"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

サステナブル時代の北欧消費者傾向

安岡美佳(コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー・北欧研究所

青木純平(北欧研究所)

【まとめ】

・北欧の消費者は、もはや盲目的な持続可能性の追求をやめた。

・LEGO社などが、持続可能ビジネスの成功例として高い評価を得ている。

・北欧に見られるのは、自分の利益と社会への影響を両立させようという消費傾向。

 

北欧諸国の消費者は、数々の国際指標や調査によって、世界的にサステナブル・持続可能性への関心が高く、購買意欲も高いといわれてきた。確かに北欧ではオーガニックなど環境に配慮した食品市場が成長し、持続可能性に配慮したことを謳うサービスが数多く展開されている。

しかしながら、北欧の消費市場において、環境配慮した製品であれば売れるという単純な図式があるわけではない。本稿では、北欧の消費者は、どのような持続可能な製品やサービスに対して、どのような消費傾向を示しているのか、どのような特徴がみられるのか、また、実際にどのような持続可能ビジネスが成功しているのかを紹介する。

■ 北欧の消費者動向と特色

2021年のSustainableBrand Index*(以降SBI持続可能なブランド指標)の調査によると、約半数の北欧諸国の消費者は日常的に持続可能性について知人や家族と話をしており[1]、68~74%の消費者は商品やサービスを購入するときにそれが持続可能であるかを気にしている[2]、という結果が見られている。しかしながら、同調査では、持続可能性の議論が社会で活発化している傾向がみられたとしても、必ずしも持続可能性を謳う商品やサービスの売り上げが相対的に高まるわけではないということも判明した。それはなぜなのだろうか。

*Sustainable Brand Index: 持続可能性の観点からブランドに関する研究を行うヨーロッパの独立研究機関. ヨーロッパの8カ国, 60000人の消費者を対象に調査を行い商品、サービスの持続可能性が与えるブランディング、ビジネス展開、コミュニケーションなどを分析する。

持続可能性の重要性が認知されるに従い、世界各国企業は経営戦略の一部として持続可能性(sustainability)を積極的に取り入れるようになっていったが、同時に、一見環境に配慮した製品に見えて、成果を伴わない『グリーンウォッシュ』も認知されるようになった。グリーンウォッシュ自体は最近の概念ではないが、近年、いたるところで見かけるサステイナビリティーに関するメッセージにより、消費者は批判的、懐疑的な意見を抱くようになってきており、北欧の消費者も例外ではない。

 SBIの調査によると北欧諸国の消費者の30%は企業によるサステイナビリティーのメッセージは信用に値しないと考え、同20%はそれに関して否定的な見解を示している[2]

要因の一つとして、SBIは、消費者は企業が与えるメッセージを完全に理解することが難しいことを挙げている。例えば、最近よく目にする「二酸化炭素」や「カーボンニュートラル」「ゼロエミッション」「気候変動」などの用語は、環境にあまり詳しくない消費者にとって、何を意味するのか理解することはそれほど簡単なことではない。

また、専門家でない限り、その商品が環境に対して何の役に立つのか、またどのように役立つのかを理解するのも簡単ではない。SBIの調査では、北欧諸国の消費者の60%は「カーボンニュートラル」の意味を理解できてないことが判明している。

*グリーンウォッシュ:広告や修辞的表現などを用いて製品やサービスがあたかも環境に配慮しているかのような印象を与えるマーケティング

■ 北欧の消費者はどのような人たちなのか

SBIは、様々な状況での反応の仕方・考え方などの規則性を調査し、北欧各国の消費者を持続可能な商品を購入する動機別に4つのタイプに分類した。その4つのタイプとは次のようなものである。

 ・利己的消費(EGO)-持続可能性に関してある程度関心はあるが、各個人の生活の質を優先させる消費者。

 ・調和的消費(MODERATE)-持続可能な消費が流行っていたり、社会的規範になっている時それが正しいと考える消費者。環境への影響を考えているわけではない。

 ・合理的消費(SMART)-持続可能性に強い興味を持ち、個人、コミュニティーと地球への良い影響の両立を模索する。だが、持続可能性を最優先にはせず製品の品質、価格、生活の質も損なわない消費をする消費者。

