"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

90式戦車の有効活用考えよ

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・他国は90式戦車を現役活用、陸自は大金をかけ10式を開発した。

・10式は防御力低く、クーラーない為真夏のNBC環境では戦えぬ。

・不要になる90式は海外輸出、もしくはモスボール保存すべき。

 

陸上自衛隊は本来90式戦車を改良して使い続ければいいものを、わざわざ大金かけて10式を開発、調達した。

90式は戦後第3世代にあたる戦車だが、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、スウェーデン、カナダ、デンマークなど多くの国は第三世代の戦車を近代化した3.5世代と呼ばれる戦車を使い続けている

そもそも防衛大綱でも敵の機甲部隊が何個師団も揚陸してくるような本格的な着上陸作戦が起こる可能性は低いとしている。想定している主たる脅威は島嶼における紛争や、ゲリラ・コマンドウ事態、弾道弾による攻撃であって機甲部隊ではない。新型戦車の整備の優先順位は極めて低かった。

10式の新機能の多くは90式の近代化で間に合った。唯一できないのは重量低減だけだ。全国の主要国道の橋梁17,920ヶ所の橋梁通過率は44トンの10式が84%、50トンの90式が65%程度であり、多くの場所で使えるというのがセールス文句だ。だが90式は第3世代の戦車でも軽い部類だ。90式が通れない場所は他国の主力戦車も通れない。しかも陸自は105ミリ戦車砲を搭載し、戦車駆逐車ともいうべき8輪の16式機動戦闘車も導入している。

10式は軽量化、低価格化ありのために防御力を犠牲にしている。3.5世代戦車で当たり前のタンデム弾頭などに対する周囲360度の防御力はない。自慢の砲塔側面のモジュラー装甲は予算がなくて実はブリキのドンガラだけが装備されており、25ミリに機関砲の直撃にも妙案はないという。またトップアタックや地雷に対する耐性も低い。

10式には乗員用クーラーも装備されていない。陸幕も装備庁も乗員用クーラーを要求していなかったが、それではあんまりだという機甲科OBが働きかけて、三菱重工が裁量の範囲で機器冷却用のクーラーの力を上げて、乗員も多少はおこぼれに預かるレベルにあるというだけだ。だから新型戦車なのに真夏のNBC環境では戦えない。陸幕は夏場のNBCも環境下での戦闘を想定してないということだ。そのような平和ボケの組織がまともな装備開発ができるか疑いたくなるのは筆者だけではあるまい。

10式の開発には主砲、エンジンなどのコンポーネントの開発も含めて約1000億円が投じられた。更に66億円の初度費が使われている。調達単価は約10億円でこれまで約110車輌が調達されている。

現在の防衛大綱では戦車の定数が300輌とされており、これをすべて10式にするならば300輌に教育所要を含めて、90式同様に340車輌が必要となる。予算総額は4500億円ほどになる。10式が計画された時点では戦車の定数はその二倍以上だ。そのような膨大な予算をかけて新型戦車を調達する必要は低かったはずだ。

そのような冗費があるならば他の分野に投資すべきだった。陸自はネットワーク化やドローン、精密誘導弾などの導入は遅れており、途上国以下のレベルだ。しかも戦車と行動する89式装甲戦闘車は70両もなく、第7師団の所要数も満たしておらず、その後継計画が明らかにされていない。戦車だけで戦争ができると思っているのであれば、そこいらにいる程度の低い戦車マニアと同じレベルで陸自の装備調達を行っているということだ。

戦車をすべて10式に更新するならば諸外国では充分に現役で通用する約340輌の90式戦車は不要になる。戦車は鋼鉄の塊なので解体処分するにもカネがかかる。であれば武器輸出のスキームを変更して安くてもいいから輸出する、あるいはモスボール保存すべきで、そのような仕組みをつくるべきだ。

それが出来ないならば他の目的に転用するべきだ。諸外国では旧式化した装備を改造して別の目的に転用することは珍しくはない。例えばイスラエルのナメルのような重装甲APC、あるはロシアのBMP-Tターミネーターのような重火力の火力支援車などに転用できるだろう。ナメルはメルカバ4戦車の派生型であり、重防御のAPC(装甲兵員輸送車)だ。イスラエルは過去鹵獲した敵戦車や旧式化した戦車をこのような重APCや他の用途に転用してきた。

