今年開催された北戴河会議の中身
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・今年8月上旬、共産党幹部が出席する北戴河会議が開催されたという。
・中国共産党にある「7上8下」の不文律により、これから李首相の存在感が増している。
・中英直行便の回復、サウジアラビアの訪問や東南アジアの訪問予定など対外行動の展開は、習近平権力の変化をほのめかす。
今年(2022年)8月上旬、北戴河会議が開催された(a)という。7月31日の「建軍節」レセプション後、7人の政治局常務委員らが数日間にわたり、一斉に姿を隠したからである。同会議が開かれた事は、ほぼ間違いないだろう。
北戴河会議の歴史は古く、1953年から始まった(b)。「文化大革命」中、いったん同会議は中断したが、1984年に北戴河会議が復活した。翌85年から旧幹部が同会議に出席して、干渉するようになったという。
習近平主席が総書記に就任して以来、この北戴河会議の役割が逓減しているらしい。なぜなら、習主席が、旧最高幹部らの話を聞く耳を持たないからだという。
さて、今年の北戴河会議では、一体、何が起きたのか。
8月6日付『人民日報』第1面に、「団結してこそ勝利し、奮闘してこそ成功する」という記事が掲載(c)された。つまり、会議は開催されたものの、そこで意見の一致が見られなかった証左だろう。
更に、8月7日と9日に、中国メディアに習主席を讃える「焦点インタビュー―効率的に操舵方向を調整——ナビゲーション」(d)と「習近平総書記のリーダーシップによる、コロナ予防と経済・社会発展との効率的な連携に関するレビュー」(e)という長文の記事が掲載された。
もし習主席が党内で“絶対的優勢”を維持していれば、わざわざこのような論文を掲げる必要はない。現在、いかに習主席が“苦戦”しているのを物語っているのではないか。
一方、北戴河での決議も注目された。一部のメディアによれば、最高幹部の政治局常務委員人事がほぼ決まった(f)という。
中国共産党には、「7上8下」(秋の党大会までに67歳であれば、就任、あるいは留任できるが、68歳以上は引退)という不文律がある。習主席はすでに69歳なので、本来ならば引退しなければならない。ところが、周知の如く、主席は3期目を目指している。
同常務委員7人中、習主席を除けば、栗戦書が71歳で引退を余儀なくされるだろう。韓正も68歳なので、引退は確実ではないか。しかし、李克強首相はまだ67歳、汪洋も67歳、王滬寧は10月生まれなので、党大会時、66歳ないしは67歳、趙楽際は65歳である。
実は、今春以降、俄然、李首相の存在感が増している。したがって、李首相は常務委員として残留する公算が大きい。
また、仮に、習主席が総書記3選を果たしたとしても、残り3人が残留する可能性を排除できない。すると、李首相をはじめ、4人が「反習派」となるので、習主席としても自らの主張を押し通しにくくなるだろう。
残り2枠中、1枠は「共青団」(「反習派」)の胡春華ではないか(前回、自ら常務委員入りを辞退)。もう1枠は、北京市トップの蔡奇(「習派」)あたりかもしれない。
もしも、北戴河会議で人事が決まらなかったとすれば、第20回党大会直前の19期7中全会で人事が決定する。
ところで、北戴河会議終了(?)後の8月10日、突然、中英直行便が回復(g)した(2021年1月、コロナの影響で、中英間の直行便が停止)。
すでに今春、米中間等の直行便は回復している。これまで、中英間の直行便が復活していなかったというのは不思議ではないか。
ひょっとして、他国と比べ、中英直行便の回復が遅れたのは、「香港問題」と何か関係があるのかもしれない(万が一、これが習政権の展開して来た「戦狼外交」<対外強硬政策>の“挫折”ならば、習主席の3期目は危うい)。
他方、8月11日、英『ガーディアン』紙が、突如、近く習主席がサウジアラビアを訪問すると報じた(h)。主席のサウジ訪問が事実だとしたら、この重要な時期に外遊するのは奇妙である。すでに、「習派」が北戴河で“勝利”をおさめ、次期党大会で「習派」優位の人事が決定しているという事か(その逆も考えられる)。
また、翌12日、米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、中国当局は、同国指導者が11月に東南アジアを訪問し、バイデン米大統領と直接会談する計画を立てている(i)という。ただ、それが習主席とは限らないだろう。
〔注〕
(a)『RFA』
「中国共産党政治局常務委員7人、10日近く集団潜伏、今年の北戴河会議に注目が集まる」(2022年8月9日付)
(https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/zhengzhi/gt-08092022045651.html)
(b)『大紀元』「鐘原:北戴河会議では挙がらなかった3つの難題」(2022年8月8日付)
(https://www.epochtimes.com/gb/22/8/8/n13797744.htm)
(c)(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/06/nw.D110000renmrb_20220806_2-01.htm)
(d)『人民網』(2022年8月7日付)
(http://politics.people.com.cn/n1/2022/0807/c1001-32496431.html)
(e)『広東省人民政府』 (2022年8月9日付)
(http://www.gd.gov.cn/gdywdt/ttxw/content/post_3990344.html)
(f)『アポロ新聞網』「分析:北戴河で第20期常務委員が内定 政治局11人交代」(2022年8月11日付)
(https://www.aboluowang.com/2022/0811/1788112.html)
(g)『東網』「中英直行便、ほぼ2年間の中断後、サービスを再開」(2022年8月11日付)
(https://hk.on.cc/hk/bkn/cnt/cnnews/20220811/bkn-20220811165717029-0811_00952_001.html)
(h)「中国の習近平主席が来週サウジアラビアを訪問する予定」(2022年8月11日付)
(i)『fri』「米中首脳、11月、東南アジアで直接会談の可能性」(2022年8月12日付)
(https://www.rfi.fr/cn/政治/20220812-美中首脑据报或于11月在东南亚举行面对面会谈)
トップ写真:2021年3月の会議で顔を出した習近平及び常務委員ら(2021.3.8) 出典:Photo by Kevin Frayer/GettyImages
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。