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.政治  投稿日:2024/3/8

次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・AMVのライセンス生産を行うなら、装甲車メーカーの統廃合は進まない。

・新型装甲ドーザーのように、国産というだけで高価で能力の低い装備を調達している。

・「小型装甲車」は安価な8名乗りを選定し、かわりにネットワーク化を行うべきだ。

 

率直に申し上げれば日本製鋼所がAMVのライセンス生産を行うならば装甲車メーカーの統廃合は進まず、結果として将来日本の装甲車事業は共倒れするだろう。これは装甲車事業全体に対する将来像を描けず、メーカーの統廃合も指導せずに、漫然と個別の開発や調達を決定した防衛装備庁と陸上幕僚監部の責任が大きい。

そもそもAMVと三菱重工のMAVの競合した次期装輪装甲車の選定で、防衛装備庁と陸上幕僚監部はAMVの国内生産を担当する企業が決まっていないまま、国内生産のコストも維持整備体制も万全だとAMVを採用した。あまりに杜撰である。本来ならば国内生産企業が決まっていない段階で、AMVを選定から外すべきだった。

▲写真 三菱重工「MAV」(防衛省提供)

パトリア社の代理店であるNTKインターナショナル社は小規模な専門商社であり、装甲車両関連の実績もない。年に数百億円となるAMV調達を担当するのも無理があった。このためAMV採用が決まってから防衛大手の住商エアロシステムが関わって、その後、日本製鋼所が製造を担当することが決まった。泥縄としか言いようがない。

採用を決定しても生産企業が決まるまで予算化は見送るべきだった。だが2023年度予算では調達予算が要求されそれが通ってしまった。更に翌年度である2024年度予算の概算要求でもその時点で国内生産企業が決定しないまま、AMV28両が200億円で要求された。これが民間の設備投資ならば担当者は懲戒解雇、あるいは株主に訴訟を起こされているだろう。概算要求が発表された直後の8月31日にパトリア社が日本製鋼所とライセンス生産の契約を結ぶと発表した。(参考:「次期装輪装甲車」選定に見る防衛予算の無駄遣い 国内生産で単価高騰

実はこの日本製鋼所によるライセンス国産に財務省は難色を示している。財務省が難色を示すのは、装甲車生産設備のない日本製鋼所では初期費用が大きく掛かかること、せっかくコマツが装甲車事業から撤退し、三菱重工、日立、コマツの三社体制から二社に集約されたのに新たな「装甲車メーカー」が誕生して弱小メーカー乱立が維持されて調達コストや維持費用が高騰する体質が温存されることを心配しているからだ。その結果、装甲車生産事業が共倒れになることが予想される。

陸幕は来年度にAMVのライセンス生産に備えた初期費用として、装甲車製造の実績がない日本製鋼所が製造ラインを構築するための初度費として100億円以上を要求する予定だ。それで終わりではなく、今後「初度費」として長年にわたって多額の予算が注ぎ込まれる。本来「初度費」は生産を始めるための初期費用のことだが、防衛省では何十年もあれこれ名目を付けて「初度費」をつけることができるという奇異なシステムになっている。このためプロジェクトが始まる前に「本当の初度費」がいくらになるか明らかにしない。

日本製鋼所には装甲車両を生産する施設がないために、新たな投資が必要となる。例えば塗装を行う密閉された塗装室をつくるだけで相当の金額がかかるだろう。これが既に製造設備を持っている三菱重工であれば数分の一で済むはずだ。

しかも陸幕の認識は能天気だ。実に国産率98パーセントが可能だとしている。だがAMVに搭載されるスカニア社のエンジンやトランスミッション、タイア、油圧関連などのコンポーネントは輸入で実現できる数字ではない。装甲板も性能が出ないためか輸入の可能性もあるという。そもそもでたらめな認識で国産兵器が欲しいとダダをこねているだけだ。

日本製鋼所はAMVのライセンス生産にあたり、コマツの元装甲車事業の関係者と、ベンダー企業を利用しようとしている。コマツの撤退によって、装甲車メーカーが3社から2社に減るなら、ベンダー企業が集約され個々のベンダー企業への発注が増えて生産性も高くなり、コストダウンが可能となる。また企業の利益も増えるだろう。これまでのように細々と同じ装甲車両を長期にわたって生産する必要もなくなる。例えば30年かかった調達期間が、5~10年になれば生産率は飛躍的に向上する。ベンダー企業の利益は増えて設備投資や人員に対する投資も可能となる。これはベンダーに限らずプライム企業でも同じだ。

