"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

バイデン政権悩ます中東と中国

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#26」

2021年6月28日-7月5日

【まとめ】

・中国共産党創立100周年で習近平氏は過去の事件に言及しないだろう。

・退役海兵隊員が「米国は中国との戦争に勝てない」と公開書簡を公開、軍が調査。

・バイデン政権、中東に忙殺され、中国問題に適切に対処できなくなれば、日本の対中政策にも大きな影響。

 

中国共産党が7月1日に創立100年を祝う。1921年7月の第1回党大会は確か23日だったが、まあ「1日」でキリが良いのだろう。北京では厳戒態勢の下で祝賀式典が盛大に挙行され、習近平党総書記が演説するそうだが、中身は今からでも簡単に予測できる。恐らく過去一世紀間に起きた事件の大半は言及されないからだ。

共産党発足当時、中国は中華民国の時代で、24年には孫文率いる国民党と第1次国共合作で協力したが、27年4月の上海クーデター以降、両党の関係は悪化した。37年の日中戦争勃発で第2次国共合作が成り、長い内戦を経て49年に中華人民共和国が建国された。そこまではまだ良いのだが、共産党の真の問題はそれからだ。

毛沢東による大躍進の失敗、文化大革命による社会的大混乱を経て、鄧小平が改革開放政策を開始、中国は経済的に発展したが、その後は天安門事件、法輪功事件からウイグル弾圧、香港「国安法」まで、共産党は一貫して一党独裁体制を維持してきた。この100年の歴史が事実に基づいて検証されるのはいつの日のことか。

▲写真 中国・北京で開催された中国共産党創立100周年記念のアートパフォーマンスに出席し、手を振る中国の習近平国家主席(2021年6月28日) 出典:Lintao Zhang/Getty Images

中国といえば、先週米国で面白い事件があった。退役海兵隊少佐がバイデン大統領宛公開書簡をネット上に発表し、「米国は台湾をめぐる中国との戦争に勝てない」「勝ち目のない戦いのために米国民の血を流してはならない」などと痛烈にバイデン政権の台湾政策を批判したのだ。しかも、問題はそれだけではない。

本年4月と5月に元少佐は、共産党系環球時報に同趣旨の評論を二本も寄稿し、現在米海軍犯罪捜査局の調査を受けている。極秘情報を扱える「セキュリティ・クリアランス」も剥奪され、機密情報漏洩の容疑で捜査が始まったそうだ。こんな男がまだワシントンにいたとは思わなかった。詳細は産経新聞のコラムをご一読願いたい。

最後も、間接的ながら、中国関連である。先週米軍はアフガニスタン北部のバグラン、クンドゥズの2州で反政府武装勢力「ターリバーン」に対し空爆を行った。ターリバーン報道担当は報復を示唆したが、今も米国ではバイデン政権の「アフガニスタンからの米軍撤退」の是非について、連日侃侃諤諤の議論が続いている。

中でも、共和党系の若手論客2人が「中国との競争に注力したいなら、アフガニスタンから撤退すべきではない。アフガンから撤退してもテロとの戦いは続き、米国が負担するコストはむしろ増大する。されば、対中牽制は強化されるどころか、むしろ弱体化するだろう」と論じた評論には説得力がある。

あちらを立てれば、こちらが立たず。このままでは「モグラ叩き」が永遠に続き、結局は、ブッシュ(息子)、オバマ政権と同様、バイデン政権も中東に忙殺され、中国問題に適切に対処できなくなる可能性が高いということだ。これが正しければ、日本の対中政策も大きな影響を受ける。二度あることは三度ある、は間違いだと信じたい。

〇アジア

香港・蘋果日報(アップルデイリー)の休刊に懸念を表明した加藤官房長官と茂木外相の発言を在京中国大使館は「誤った発言」と批判したそうだ。相も変わらず、「中国の内政に著しく干渉」しており、「強烈な不満と断固たる反対を表明」した。うーん、この種の戦狼外交は全く効果がないのに、懲りずにまだやっているようだ。

〇欧州・ロシア

ハンガリーがEUの中で再び孤立している。今回は未成年向けの教材や宣伝などで同性愛や性転換の描写や助長を禁じる法律が成立したからだそうだ。当然EU各国は強く反発、「言語道断の差別」とする共同声明に17カ国が署名したという。それでも、オルバーン首相は動じない。やはり、大ハンガリー主義は永遠なのか。

〇中東

27日、米軍がシリア・イラク国境地帯の親イラン派民兵組織施設3カ所を精密爆撃した。これら施設はイラク駐留米軍に対する無人機攻撃の際使われたらしい。他方、同日イラン革命防衛隊の司令官は飛行距離7,000キロの無人機を保有していると述べたそうだ。やはりイラク核合意の米イラン交渉がうまくいっていない証拠だろうか。

〇南北アメリカ

米フロリダ州で12階建てマンションが崩落したが、建築コンサル会社が2年前に「構造上の損傷」があると指摘していたらしい。酷い話である。一方、ニューヨーク州マンハッタン地区検察官は、トランプ一族の中核組織を脱税などの容疑で刑事訴追するらしい。もし訴追されれば、トランプは破産し一巻の終わりとなる。これも酷い話だ。

〇インド亜大陸

インド西部ムンバイで約2000人、コルカタでも約500人が、コロナワクチンだと騙され、生理食塩水を注射されたそうだ。警察は医師2人を含む関係者10人を逮捕したというが、流石はインドである。実にスケールがでかい。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:バイデン米大統領とジル夫人(2021年6月27日 ワシントンDC) 出典:Tasos Katopodis/Getty Images