 ・献身的消費(DEDICATED)-持続可能性に関して広く知識をもち、それを消費における中心価値に置く消費者

▲グラフ1:北欧の消費者タイプの割合傾向(2013~2021)  *2017年よりオランダも調査に参加:SBI Official report 2021より[2])

消費者4タイプの長期的なトレンドを全体の消費者の割合として推定したグラフが、上記グラフ1である。

消費行動の4タイプにおいて、概して似たようなトレンド変化が起きていることがわかる。北欧諸国の一般的な傾向として、利己的消費はわずかに減少、献身的消費はわずかに上昇したことが示されている。

一方で、調和的消費と合理的消費のトレンドは概して大きな変化が見られ、具体的には、調和的諸費は明確な減少傾向にあり、合理的消費は明確な上昇傾向にある。これらの傾向からは、多くの消費者が持続可能性の重要性、問題性に対して理解を深め、調和を目的とした盲目的な持続可能性の追求をやめていることが読み取れる。むしろ、生活の質や製品の質を損なわずに社会やコミュニティーに良い影響を与える消費を模索している傾向がみられるのだ。

この調査結果は、これからの持続可能性を訴える商品やサービスは、通常の製品との比較で性能や質は遜色ないことを示しつつ、持続可能性に配慮していることを明快にアピールすることが求められていることを意味する。

■ 適切なコミュニケーションの重視

環境や持続可能性に対してアンテナが高いとされる北欧の消費者たちは、10年ほどでその傾向を変化させている。単なる、持続可能性を謳うだけの商品やサービスでは十分ではなく、消費者が理解できるように、製品が持つ持続可能性へのインパクトと働きを適切・明快に伝えることが重要である。

一見環境に配慮した製品に見えて成果を伴わない『グリーンウォッシュ』でもなく、流行りの言葉を多用し、受け手を迷わすようなアプローチでもなく、実直にその効果を説明することを通して、消費者とのコミュニケーションに成功した製品やサービスが、北欧の消費者に支持されるようになっている。

■ 持続可能ビジネス企業事例

今後、持続可能ビジネスを展開するには、製品の品質や価格が通常の商品にも劣らないことを示しつつ、環境配慮を示す必要がある。では、北欧で、持続可能ビジネスに成功しているといわれる企業はどのような企業があるのだろうか。次に、SBI指標に基づき、消費者が持続可能だと認知する北欧企業を3社紹介しよう。

■ REMA1000 スーパーマーケット

2021年、デンマークのSBI指標で最もサステナブルであると消費者から認知されていたのは、スーパーマーケットの「REMA1000(レーマ1000)」である。レーマ1000は1948年にノルウェーで設立されたスーパーマーケットチェーンであるが、低価格・高品質・豊富な品揃えが特徴とされる。1994年にはデンマークに2店舗オープンし、現在はデンマークに350以上の店舗を構える。

レーマ1000は、リサイクル・食品ロス・商標などの環境課題に対して消費者の関心が高まっているということを把握し、環境問題配慮を前提としたパッケージデザインのアプローチを取り入れている。消費者が目に見える形で製品の持つ環境へのインパクトを理解できるようにしているのだ。

例えば、レーマ1000のオリジナル製品では、環境への配慮を全面に押し出したパッケージデザインを展開している。

下写真はサーモンの切り身のパッケージである。左上の矢印の三角形は包装がリサイクルされて製造されたことを示しているし、右下のエメラルドグリーンのマークは水産養殖管理協議会*によって認定された商品であることを示している。商標マークを分かりやすく記載することで、第三者によって認定された製品であること、製品の品質、環境への配慮、レーマ1000の環境へのスタンスを同時に示しているのだ。