▲写真 BMPT 出典:著者撮影

ヨルダンの国営工廠であるKADDBも、余剰となった旧式戦車センチュリオンを改造した重APC(装甲兵員輸送車)アル・ダウザを開発している。前方に横開の油圧式の観音式のランプドアが残され、下車歩兵はこれを使って昇降する。車体上部の装甲を取り去り、車体を上方に延長している。戦闘重量は40トンでペイロードは10トン。パワーパックは一新され、エンジンはL-3コンバット・プロポーションの12気筒750馬力ディーゼルエンジン、AVDS 1790、トランスミッションにはアリソンのCD850-6Aオートマチックトランスミッションを採用している。

▲写真 ヨルダンのKADDBの重APC(装甲兵員輸送車)アル・ダウザ。余剰となった旧式戦車センチュリオンを改造したものだ 出典:著者撮影

車体前部、側面、上部には増加装甲を採用してNATO規格のレベル5の防御力を獲得している。同様に車体底部にもV字型の増加装甲を採用し、乗員席もフローティングシートを採用して、耐地雷・IED生存性を高めている。乗員は2名+下車歩兵7名であり、ルーフには歩兵用のハッチが4箇所設けられている。12.7ミリ機銃あるはRWS(リモート・ウェポン・ステーション)、更には中口径機関砲の砲塔も搭載が可能だ。

BMP-TはT-72の車体をT-90に準じて改装したものに、2A42 30mm連装機関砲、9M120 アターカ対戦車ミサイルの連装発射機4基、30mm自動擲弾発射機などが搭載された新型の砲塔を有している。戦車に随伴し、敵歩兵による対戦車攻撃から戦車を援護する。歩兵戦闘車よりも高い攻撃力、生存力を有している。

このような戦車の転用は74式戦車にも有効だろう。戦車の外郭は頑丈なので充分に使用に耐えるはずだ。事実南アフリカでは50年代に調達されたセンチュリオン戦車に近代化を重ねてオリファント戦車として現在も使用しているぐらいだ。

90式を重APCにするならば砲塔を取りさり、兵員の居住性のために車高を上げ、装甲を強化しても40~45トン程度には収まるだろう。そうであればエンジンは10式戦車のもの気筒を減らして800馬力程度にしたものを採用すればいいだろう。ファミリー化すれば維持整備コストをさげることができる。あるいは外国製のエンジンを採用する。国産よりも量産されていて調達及び維持費が安い。

これを通常の横置きではなく、縦にレイアウトすれば、後方左右どちらかに昇降用のハッチと兵員室からの連絡通路を作るスペースができる。こうすれば乗員2~3名+下車歩兵8名程度は収容できるだろう。あるいは装備庁が開発しているハイブリッド駆動が実用レベルに達しているならばそれを搭載することも検討すべきだろう。ハイブリッドでは大きなエンジンが必要ないし、レイアウトの自由度も増す。

装甲には対戦車弾用のマット装甲や格子装甲も採用して全周的に強化、車体下部も耐地雷装甲にする。履帯は40トンクラスならばゴム履帯が利用可能で、これを採用すれば1トン軽量化できる。武装は12.7ミリのRWS程度で充分だろう。必要ならば武装は20ミリ機関砲などでもいい。あとエアコンと補助動力装置は必要だ。補助動力装置はエンジンを切った状態でも電子機器を動かすために必要だ。また武装よりも索敵・監視用のUAVなどの運用能力を付加すべきだ。

90式は約340輌もあるので、APC型を120両程度にして、87式装甲戦闘車の火力の部分は火力能力を担当させるための先述の火力支援型(これは砲塔変え、35~76ミリ程度の砲と対戦車ミサイルを搭載した外国製の砲塔を輸入すればいい)。96式自走120迫撃砲の、87式自走高射機関砲、82式指揮通信車、施設作業車などの後継を開発しファミリー化できるだろう。90式ベースの90式戦車回収車や91式戦車橋はリファブリッシュし、エンジンを換装すればそのまま使えるだろう。

▲写真 87式自走高射機関砲も老朽化している 出典:著者撮影

ファミリー化すれば教育や兵站が共用でき、部品の生産コストも下がる。余った120ミリ砲は元々ラインメタル社のライセンス品なので、やる気になれば輸出ができるはずだ。

既存車輌の転用の利点は、これまでの整備やコンポーネントのアセットを流用できるので維持費が少なくて済むし、開発、調達コストも低く済むことだ。更に開発にかかる時間も少なくて済む。多額の税金を費やして調達した装備はできるだけ有効に使うべきだ。三菱重工ができないなら海外のメーカーに頼めばいい。

70~90年代に調達した装軌装甲車輌を例によって別々に調達すれば、これまで同様に調達や維持コストがかかって、調達期間が間延びして、戦力化が遅れる。その愚を繰り返すことになる。90式を利用することで浮いた予算を他に振り向けるべきだ。

トップ写真:10式戦車 出典:著者撮影