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.国際  投稿日:2023/12/27

「為政者による判断ミス」の年、再び【2024年を占う!】国際:米国


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#52

2023年12月25-31日 

【まとめ】

・2024年、再び「為政者による判断ミス」の年になるのではないか。

・トランプが勝てば、ウクライナは見捨てられ、パレスチナはイスラエルの思い通りになる。

・ロシアとイランが中国への依存を深め、米中関係は対立を続けるだろう。

 

2023年も遂に本稿が最後となる。先週お約束した通り、今回は「2024年の展望」について書くことにしたい。とは言っても、正直なところ、筆者は「予測もの」を書くのが苦手だ。そもそも未来の予測なんて不可能だし、本当に予測できるなら外交評論などせず、競馬や株価の予想だけで、誰にも迷惑をかけず、優雅に暮らすだろう。

しかも、そんな「全て先が見えてしまう」生活なんて、実はちっとも面白くないのでは?だから、という訳ではないが、未来予測の苦手な筆者は毎年1月に産経新聞コラムで「●●年に起きないこと」を書き、何とか誤魔化している。「2024年に起きないこと」は新年早々書くので、本稿では来年注目すべき事象を列挙するに止めたい。

それでも巷には、どうしても「来年を予測したい」人々がいるようだ。有名どころでは毎年「10大リスク」を出す●●グループがある。日本でも(名前は出さないが)「グローバルリスク」や「地政学リスク」を発表する組織・団体が少なくないのだが、どれも内容は似たり寄ったり。正直なところ、失礼ながら、真剣に読む気にはあまりならない。

当然だろう。10個も予測できるなら、米国、中国、中東、ロシア北朝鮮、欧州、世界経済、エネルギー、サイバー、ハイテク(特にAI)について書けば、まず「外れ」はない。しかも、日本語による予測の一部には今も「中東」に触れないものすらある。日本人による国際情勢分析や未来予測は贔屓目に見ても「玉石混交」のようである。

筆者はリスクを恐れない。予測の視点は4つで十分、すなわち、欧州、中東、インド太平洋、米国内政だ。リスクヘッジのため予測を10個も書く必要はない。4分野で流れが見えれば2024年も見えてくる。筆者が注目するのは、ウクライナ戦争の停戦、イランの核兵器開発、中国社会の不満爆発のタイミングと米大統領選の結果だ。

2024年は再び「為政者による判断ミス」の年になるのではないか。最近の「判断ミスのカスケード」はDトランプの米軍アフガニスタン撤退という過ちに始まる。これを「米国の中東離れ」と誤解した中東の各指導者は右往左往し、プーチンは「ウクライナを取る」絶好の機会と見誤った。追い詰められたイランも似たような過ちを犯す。

2024年最大のゲームチェンジャーは米大統領選だろう。トランプが勝てば(勝っても驚かない)米内政は大混乱となり、外交面では判断ミスが再開されるだろう。最悪の場合、ウクライナは見捨てられ、パレスチナはイスラエルの思い通りとなるが、中国だけは判断ミスをせず、静かに二期目のトランプ政権の自滅を待つのではないか。

結果はロシアとイランという地域現状変更勢力が中国への依存を深め、国内の政敵排除を優先する二期目の米大統領の下で、米中関係は様々な判断ミスを繰り返しながら、対立を続けるだろう。その時までに日本が内政上の混乱を収束できなければ、過去10年間に積み上げてきた日本の安全保障アセットは風化し始めるだろう。

前回筆者は「近年世界では『勢いと偶然と判断ミス』の時代が従来の『安定と計画と熟慮』の時代に代わりつつある」が、ウクライナ戦争とガザ紛争は「欧州と中東で現状維持勢力が現状変更勢力の『抑止』に失敗したことを象徴する事件」であり、世界は「新たな不安定期に入りつつある」などと書いた。やれやれ、これがまた続くのか。

より詳しい2024年の展望については、来年最初のCIGS外交安保TVで峯村主任研究員と語り尽くしているので、こちらをご覧頂きたい。

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。一年間のご愛読に心から感謝申し上げる。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:クリスマスを祝う戦場のウクライナ兵士 T-64 戦車に乗って(2023年12月24日ウクライナ・バフムート地方)出典:Kostya Liberov/Libkos/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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