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.国際  投稿日:2022/10/3

10日ぶりに姿を現した習近平主席


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・北京で行われた展示会に訪れた習主席の画像からみえる2つの奇妙な点。

・習主席に寄り添っていた観のある人民解放軍が、今や習主席から距離を置き始めたかに見える。

・『人民日報』での習主席の重要文章から消えた「四つの意識」「四つの自信」というフレーズ。

 

今年(2022年)9月16日深夜、習近平主席がウズベキスタンから帰国した。その後まもなく、習主席が元老達に「軟禁」された可能性を排除できない

9月27日、習主席は10日ぶりに姿を現し、北京の展示会(「新時代への邁進」)へ他の6人の政治局常務委員らと共に訪れた(a)。しかし、CCTVの画像を見る限り、奇妙な点が2つ窺える

第1に李克強首相汪洋政協主席が、上着を着ていない。普通、最高幹部7人は同じ格好をして“団結”を示すところが、この2人は白のワイシャツ姿だった。異例である。

第2に、李首相は、当日、両手を後ろに回して展示物を見ていた。特に、注目すべきは、習主席が話している間も、李首相がその姿勢を変えていない。

一般に、自分よりも上位にある人に対しては、体の前で手を組むか、両手を体の両脇におろす。恭順の意を表すためである。だが、今回、李首相が後ろで手を組んでいたのは、ひょっとして、自分がすでに習主席より“上位”だと暗示しているのではないか。

同日、党メディアは、冒頭、「第18回党大会以降、党中央は全党と全民族を統一し、指導してきた」(b)と報じた。だが、習主席に関する言及はなかった。

加えて、9月の国務院常務会議では、不思議な事が起きている(a)。

9月8日の国務院会議で李首相は「習近平を核心とする党中央委員会の強い指導の下、各方面で党中央と国務院の配置を貫徹する」(下線、引用者)と述べた。

けれども、同月13日、李首相は「党中央と国務院の配置に従う」とだけ発言し、習主席の名前がなかった。更に、21日と26日の国務院会議において、李首相は「党中央、国務院の配置を実行する」、「党中央、国務院の配置を貫徹する」と述べるにとどまっている。

実は、最近、人民解放軍にも重大な変化が起きている(b)。

第1に、本サイトで既報の通り、9月21日、北京で軍事セミナーが開催された。習主席は欠席したが、一方、「北部戦区」の元司令官だった李橋銘は出席している。9月8日深夜、軍権譲渡を拒否し、瀋陽軍区で内戦を闘った李橋銘は、とっくに主席に更迭されたはずである。ところが、同セミナーでは、李橋銘が最前列に陣取っていた。

第2に、このセミナーでは、他の軍首脳部も習主席について一切触れず、主席への忠誠心を表明しなかった。

第3に、9月29日、国防部の定例記者会見での質疑応答で、軍の習主席に対する態度が急変している。

国防部報道官は、習主席の前に必ず「党中央や中央軍事委員会」というフレーズを置いて答えている。また、同報道官は、解放軍の機構や人事などの改革について詳しく説明したが、具体的な「習主席」や「習近平思想」への言及はなかった。

これまで、習主席に寄り添っていた観のある軍が、今や習主席から距離を置き始めたように見える。

さて、10月1日の「国慶節」を前に、9月30日、習主席は、“ノーマスク”で政治局常務委員をはじめ、要人を率いて天安門広場に向かい、記念塔に花籠を捧げた(c)。

習主席は強力に推進・固執した「ゼロコロナ政策」をあっさり放棄したのである。主席は同政策で次期党大会を乗り切ろうとしていたのではなかったのだろうか。

同日の「国慶節レセプション」では、政治局常務委員7人全員と王岐山(国家副主席)が円卓を囲み、外部に結束力をアピールした(d)。だが、誰にも笑顔はなかった。他方、夜のレセプションでは、元老達が一斉に欠席している。

最後に、昨年10月1日付『人民日報』での習主席の重要文章 (e)と今年10月1日付『人民日報』の同文章 (f)を比較してみよう。

前者には「すべての党員同志は『四つの意識』を高め、『四つの自己確信』を固める」というくだりがある。ちなみに、「四つの意識」とは、政治意識、大局意識、核心意識、一致意識であり、「四つの自信」とは、中国の特色ある社会主義の道への自信、理論への自信、制度への自信、文化への自信を指す。いずれも習主席の好む言葉である。

しかし、後者には、「四つの意識」「四つの自信」というフレーズが見当たらない。これでは、習主席の権威を貶めるのではないだろうか。

このような状況下で、習主席が次期党大会で無事3期目の総書記に就任できるのか、大きな疑問符が付く。

 

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「習近平が噂を払拭するために登場した後、李克強の連続した行動は意味深長」(2022年9月29日付)

(https://video.creaders.net/2022/09/29/2530700.html)

(b)『万維ビデオ』「かつて『習主席』に密着していた軍も、突然態度を変える」(2022年9月29日付)

(https://video.creaders.net/2022/09/29/2530787.html)

(c)『中国瞭望』「習近平が常務委員会を率いて献花、全員マスクなし」(2022年9月30日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/09/30/2531016.html)

(d)『万維ビデオ』「中国共産党“国慶節レセプション”元老集団欠席、習近平闘争継続」(2022年10月1日付)

(https://video.creaders.net/2022/10/01/2531217.html)

(e) 「赤い資源を有効に活用し、赤い血統を継承し、歴史と人民に恥じない新たな業績を創造しようと努力する

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2021-10/01/nw.D110000renmrb_20211001_5-01.htm)

(f) 「新時代における中国共産党の歴史的使命」

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-10/01/nw.D110000renmrb_20221001_4-01.htm)

トップ写真:北京冬季オリンピック・パラリンピックへの貢献を称える式典にて、拍手を送る中国の習近平国家主席。(2022年4月8日 中国・北京)

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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