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.国際  投稿日:2022/10/12

続・党大会直前、異常事態続く中国共産党


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・10月16日の共産党大会を前に、習近平氏統治に関する奇妙な出来事が相次いでいる。

・「上海ウイルス研究所」初代所長に「ゼロコロナ政策」懐疑派が就任。党大会直前のこの時期に突如、SNS規制が緩和される。

・軍統治で“人治”から“法治”への転換が必要との主張が表面化。『国家統計局』HPに「改革・開放」など李克強路線の文言が並ぶ。

 

今年(2022年)10月16日の中国共産党第20回全国代表大会の開幕が近づいた。だが、中国国内では、相変わらず奇妙な出来事が継続的に起きている。それらを紹介したい。

第1に、9月26日、上海交通大学医学部内に「上海ウイルス研究所」が開設された(a)が、その新所長に注目が集まっている。

上海市人民政府と上海交通大学が共同で設立した「上海ウイルス研究所」は、世界的に著名なウイルス学者である管軼初代所長に迎えている。管軼は、中国・江西省生まれだが、香港大学微生物学系教授で英国王立医師会外国人特別研究員である。管は、長年にわたりインフルエンザやその他の新興呼吸器ウイルスの生態、進化、病原性の研究に従事してきた。このように、管軼は実績としては申し分ないだろう。

けれども、管軼は習近平主席が推し進める「ゼロコロナ政策」に疑問を持っていた(b)のである。もし、習主席が3期目を迎えるとしたら、何とも不思議な人事ではないだろうか。

よく知られているように、上海市は「ゼロコロナ政策」が最も厳しく行われた都市である。習主席の寵愛を受けた上海市トップ、李強は、PCR検査やロックダウンに余念が無かった。

その上海市人民政府が肝煎りで設立した「上海ウイルス研究所」の所長に、「ゼロコロナ政策」に異を唱える人間を据えるとは、常識的には考えにくい。もしかして、習主席による「ゼロコロナ政策」の終焉を意味するのかもしれない。

第2に、『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)によると、次期党大会を控え、中国ネット警察は10月1日から、WeChatなどのSNS規制を強化(c)した。

そのため、多くのネットユーザーは、公式メディアの報道を見るか、インターネットのスクリーンショット(画面に表示されている内容を、そのまま画像データとして取得する操作)しかできないと訴えていた。

また、一部のネットユーザーは「友人や家族、クラスメートなどのグループで普通に話せない」というメッセージを残している。他方、別のネットユーザーは、VPN(仮想プライベートネットワーク)でも開けなかったと明かしていた。

ところが、10月7日、民主活動家の王丹はFacebookで、WeChatが、突然方針を180度転換し、ブロックされていたすべてのユーザーのブロックを解除したと述べている。

次期党大会の直前、中国共産党が、突如、SNSの封鎖を解除したというのも奇妙な話ではないだろうか。統制が好みの習主席の思惑とは反対の事が起きている。

第3に、『解放軍報』(10月7日付第4面)「8月1日評論」のコーナーに、第31411軍部隊(「北方戦区」に属し瀋陽に拠点を置く)による「軍の統治方法の根本的な転換を推進して堅持する」という記事が掲載(d)された。

その冒頭で、「法を守れば国は強くなり、法を守らなければ国は弱くなる」ことから、「法の支配は、その国の文明的進歩の重要な証であり、近代的な軍隊の決定的な特徴」であり、「法の支配を深め、軍を厳格に統治するためには、軍の統治方法を大きく変える必要がある」と書かれている。

また、その後に、「近代的な軍隊は必然的に法治国家の軍隊である」、「“人治”から“法治”への転換を実現しなければならない」とも述べられている。

実は、2012年の第18回党大会以降、「軍事委員長の責任体制」が強化(e)された。2017年10月の第19回党大会では「3つの擁護」すなわち、(ⅰ)党中央委員会の権威を守ること、(ⅱ)核心を守ること、(ⅱ)軍事委員会主席の責任を守り実行すること、が党規約に書き込まれている。

なお、「軍事委員会主席責任制」とは、習主席が委員会の業務全般に責任を持ち、国軍の指揮を主導し、国防と軍事建設に関するすべての重要問題を決定する制度である。これは紛れもなく「人治」の典型だろう。

しかし、今回、軍事ガバナンスにおいて「人治」を避ける必要性について解説している。今までの習主席の手法を否定しているのではないか。

第4に、10月9日、第19期7中全会当日、『国家統計局』がHPで「高い開放性と目覚ましい成果 ウィン・ウィンの協力で大国の役割を示す」(f)という論考を掲載した。

文章中、2度「改革・開放」に、6度「対外開放」(タイトルは除く)に言及している。これは、今後、李克強首相の「改革・開放」路線を辿るという意味ではないだろうか。

 

〔注〕

(a)『中国瞭望』:「ゼロコロナ反対の専門家、上海ウイルス研究院初代院長に就任」(2022年10月4日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/10/04/2532403.html)

(b)『BBC News中文』:「新型コロナ:多くの国は『ウイルスと共存』を選択 なぜ中国は依然、『ゼロコロナ政策』に固執するのか」(2021年11月16日付)

(https://www.bbc.com/zhongwen/trad/chinese-news-59288673)

(c)『中国瞭望』:「王丹:WeChatの突然の政策転換、ブロックされたユーザーのブロック解除」(2022月10月7日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/10/07/2533766.html)

(d)『解放軍報』(10月7日付第4面):「軍の統治方法の根本的な転換を推進して堅持する」

http://www.81.cn/jfjbmap/content/2022-10/07/node_2.htm

(e)『中国瞭望』:「軍は『人治』を避けなければならない 軍はまたもや異常なシグナルを発した」 (2022年10月7日付)

 (https://news.creaders.net/china/2022/10/07/2533593.html)

(f)『国家統計局』HPhttp://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/202210/t20221009_1888989.html

トップ写真:習近平国家主席(左)と李克強首相(右)(2015年3月) 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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