"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

米中関係、進展も悪化も兆しなし

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#30」

2021年7月26日-8月1日

【まとめ】

・米国務副長官が訪中。王毅国務委員兼外相・外務次官と会談。

・この種の会談に大きな進展は期待できない。

・かといって、米中関係が悪化するというわけでもない。

 

ついに東京五輪が始まった。前回の1964年には国立競技場で行われた閉会式をこの目で実際に見た。各国の選手団が国別ではなく、皆一緒になって、しかも、楽しそうに入場してきたのを見て、とても感動した。これが「世界の平和」「日本の国際化」ということなのかと思い、小学六年生ではあったが、インパクトは絶大だった。

あれから57年経ったが、今回は雰囲気がちょっと違う。そもそも長引くパンデミックのせいか、国民の気分が今一つ盛り上がらない。緊急事態宣言は出ているが、若者はテレビなんて見ないので、一家団欒もない。スキャンダルや不祥事まみれと批判された。でも、始まってみれば、オリンピックそのものの意義は変わっていない

確かに、昔ホロコーストを揶揄した演出担当のアーティストが解任された。開会式生中継ではイランが「アラブ諸国」と紹介されるという、まさかのハプニングもあった。だが、ペルシャとアラブの違いを正確に知る国民は少数派だろう。勿論ホロコースト・ギャグは言語道断だが、これに関連する五輪批判は「国内政治」だと感じた。

オリンピックの陰で外交関連ニュースは夏枯れ気味だ。その中で注目したのが米国務副長官の訪中である。天津で国務委員兼外相と、北京で外務次官と個別に会談したが、場所を変えるのはいかにも中国らしい。米側は「米中の厳しい競争を歓迎し、米国として競争力を強化していく」が、中国との紛争は望んでいないと述べたという。

▲写真 ウェンディ・ルース・シャーマン国務副長官 出典:Flickr: U.S. Department of State

この種の外交当局者同士の会談で大きな進展は期待できない。報道を見る限り、双方とも言うべきことを言い合ったのだろう。だからといって、これで米中関係がさらに悪化する訳でもない。外交とはそういうものだ。バイデン米政権発足後、米国務省高官が訪中するのは初めてと報じられたが、それ以上でも以下でもないのだろう。

毎週火曜日午前中、時々の興味深いテーマを厳選し、研究所内外のゲストスピーカーを招致して、突っ込んだ対談を行い、それを編集して、直ちにウェブ上に掲載している。このCIGS外交安保TVの今週のゲストは慶応大学教授でもある神保謙主任研究員で、米国と東南アジアを議論する。一度覗いて頂ければ幸甚である。

〇アジア

朝鮮中央通信が、北朝鮮全土で猛暑が続き、農作物に干ばつ被害が出始めたと報じた。先月には金正恩が食糧不足に直面していることを認め、緊急対策を指示したばかり。これが深刻化したらどうなるか。日本としても、頭の体操をしておく必要がありそうだ。

〇欧州・ロシア

欧州最後の独裁者、ベラルーシのルカシェンコ大統領が改憲草案を発表、予想に反し、「同じ人物は2期10年を超えて大統領に就けない」と明記しそうだ。任期制限だが、本心とは思えない。隣のロシアでは、大統領→首相→大統領と長期政権が続いているではないか。国民や国際社会への目くらまし作戦ではないかと疑う。

〇中東

イスラエル軍が再びパレスチナ自治区ガザを空爆した。ハマスが発火物付き風船をイスラエル領内に飛ばしたことへの報復で、関連施設を攻撃したが、幸い死傷者は伝えられていない。攻撃はするが死者は出さないという、暗黙の了解があれば良いのだが、どうだろうか。

〇南北アメリカ

アメリカでは一時4千人台まで減った一日の新規感染者が、デルタ変異株の拡散により8万2505人に再び急増しているそうだ。ワクチンがあっても接種しない人が多く、感染が拡大する国もあれば、ワクチンが足りず接種のペースはスローダウンしたが、まだ一日の感染者が4-5千人という日本のような国もある。

▲写真 新型コロナウイルスによる感染者・死者。アメリカでの推移。 出典:World Health Organization

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ウェンディ・ルース・シャーマン米国務副長官は7月25日から26日まで中国を訪問。中国王毅国務委員兼外相らと会談した。 出典:U.S. Embassy & Consulates in China