▲写真 REMA1000で販売されるサーモンのパッケージ 出典:REMA1000ホームページ

*asc(水産養殖管理協議会):環境に配慮した養殖によって製造された海洋生物を承認する非営利団体。特に水、餌(有機食材)、飼育されている魚が持続可能なものを使っているかどうかを査定する。[6]

■ 大容量値引きの中止・食品ロスの削減[3]

2008年にデンマークでは、食品廃棄の問題が大きく取り上げられるようになった。その際に、レーマ1000は大容量値引きを廃止した。大容量値引きとは、例えばバナナを10本買えば1本あたりの価格がやすくなるというもので、多く買えば買うほどお得になるという戦略である。

大容量値引きの廃止、さらに食品包装も取りやめたことで、消費者はその時に必要な量必要なだけ購入するようになり、家庭内の食品ロスをできる限り避けることが可能になった。大容量値引きの中止により、消費者は、購入の際に環境に貢献していることを感じ取れるようになったと評価している。

この戦略を可能にしたのはレーマ1000が街のいたるところに店舗を構えていたことが関係している。住宅街など生活エリアに近い場所に店舗を構えることで、一度に大量購入するのではなく、その都度必要な分だけ買うという消費者の購買行動に繋がった。この戦略は功を奏し、レーマ1000は、売り上げを損なうことなく、食品ロスの削減に貢献することが可能になった。現在では、デンマークの約15.5%の食品雑貨はレーマ1000で購入されており、約168億デンマーククローネ(日本円:約3000億円/1DKK=17.25円)の総売上を誇る。

■ LEGO

LEGOは1932年にデンマークで設立された小さなプラスチックブロックを用いたおもちゃメーカーである。子供の想像力、創造性を鍛える知能玩具として人気が出始め、現在30カ国にオフィスを構え、130カ国以上に製品を販売している。LEGOグループはデンマークのSBIで3位にランクインし、多くの消費者が持続可能な製品を製造しているとの認識を持っているといわれる。

LEGOグループは、持続可能性向上策の一つとして『RePlay』を展開している。Replayはもう使わなくなったレゴブロックをレゴグループに寄付し、レゴ社はブロックを再利用することで廃棄物削減に繋げるというものだ。

寄付者は、ブロックを手で洗ったり、発送する必要があり、手間がかかる。しかしながら、この試みは消費者の環境配慮への貢献心を揺さぶったようだ。今までで18万キログラムのブロックが寄付されており、この量は、6万人の子供がレゴブロックで遊ぶ量に相当する。

2018年、レゴ社は、ホームページで2030年までに製品の品質を保ちつつ、再生可能エネルギーとリサイクル可能な材料のみで全ての製品を作るという目標を掲げた。この目標を誰でも理解できるように、1分間のわかりやすい解説動画を公開した。動画にはレゴの世界観が再現されており、メッセージ性がありつつも単なる作品としても楽しめる動画となっている。

▲動画 LEGO社の持続可能性向上のための取り組みを紹介する動画 出典:LEGO Sustainable materials[5]

■ Aarstiderne:オーガニック食品配達「オースティダネ」

オースティダネ(Aarstiderne)は、有機栽培による食材(オーガニック食品)を家庭に届けるサブスクリプション食品配達サービスを展開する。

SBIでは、デンマークで2番目に消費者が持続可能だと感じる企業として評価されている。1997年にこのサービスの全身となる非営利団体(バーリッツ林の野菜の庭:Barritskov Grøntshave)がスタート。2006年よりそのアイデアを引き継いで株式会社オースティダネ(Aarstiderne)が設立された。

当初は100世帯の会員に対して有機野菜を販売するサービスを展開していたが今ではデンマークとスウェーデンの4万5千世帯に食品を届けるまでに成長している[7]。オースティダネが提供する季節感あふれるレシピに合った野菜が毎週配送されることで、毎日の生活に季節野菜が組み込まれ、よりバラエティに富み、簡単でかつ美味しく体にも良い料理の提供に繋がっている。

