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習主席による「反習派」への巻き返しか

BEIJING, CHINA - MARCH 11: Chinese President Xi Jinping (top L) and Premier Li Keqiang (top R) vote at the closing session of the National People's Congress at the Great Hall of the People on March 11, 2022 in Beijing, China. China's week-long annual political gathering, known as the Two Sessions, convenes the nation's leaders and lawmakers to set the government's agenda for domestic economic and social development for the next year. (Photo by Kevin Frayer/Getty Images)

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・一連の政治的流れは「ゼロコロナ政策」継続派(習近平派)より「経済立て直し」派(李克強首相)派に傾きつつある。

・しかし、習主席は、再び「反腐敗」運動を展開し、「反習派」への巻き返しを試みようとしている。

・習主席の側近だった王小洪が、順当に公安部長(警察庁長官に相当)に就任。一方、李首相の「弟分」は左遷。

 

周知の如く、現在、中国共産党内では、「経済立て直し」派(李克強首相)「ゼロコロナ政策」継続派(習近平主席)がせめぎ合っている。

だが、一連の政治的な流れは、前者に傾きつつある。そのため、習主席による「反習派」への“反撃”は困難かと思われた。

ところが、必ずしもそうとは言い切れない事態が生じた。

まず、習主席は、再び「反腐敗」運動を展開し、「反習派」への巻き返しを試みようとしている(a)。

次に、以下のような“事件”が起きた。中国共産党の重要な“舌・喉”である新華社は、その『半月談』(1980年創刊。原則、毎月10日と25日に発行)で、「経済安定の基盤はまだ強固ではなく、最後まで包括的な政策を実施すべきである」(b)という最新のシグナルを発信した(この論考では、習主席の「ゼロコロナ」政策については一言も触れていない)。

今年2月、中国でオミクロン株の変種が流行した後、習主席が上海をはじめとする多くの都市での過酷な「ゼロコロナ政策」を要求した。

3月以降、オミクロン変異株蔓延の噂が多くの一級都市(上海や北京等)で広まり、生産、投資、消費のあらゆる面で影響を与え、経済の下押し圧力を強めた。そこで、中国の「年間成長率(GDP)目標5.5%の達成」が難しい状況に陥っている。

経済状況が厳しくなる中、共産党内では不満が募り、4月には「経済再建策」が採用されたという。結局、習主席は経済担当者の李首相に「火消し」を依頼せざるを得なかったと分析する人もいる。

けれども、6月8日、四川省を訪問中の習主席が「揺らぐことなく断固として『ゼロコロナ政策』を実行せよ」と再び指示を出した。そのため、地方は混乱状態に陥ったのである。厳しい「ゼロコロナ政策」を実行すれば、確実に経済は回らなくなるだろう。

写真)中国・上海の地下鉄駅で消毒する防護服を着たスタッフ(2022年6月25日)。

出典)Photo by Hugo Hu/Getty Images

一部のアナリストによると、習主席は「ゼロコロナ政策」を、自己の組織的な強靭さと個人の業績を示すための道具として利用しているという。そして、李首相の「経済優先政策」に「負けるわけにはいかない」のである。

実は、この論考が、突然、削除された(c)のである。

以前、本サイトで『中国規律検査監察ジャーナル』に掲載された「『洗練された利己主義』を捨てよ」(d)という一文を紹介したことがある。

文章には、秦王朝の李斯宰相と唐王朝の李林甫宰相が“反面教師”として登場し、「洗練された利己主義」を痛烈に批判した。これは、李首相を暗に非難している。ところが、この記事がまもなく削除された。

このケースでは、「習派」が「反習派」の李首相を揶揄したが、それを「反習派」が文章を削除したのだろう。今度の場合、逆バージョンで、「反習派」による習主席批判の論考が「習派」によって削除されたと思われる。

さて、6月24日、習主席の側近だった王小洪が、噂通り、順当に公安部長(警察庁長官に相当)に就任(e)した。これは、習主席にとって心強いだろう。ただ、軍の動静については不明である。

一方、政治的スターだった「共青団」出身の陸昊・自然資源部長が、国土資源部党組織書記を解任され、事実上、行政権限のない国務院発展研究センター党組織書記に左遷(f)されている。陸昊は北京大学卒のエリートで、李首相の「弟分」だという。2003年初め、陸昊は35歳で北京市副市長に昇進している。

14年以上大臣レベルにあった55歳の陸昊は、今秋の第20回党大会後に政治局入りするのではないかと予想されていた。

「習派」の王小洪の昇進と「反習派」の陸昊の左遷に関しては、まったくの偶然で、「習派」と「反習派」の死闘とは無関係かもしれない。ただし、時期が時期だけに、やはり人事と党内闘争に関して憶測を呼びそうだ。

(注)

(a)『万維読報』万维读报2022-06-23

「自分の味方にメスを入れても、習主席は死闘に臨むのか」

(https://video.creaders.net/2022/06/24/2497480.html)。

(b)『rfi』

「李克強の勝利か 新華社通信は今日の論評で最新のシグナルを発する」

(2022年6月21日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/06/21/2496701.html)。

『静観黙察』(『半月談』)

「安定した経済の土台はまだしっかりしていないので、包括的な政策を最後までやり抜かなければならない」(2022年6年22日付)

(https://www.meijiazsgc.com/yuanlaisini/71281.html)。

(c)『中国瞭望』「中国共産党の権力争いに注目、削除された3編に関する議論沸騰」(2022年6月25日付)

https://news.creaders.net/china/2022/06/25/2497910.html)。

(d)『中国新聞センター』

「二つの中央が形成される、中央規律検査委員会は列をなして李克強を大いに罵倒: 同委員会の雑誌は李斯と李林甫という大宰相を学者型官僚として描き、名門校の卒業生は『洗練された利己主義』である主張」(2020年6月7日付)

(https://chinanewscenter.com/archives/32846)。

(e)『rfi』「習近平主席の旧幹部、王小洪が中国公安部長に就任 『ナイフの柄』を握ると香港メディアが伝える」(2022年6月24日付)

https://www.rfi.fr/cn/中国/20220624-港传习近平旧部王小洪将任中国公安部长-紧握-刀把子)。

(f)『聯合早報』

「ニュースパーソン:政界のスターが脱落?」(2022年6月25日付)

(https://www.kzaobao.com/shiju/20220625/119908.html)

トップ写真)習近平国家主席(左)と李克強首相(右)

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images