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.国際  投稿日:2022/3/20

ロシアから「非友好国」認定受けた台湾


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・露国営タス通信、「ロシア政府、非友好的国家と地域のリストを承認」と題する記事発表、その中になぜか台湾が入っていた。

・台湾の有力紙『自由時報』が「ロシアの機密情報が流出 習近平の考えている『台湾接収』のタイムテーブルを暴露」という記事を掲載。

・習政権も、それ相応の覚悟がなければ、そう簡単に「台湾侵攻」へと踏み切れないだろう。

 

国際政治において、しばしば矛盾が露呈する場合がある。今年(2022年)2月24日、ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアに刮目すべき矛盾が表面化した。

3月7日、ロシアの国営タス通信は、英語版で「ロシア政府、非友好的国家と地域のリストを承認」と題する記事(a)を発表している。

そして、ご丁寧にも「台湾(中国の領土とされているが、1949年以降、独自の政権によって統治されている)」という“但し書き”が添えられている。

モスクワは、中国共産党の主張する「1つの中国」の原則を遵守し、「台湾は中国の不可分の領土の一部分」だと承認(b)して来た。他方、目下、北京は表面上、ロシアのウクライナ侵攻を支持している。

仮に、台湾が本当に中国の一部であれば、モスクワは台湾を「非友好国リスト」へ加える必要はない。ところが、わざわざ台湾を「リスト」に入れた。つまり、モスクワが独自の政権を持つ台湾を中国とは別の政体(“国家”)として見なしている証しだろう(なお、このロシアによる台湾の「非友好国リスト」入りを1番喜んでいるのは、他ならぬ台湾人(c)ではないか)。

問題は、今回、なぜモスクワは台湾を“特別扱い”したかである。無論、単に歴史的“事実”を説明しただけかもしれない。だが、今もって、ロシアは中国から十分な軍事的・経済的援助が受けられていない。ひょっとすると、モスクワは、その事が不満で、台湾をダシに、北京に意趣返しをした可能性も排除できないのではないか。

実は、3月17日、ロシアのラブロフ外相の搭乗した専用機が、北京に着陸し、習近平主席を訪ねる予定(d)だった。けれども、なぜか飛行中にモスクワに引き返している。その理由が謎だという。

ところで、最近、台湾の有力紙『自由時報』が「ロシアの機密情報が流出 習近平の考えている『台湾接収』のタイムテーブルを暴露」(2022年3月15日付、翌16日更新)という記事を掲載(e)した。その内容は次の通りである。

ロシアのウクライナ侵攻作戦が続いている中、ロシア連邦保安局(FSB)の機密文書が公開された。その文書中、ロシア・ウクライナ戦争勃発直前、習主席が今年の秋までに、台湾の“全面接収”を検討していたことが明らかになったという。

ロシア人権団体「GLAGUNET」の責任者、ウラジミール・オセチキンが、近頃、FSBから流出した機密文書をフェイスブックに公開した。オセチキンは、この文書はFSBのアナリストが入手した情報であり、中国の「台湾侵攻」の時期を明らかにしたと主張している。

同報告書によれば、以前、習主席は、2022年、台湾に侵攻し、同年秋までに台湾の“全面接収”を考慮していたという。「台湾接収」が、秋の第20回共産党大会で、総書記再選につながると考えたからだろう(なお、中国では共産党が国家よりも上位に存在するので、党総書記は国家主席よりも上に位置すると考えられる)。

▲写真 天安門広場で中華人民共和国が建国70周年記念の軍事パレード(2019年10月1日、中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

しかし、2月24日、ロシア軍がウクライナを侵攻した結果、米国とその同盟国は(台湾海峡両岸についても)神経を尖らせている。他方、習主席の政敵(=「反習派」)は(主席攻撃のための)有利な条件を得たので、中国による「台湾侵攻」の可能性は低くなったという。

その機密文書の真偽については、欧州調査報道賞を受賞したジャーナリスト、クリスト・グロゼフが、FSBの元・現役幹部2人に報告書を見せたところ、2人とも「同僚が書いたことに間違いはない」と言ったとツイートしている。

以上が記事の概要である。

ただし、中国では、この記事と正反対の事件が起きていた。昨年、「タカ派」の劉亜洲空軍上将は、習主席が「台湾侵攻」を“躊躇している”ので、総書記を習主席以外の人間に替えようとして「クーデター未遂事件」を起こしたという。

かねてより、中国共産党は、台湾は中国の「核心的利益」(f)だと主張している。だが、台湾には、すでに在台米軍が駐屯しているので、中国の「台湾侵攻」は、即、米中戦争となるのは必至ではないか。したがって、習政権としても、それ相応の覚悟がなければ、そう簡単に「台湾侵攻」へと踏み切れないだろう。

 

<注>

(a)ロシア政府は、友好的でない国と地域のリストを承認します

(b)(米国議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局)『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』「ロシアは台湾を非友好国リストに載せ、台湾の主権を認めたのか?

(c)『コリア・エコノミクス』「ロシアが台湾を非友好国に指定も…なぜか台湾人が大喜び 「プーチンは悪い奴だが義理堅い」 –

」(2022年3月9日付)

(d)『自由時報』「習近平が、本当に船から飛び降りたか?ドイツのメディア、ロシア外相が北京行きの飛行機で引き返した事を暴露」(2022年3月17日付)

(e)『自由時報』「ロシアの機密情報文書の漏洩は、習近平の「台湾を乗っ取る」計画に衝撃を与えた!

(f)『人民網(日本語版)』「全人代外事委員会が欧州議会外務委の台湾地区関連報告発表採択に声明」(2021年9月3日付)

トップ写真:中国の侵攻を想定した台湾の軍事演習(台湾・屏東、2019年5月30日) 出典:Photo by Patrick Aventurier/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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