▲写真:Aarstiderne公式ホームページ

魅力的なレシピと一緒に届けられる週ごとの食品セットをサブスクリプションすることができる。

オースティダネの環境配慮はさまざまなところで見ることができる。その一つが、配送ボックスの再利用である。包装を最小限にとどめ、丈夫な木箱を使ってボックス配送することで、45000世帯の廃棄物を削減している。冷蔵製品が使われる発泡スティロールの箱もリサイクルされている。

また、オーガニック製品であることから、できることも多いようだ。例えば、オースティダネでは、栄養に良く廃棄を減らすことができるとして、野菜の皮なども剥かずに調理することを推奨しているし、ちょっと変形した野菜も「形には何の問題もなく、これが多様な野菜の世界だ」とのコメントとともに送付されてくる。さまざまな小さな工夫を通して、消費者の環境改善体験にも繋がっているといえる。

▲写真 オースティダネの配送に使われる再利用できる木箱 出典:LandbrugsAvisen[9]

近年は、単なる地物野菜の利用や包装の簡略化だけではなく、環境改善目標として、もう少し大きな影響につながるロジスティックスにも目が向けられている。例えば、自社による配送と効率的なサプライ・チェーンを組み、輸送時に発生するCO2の削減を目指している。

■ 最後に

北欧諸国の消費者は、多くが持続可能な製品の購入を意識的に行うようになっている。持続可能な消費活動として、北欧で増加傾向にあるのが、製品の品質や価格などに妥協せず、持続可能性に配慮するという、自分の利益と社会とコミュニティーへの影響を両立させようとする消費傾向、合理的消費である。

北欧では、単に環境に良いから、持続可能性に配慮しているからという言う理由で商品が購入されるのではなく、加えて商品自体の魅力や価格競争力などが大きく購買行動に影響している。実際の企業例からは、製品の品質を保持しつつ環境に配慮する戦略をとり、また、それらを消費者が理解できるような包装の工夫、効果的な広告の利用などを併用していることがわかる。

今後、持続可能な消費を維持・増加させるには、商品価値のみ、持続可能性のみを魅力と考えるのではなく、今まで通り製品やサービスとしての魅力を提供しつつ、持続可能性を含有させることで差別化を図ることが必要になっていくだろう。

 

-参考文献-

[1]Denmark B2C, Official report: Denmark — SUSTAINABLE BRAND INDEX (2021.8.9 retrieved)

[2]Sustainable Brand Index, The story of (un)credible sustainability communication in 2021: The story of (un)credible sustainability communication in 2021 — SUSTAINABLE BRAND INDEX (2021.8.9 retrieved)

[3]Ministry of Environment of Denmark, “Case: REMA 1000, Denmark”,

Advertising and Marketing – Case: REMA 1000, Denmark (2021.8.10 retrieved)

[4]REMA 公式ホームページ:Om REMA 1000 (2021.8.10 retrieved)

[5]LEGO 公式ホームページ:Environment – Sustainability – About us (2021.8.10 retrieved)

[6]ASC, About the ASC: About the ASC (2021.8.18 retrieved)

[7]Copenhagen Capacity, Aarstiderne of Denmark wins entrepreneur award at Global eCommerce Summit 2017:

Aarstiderne of Denmark wins entrepreneur award at Global eCommerce Summit 2017 (2021.8.20 retrieved)

[8]Aarstiderne 公式ホームページhttps://www.aarstiderne.com/ (2021.8.20 retrieved)

[9]LandbrugsAvisen, For the seventh year in a row – The seasons land another record:

For syvende år i træk – Aarstiderne lander endnu et rekordregnskab

 (2021.8.23 retrieved)

トップ写真:プラスチック廃棄物の削減に取り組むNGOの活動を視察するアイルランドのバラドカー首相とデンマークのフレデリクセン首相(2019年10月4日) 出典:Photo by Ole Jensen/Getty Images