが、本当であれば空中給油機能のないAW609が何故候補になったのだろうか。
(注1)フライングブーム方式
空中給油機の後方の航空機に対し伸ばしたパイプラインから給油する方式。
(注2)プローブ・アンド・ドローグ方式
空中給油機側から伸びたロート状のホース(ドローグ)に後方の飛行機がパイプ(プローブ)を挿し込み給油を受ける方式。
(その2に続く。全2回)
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
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●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
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●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
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その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
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