"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

北朝鮮、軍事パレードと金正恩の謝意

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#42

10月12日-18日

【まとめ】

・北朝鮮が未明の軍事パレード。核兵器開発を止めることはない。

・北朝鮮国民は経済制裁と新型コロナ、台風と水害などの困難に直面。

・金正恩が国民や人民軍に謝意。追い詰められているのは間違いない。

 

先週も米大統領選、というかトランプ候補に振り回された。今月初頭、新型コロナウイルス感染を発表し、一時は軍の病院に入院したトランプ氏が、わずか3日後には「退院」し、これから大統領選遊説を再開するという。勿論、文字通り一日も早く「回復」したことは喜ばしい限りだが、民主党には何か腑に落ちない人々も多いだろう。

15日の第二回テレビ討論会はバーチャルと決まり、トランプ候補が参加を拒否したので中止となった、はずなのだが、一体どうなるのだろう。22日には第三回目の討論会が予定されているが、これまた、どうするのか?如何なる形式でやるのか、対面であればバイデン候補は受けるのか。もう疲れるから、この話はやめにしよう。

今週筆者が気になるのは、北朝鮮で行われた未明の軍事パレードだ。報道によれば、金正恩氏は演説で、「戦争抑止力を引き続き強化していく」とする一方、「誰に向けられたものでもない」とも強調。また、演説中に国民や人民軍へ「ありがとう」「感謝する」と計12回発言したそうだが、どう解釈すべきかについては意見が分かれる。

北朝鮮の国民が経済制裁と新型コロナ、台風と水害による様々な困難を経験していることに対し「面目ない」と涙ながらに話すなど低姿勢を見せたというが、英語にはcrocodile tearsという言葉がある。ワニは獲物を食べながら涙を流すという伝説が元ネタらしいが、いずれにせよ、今金正恩が追い詰められていることは間違いない

▲写真 軍事パレードでの金正恩委員長(2020年10月10日 平壌) 出典:労働新聞

パレードでもう一つ気になるのは新兵器だが、詳細は専門家に譲り(といっても、彼らも北朝鮮軍機密の詳細など現時点で知る筈ないのだが)、ここでは大きな流れのみ述べたい。要するに、圧力で脅しても、対話で賺しても、北朝鮮は核兵器開発を止めることはない、ということだ。その意味で、金正恩は大根だが立派な「役者」である。

更に気になるのがナゴルノカラバフ情勢だ。先々週にアゼルバイジャンとアルメニア系勢力との間で交戦が再発し、先週にはロシアの「仲介」で停戦が成立した、ことになっている。しかし、この種の停戦が約束通り守られた例は、この地域の歴史に限れば、ほとんどない。領土問題の「棚上げ」は言うは易し、行うは難し、である。

今週の産経新聞のコラムは「緩衝地帯」や領土問題「棚上げ論」につき書いた。詳細は本文をお読みいただきたいが、要するに大陸の陸続きの国境しかない地域での領土をめぐる国際政治は基本的に、「緩衝地帯」で直接対決を避けるか、「棚上げ論」で塩漬けにするかしか出口はないということ。海の国境しかない日本とは大違いだ。

 

〇 アジア

インドネシアは、長年米国がビザ発給を拒否してきたプラボウォ・スビアント国防相が10月15日から訪米する公式日程を明らかにしたそうだが、その意味が気になる。

 

〇 欧州・ロシア

米国ピューの各国調査で、中国に好意を持たない声が70%を超え、英、独、蘭、瑞、西など欧州諸国で否定的回答がこれまでで最も多かったという。潮の目が変わったのか。

 

〇 中東

中国の外交部長が、訪中したイラン外相と会談、「中東の緊張を緩和するための新たな協議の枠組みをつくる」よう呼び掛けたそうだ。これは弱者同盟なのか?

 

〇 南北アメリカ

トランプ氏が「全快」をアピールしても、激戦州の数字は改善しない。マーケットはバイデンと民主党上院の勝利を織り込んでいるのに。サプライズがないのがサプライズ?

 

〇 インド

インドのコロナ感染者が遂に700万人を突破したそうだ。流石は人口大国だが、同じ巨大な人口を抱える中国がゼロに近いなんて信じられない。中印のどちらか、もしくは両方に重大な問題があるようだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:北朝鮮の軍事パレード(2020年10月10日 平壌) 出典:労働新聞