かつて15年ほど前まで装甲車両を製造する三菱重工相模原工場では120名ほどのスペシャリストがいたが、今やその数は三分の一程度に減少し、新人が補充のため配属されることもない。将来はかなり暗いと言わざるをえない。だが、仮に装甲車両生産を三菱重工に集約できれば熟練工を増やすこともできるはずだ。

しかも装甲車メーカーとしてはご案内のように日立も存在する。同社はかつて96式自走120ミリ迫撃砲などをつくり、現在は新型の装甲ドーザーを生産している。96式の120ミリ迫撃砲は床に牽引式の迫撃砲をそのまま据え付けただけの原始的なものだ。他国では反動吸収装置を有して、ターンテーブルに搭載されて旋回できるものが普通だ。これは第77師団専用でたった24両しか生産されていない。開発する必要があったのか。

新型装甲ドーザーには大きな疑惑がある。これは日立とトルコのFNSS社の競合となったが日立案が1億円、対してAACEは2.6億円程度であった。書類審査だけで日立が契約を取った。だが試験用車輌の調達費用は一両で6.347億円に高騰している。これだけ高騰したのであれば、普通は試作調達を再考するだろう。

▲写真 新型装甲ドーザー(防衛省提供)

防衛省は2023年、新型装甲ドーザー計30両の調達を予定しており、調達単価を5.6億円としていた。だが、2023年度予算では36.5億円で5両が調達される。単価は7.3億円である。性能的にはFNSS社の提案するAACE(Amphibious Armoured Combat Earthmover)が圧倒的に上だった。

AACEはエプロンの裏側に「ボウル」と呼ばれるスペースがあり、車体に排土を搭載して自重を重くできる。これによって車体は軽量でも排土機能を高める機能がある。この場合自重は8トン重くなり、重量は24.1トンに増加する。このため重量26トンの新型ドーザーに匹敵する排土機能を有している。AACEは軽量なので日立のドーザーでは不可能なC-130H輸送機でも空輸が可能である。また船舶で輸送する場合、特に島嶼防衛においての輸送では軽量である方が有利であることは言うまでもない。

▲写真 AACEは車体前部のボウルに排土を入れて自重を重くできる。 提供:FNSS

更にAACEは水陸両用機能がある。ウォータージェットを装備しており、水上を時速8.6キロで航行できる。つまりAACEは海岸など水際での工事でも使用できる。対して新型ドーザーにはその能力はない。これは陸自が重視している島嶼防衛では極めて有用な能力だ。それを何故か陸幕は要求仕様で求めなかった。

▲写真 AACEは水陸両用だ。 提供:FNSS

また新型ドーザーは遠隔操作機能やCBRN(Chemical・Biological・Radiological・Nuclear:化学・生物・放射性物質・核)システムを有していない。

AACEは値段が三分の一で圧倒的に優れている。トルコというと途上国だからたいしたことはないというイメージがあるかもしれない。だが、軍事技術の発達は凄まじく装甲車両に関しては既に日本のレベルを遥かに追い越している。性能的に劣った国産品を、単に国産というだけで他国の何倍も高価で能力の低い装備を調達している。(参考:陸自新型装甲ドーザーの調達は国産ありきでは | 

更に次に控えている軽装甲車の後継の「小型装甲車」プロジェクトも問題だ。「小型装甲車」プロジェクトでは三菱重工がタレス・オーストラリアのホーカイを、丸紅エアロスペースがモワーグ社のイーグルを推しており、双方ともにライセンス生産の予定だ。イーグルが採用された場合、日立が生産すると見られている。

▲写真 三菱重工が推すホーカイ(筆者提供)

これでイーグルが選定されれば、三菱重工、日立、日本製鋼所の弱小メーカーの三すくみ状態となる。そうなればこれまで通りに、長期間かけて毎年少量の非効率な生産を行うことになるだろう。それはメーカーの体力も開発能力も削ることになる。実際にそうやってコマツは撤退したのだ。他国の何倍も高い調達費用をつかってメーカーの弱体化をすすめて、旧式の装甲車の調達を続けることになる。その後に待っているのは体力を使い果たしたメーカーの撤退だ。

