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かんぽ生命不正販売問題の裏

八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)

【まとめ】

・かんぽ生命契約不正問題で日本郵政、日本郵便、かんぽ生命保険トップが謝罪会見。

・過酷な営業目標やノルマを職員に課した経営の責任を問う声も。

・郵便局保険窓口からかんぽと国内保険消え、外資に独占される異常事態に。

 

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かんぽ生命保険の契約不正問題は深い闇を落としている。親会社の日本郵政と販売を担当する日本郵便かんぽ生命保険の3社トップは7月31日に記者会見を開き、長門正貢日本郵政社長が「郵便局の信頼回復、再発防止のための改善策に迅速に取り組みたい」と陳謝した。しかし、かんぽ生命と親会社の日本郵政の株価は上場以来最安値を更新。不正のツケは国民資産を毀損し、政府の株売却計画にも暗雲が立ちこめている。

「多数のお客さまに不利益を生じさせ、信頼を損ねた点について深くお詫び申し上げる」――不適切な保険販売が相次いで発覚した問題を受け7月10日、かんぽ生命の植平光彦社長はこう謝罪した。この時点で発覚した不正は案件は9万3000件だった。しかし、7月末には18万件まで拡大。原因の徹底調査を進める外部専門家による特別調査委員会(委員長・伊藤鉄男元最高検察庁次長検事)が今年12月末をめどにまとめる調査報告ではさらに被害が広がる可能性がある。

問題となったかんぽ(旧簡易保険)は全国の郵便局で販売されてきた保険で100年以上の歴史がある。1916年、医師の診断や職業上の制約がない「簡易な保険」として庶民の間に広がり、戦後も保険契約額は1000万円程度に抑えられていたが、国営事業だった郵便局の信頼を背景に急速にシェアを伸ばし、民間生保や外資系保険から「民業圧迫」と批判されてきた。

「官から民へ」のフレーズの下、小泉純一郎内閣は竹中平蔵氏を司令塔に郵政3事業分割・民営化を推進。一民間生命保険会社となったかんぽ生命だが、逆に郵便局の信頼に頼り切り、販売手数料収入に依存する日本郵便も、地方の高齢者を食い物にする不正な販売手法に手を染めていく。

郵便局員というと「安定しているが安月給」というイメージがあるが、民営・分社化以降、保険担当はノルマが課される一方、新契約獲得次第でどんどん収入が上がる歩合制が強まった。年収1千500万円を下回ったことがないという保険担当者もいれば、“目標額”を達成できない担当者は厳しい叱責や研修という名の罰則が待っている。

ある郵便局OBは、「とにかく毎日、ノルマに追われるが、民間生保にはない信頼がある。1人の契約を取れば一族全員の保険をかんぽに切り替えてくれることもあった。手当も入ってくるが、その過程で強引な契約に走った人も多いのではないか」と語る。

かんぽの目標額は、かんぽ生命や日本郵便本社から支社、支社から管轄する地域や部会、そして各郵便局に細かく割り振られる。連座制で、1局でも未達があれば徹底的に吊るし上げられ、翌年の予算配分にまで影響する厳しいものだ。2016年4月からかんぽの保険限度額が2千万円に引き上げられたことで、被害が拡大したともいえる。

元来、かんぽは貯蓄性の高い商品で、旧郵政省時代には「10年分の保険料を一括で支払えば、5㌫近い利益になった」という。しかし、低金利時代に入り入院保障などの“特約”(掛け捨て部分)を重視するようになった。

三井住友銀行元幹部の日本郵便の横山邦男社長は記者会見で不正の原因について聞かれ、「営業推進体制が旧態依然だった」と述べたが、政治経済学者の植草一秀氏は「売り上げありきの過酷な営業目標やノルマを職員に課したのは経営の責任ではないか」と指摘する。

▲写真 日本郵便株式会社代表取締役社長兼執行役員社長横山邦男氏 出典:日本郵便

かんぽ生命は当面、自社の商品販売を取りやめるという。不適切販売発覚後、日本生命保険、住友生命保険も日本郵便に委託している「変額年金保険」、「医療保険」の販売休止を要請した。

しかし、昨年末に日本郵政から2700億円の資本を受け入れたアフラックのがん保険、自動車保険だけが全国2万の郵便局の保険窓口で継続販売される。アフラックからの販売手数料収入が見込めるとはいえ、郵便局の保険窓口からかんぽと国内保険が消え、外資に独占される異常事態だ。

トップ写真:日本郵政グループの看板 ©Japan In-depth編集部