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露のウクライナ侵攻を知っていた中国

BRASILIA, BRAZIL - NOVEMBER 13: (RUSSIA OUT) Russian President Vladimir Putin (L) greets Chinese President Xi Jinping (R) during their bilateral meeting on November 13, 2019 in Brasilia, Brazil. The leaders of Russia, China, Brazil, India and South Africa have gathered in Brasilia for the BRICS leaders summit. (Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images)

澁谷 司

 

【まとめ】

・中国は、ロシアが北京五輪終了と同時にウクライナへ侵攻するのを知っていたと、米『ニューヨークタイムズ』紙が報じた。

・この情報は、米バイデン政権高官や欧州高官を情報源としているが、「反習近平派」が習主席を陥れるため最高機密を西側に流した公算がある。

・企図があるため中国は暗にロシアを支持していると思われるが、今まで中国の立ち位置がまだ微妙である。

 

今年(2022年)2月20日、北京冬季オリンピックが閉幕した。翌日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの東部2州の独立を承認している(この2州は、2014年、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」として“独立”を宣言)。

画像)ウクライナの地図

出典)外務省海外安全ホームページ

 

3日後の24日、ロシアはウクライナに侵攻を開始した。プーチン大統領としては、両「共和国」の“独立”を承認したのち、予定通りの行動だったのではないだろうか。

 

さて、3月2日、米『ニューヨークタイムズ』紙は、中国がロシアにウクライナ侵攻を冬季オリンピック終了後まで延期するよう要請(a)していたと報じた。中国は、北京五輪終了と同時に、ロシアがウクライナへ侵攻するのを知っていたという。

 

同紙は、米バイデン政権高官や欧州高官を情報源としているその情報は、米CIAや英MI6等が何らかの方法で入手したモノなのだろうか。もちろん、その可能性はゼロではない。だが、ひょっとして、中国内部から情報が漏洩した公算がある

 

阿波羅新聞』の李玉鏘論説委員は、「反習近平派」が習主席を陥れるため、今回、最高機密を西側に流したのではないか(b)と鋭く指摘した。無論、今秋の第20回党大会で、習総書記の3期目入りを阻止するためである。この指摘は、真実に近いのではないだろうか。

 

約10年前、『ニューヨークタイムズ』(2012年10月26日付)は、温家宝首相(当時)に関して、首相が指導部入りした後、一族が巨額の財産を蓄えている(c)と報じた。記事によれば、企業や関連の記録を検証したところ、首相の夫人を含む一部親族が、少なくとも27億米ドル(約3105億円)相当の資産を貯蓄していたと伝えている。

 

この内容を暴露したのが「江沢民派」(現在、実質的に曽慶紅が同派のトップ)だったという。今度も、その「江沢民派」が、西側に情報を流した可能性を排除できない。

 

思えば、2008年、北京夏季オリンピック期間開催中(8月8日〜24日)、ロシアはグルジア(現、ジョージア)と戦争をした。いわゆる「南オセチア紛争」(8月7日~16日)である。この時、五輪期間中だった中国は、不快な思いをしている。

 

そこで、今回、習近平主席がプーチン大統領を北京冬季オリンピックに招き、五輪期間中、ウクライナへ侵攻しないという約束を取り付けたのではないか。その代わり、中国はロシアから膨大な量の天然ガスを買い付ける契約を交わした(d)のだろう。

 

ところで、中国は表面上、ロシア支持を否定している。例えば、中国外交部の華春瑩報道官は、「米国はロシアが中国の支援を受けて動いている事を暗に示唆した件について、ロシアはそのような言い方を聞き不快に思うだろう」(e)と述べた

 

他方、駐フランス盧沙野中国大使は「米ホワイトハウス報道官は・・・中国が背後でロシアを支持してこそ、ロシアは行動することができると示唆した。だが、これはまったくナンセンスだ」(f)と米国を厳しく非難している

 

けれども、実際、中国はロシアを暗に支持(g)しているのではないか。そのため、国際社会から中国に対して圧力が強まる中、3月8日、中仏独の3ヶ国首脳会議行われた。だが、習主席は「仲介役」を申し出ることはなかった。ただし、中国は、ウクライナに対し中国赤十字社を通じて人道的を行っている(h)。

 

中国にとって、ロシアとウクライナは経済的に重要な国である。両国の戦争が長引けば、中国経済が悪化する公算が大きい仮に、習主席が両国の「仲介役」を買って出ても、その立ち位置は微妙となるだろう。中国はどちらか一方の国に、肩入れできないからである。



(注)

(a)『ニューヨークタイムズ(中文網)』「情報によれば、中国はロシアに冬季五輪以降に侵攻を延期するよう要求したという」(2022年3月3日付)

https://cn.nytimes.com/world/20220303/russia-ukraine-china/

(なお、英語版は同3月2日付)。

 

(b)(中文の総合ニュースサイト)『阿波羅新聞』「中国共産党の極秘情報流出!反習派、習近平の背後にナイフを突きつけたか?」(2022年3月3日付)

https://www.aboluowang.com/2022/0303/1715955.html)。

 

(c)『ニューヨークタイムズ(中文網)』「首相一族の知られざる財産」(2012年10月26日付)(https://cn.nytimes.com/china/20121026/c26princeling/)。

 

(d)『ロイター』「中ロ首脳会談、プーチン氏がガス供給拡大提示 年100億立方メートル」(2022年2月4日付)

https://jp.reuters.com/article/olympics-2022-putin-gas-idJPKBN2K90MD)。

 

(e)『中国共産党新聞網』「外交部報道官、ウクライナ事態などについて記者団の質問に答える」(2022年2月25日付)

http://cpc.people.com.cn/n1/2022/0225/c64387-32359449.html)。

 

(f)『環球網』「中国大使=米国は、ロシアが中国の後ろ盾があってこそ動くとほのめかしているが、でたらめだ」(2022年3月6日付)

https://world.huanqiu.com/article/474oReTyA60)。

 

(g)(台湾の国家通信社)『中央社』「中国人の目から見たロシア・ウクライナ戦争、ロシアのプロパガンダが浸透」(2022年3月7日付)

https://www.cna.com.tw/news/acn/202203070137.aspx)。

 

(h)(中文のポータルサイト)『中国瞭望』「開戦14日目、中国がウクライナに支援する人道物資が到着」(2022年3月9日付)

https://news.creaders.net/china/2022/03/09/2459946.html

 

トップ画像)2019年11月、BRICS首脳会議で握手を交わす習近平国家主席とプーチン大統領。

出典)Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images