▲写真 丸紅エアロスペースが推すイーグル5 提供:Ⓒジェネラルダイナミックスランドシステムズ

日本製鋼所がコマツのベンダーという「ゾンビ」に頼って装甲車メーカーとなるならば共倒れの道が待っているだろう。政府は「防衛産業基盤強化法」をつくり防衛産業振興を目指しているが、やっていることは的外れだ。政府、防衛省は世界的にみれば各分野の弱小メーカーを統廃合するつもりはない。単に今までより利益率をあげて支援するとしている。だが、生産性の向上などの経営努力をせずに利益率だけが上がるならば、だれが研究開発に投資し、コストダウンをするのだろうか。それはむしろメーカーの弱体化を進めることとなる。

前回も述べたように装甲車としてのAMV自体に問題はない。現在世界最高レベルの8輪装甲車であり、アフガニスタンなどでも実戦で能力は証明されている。またユーザー国も多い。だが、本来次期装甲車の要求にあったものではあるまい。次期装甲車は、高性能で機動連隊などに配備される「共通戦術装輪車」を補完する安価な装甲車であるとの位置づけである。世にいう「ハイ・ローミックス」である。

だが、AMVはむしろ「共通戦術装輪車」に採用されたMAVよりも生存性、機動力など性能的には上のクラスの装甲車である。むしろ「共通戦術装輪車」にはMAVよりもAMVのほうが適しているだろう。実態は「ハイ・ハイミックス」だ。

本来プロジェクトではより安価で大量調達ができる車種が望ましかったはずだ。そうであれば8輪にこだわらずに別の候補があったはずだ。同じクラスの8輪装甲車を2種類調達する意味はない。同じクラスであればエンジンやトランスミッションを共有化すれば兵站や教育を共通化できたはずだ。

更に申せば、軽装甲機動車の後継の小型装甲車は計画自体に問題がある。軽装甲機動車は4人乗りの小型装甲車であり、これが事実上陸自の主力APCとなっている。基本的に7両に1個小隊が搭乗するが、固有の乗員がおらず全員が下車歩兵であり、下車後装甲車は放置されるというコントのような運用をしているのは世界広しといえども、陸上自衛隊しかない。このような珍奇で不合理な運用を反省することもなく、装甲車両のポートフォリオを見直さなかったのは陸幕と装備庁の当事者能力の欠如である。AMVがネットワーク化されないのだから、当然より下位の小型装甲車もそうなるだろう。とても現代戦では戦えない。

▲写真 軽装甲機動車(防衛省提供)

本来次期装輪装甲車と小型装甲車プロジェクトは統合され、安価で8名の下車隊員が搭乗できる装甲車を採用するものにすべきだった。そうであれば「高級・高価」なAMVは不適格な装甲車といえよう。むしろ既に陸自が邦人救出用に導入しているブッシュマスターのような4輪の大型装甲車の方が適っている。維持費も非常に安くなる。

筆者はAMVに関しては2つの解決策があるように思う。一つは完成品を入れて、日本製鋼所では国内向けの艤装など必要最低限の作業に留めることによって、コストを低減することだ。もう一つは、主契約は日本製鋼所のままで、ラインセンス生産は既に生産設備をもつ三菱重工が担当することだ。同社の相模原工場は拡張が難しいが、10式戦車や16式機動戦闘車の生産は終わりつつある。それに以前は何倍もの装甲車両を生産していた。それに小型装甲車を受注しなければキャパシティはあるのではないか。最終的な艤装だけを日本製鋼所が行えば同社のメンツも立つはずだ。小型装甲車は仕切り直しにして、輸入でもいいだろう。仮に三菱重工の工場を拡張するにしてもメーカーを集約するのであれば、まだ将来に希望が持てるだろう。

「小型装甲車」に関しては運用から見直して安価な8名乗りの装甲車を選定し、そのかわりにネットワーク化を行うべきだ。世界にはトヨタのランドクルーザーの駆動系を使った安価な軽装甲車が多数存在するが、そのクラスでもいいだろう。何なら輸入でもいいだろう。駆動系はトヨタなので問題も無かろう。それにネットワークされていない最新型の高価な装甲車を採用しても実戦には使えない。

そもそも論でいえば防衛装備庁と陸幕の調達システムの抜本的な見直しをして当事者意識と能力をもたせるべきだ。このような防衛産業振興の意識もないまま、専門知識が欠如した集団が漫然と調達自体を目的化したような調達をするのは税金の浪費である。野放図に税金を使って弱小レベルのメーカーを温存するのであれば先にあるのは税金を浪費した挙げ句の、国内メーカーの壊滅である。このような旧態依然で非効率な体制を維持したまま防衛費を増やしても国防力の強化にはならない。

(了。その1

トップ写真:2019年のユーロサトリで展示されたパトリア社製AMV XP(筆者撮影)




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)

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●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)

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清谷信一

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