八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)
【まとめ】
・平成は格差による社会の分断を生んだ時代。
・高齢化比率上昇が多くの問題を生んだ。
・令和の時代からは成熟国家としての価値観の転換が必要。
天候陛下のご即位をお祝いする国民祭典と祝賀パレードが行われ、令和の時代がやってきたことを実感した。さて、令和の世はどんな時代になるのだろうか。
平成の時代、世界経済の急速なグローバル化は全世界に格差による社会の分断を生んだ。バブル崩壊後の日本でも、非正規社員の急増による中間所得層の地盤沈下を招き、戦後の「1億総中流社会」が崩壊した時代でもあった。
現在、4割に達する非正規社員の増加の要因は、円高による大企業工場の海外移転と新卒採用の縮小、それと専業主婦たちのパート労働市場への大量参入が挙げられる。「寿退社」や「出産離職」した女性が正社員として復帰する機会は少なく、子供たちの教育費で疲弊する家計を助けるためにパートとして働くことを余儀なくされていった。
加えて、就職氷河期に遭遇した「団塊ジュニア世代」がフリーター、ニート化していった。これは皮肉としか言えない。親世代の「団塊の世代」が子世代の就職機会を奪ったということだからだ。某元高級官僚による無職の40歳代の息子を殺害した事件は世間に襲撃を与えた。
リストラ時代でも労働組合によって正社員の既得権益は守られ、企業は雇用維持を名目に賃金抑制に舵を切ったことが今日の生産性低下を招き、人口減、デフレ経済の泥沼にはまってしまった。
高度成長期を支えた団塊の世代は2025年には75歳以上の後期高齢者となり、その子ども世代の団塊ジュニアも35年に65歳以上の前期高齢者となる。特に正規雇用比率、既婚率が低い団塊ジュニア世代の高齢化は日本経済に深刻な影響を与える。
▲写真 サラリーマン(イメージ)出典:Pixabay; mercado2
人口減少は最大のデフレ要因だが、人口の高齢化比率上昇はそれに拍車をかける。
社会保障制度改革の司令塔となる「全世代型社会保障検討会議」の議論が始まった。検討会議は「団塊の世代」が75歳以上となる2022年以降も見据え、70歳まで働ける制度を設けることや、年金受給開始年齢を70歳超まで拡大させることなどを検討する。
また、後期高齢者の医療費・介護サービス利用者負担を現行の1割から2割に引き上げることも検討する。
人口増を前提としてきた戦後の経済成長神話と社会保障制度はとうの昔に終わった。平成が団塊の世代の既得権を守るための30年だったとすれば、令和の前半の20年間は団塊の世代の年金を守るための時代になりかねない。人口ピラミッドが「たこつぼ」化しているからだ。
では、日本のこれからの国家像はどうあるべきなのだろうか。
江戸時代の日本は人口は3000万人程度で一定に推移している。しかも鎖国政策で貿易は制限されていた。その中で、浮世絵や歌舞伎、浄瑠璃、和算、からくり人形など世界に類を見ない文化芸術の爛熟(らんじゅく)期を迎えている。
人口減という「右肩下がり」の令和の日本に必要なのは、高度成長期の「夢をもう一度」ではなく、現実を見据えた成熟国家としての価値観の転換だと思う。
トップ写真:高齢者(イメージ)出典:Pixabay;pasja1000