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.国際  投稿日:2023/2/26

習政権に揺さぶり「李派」の「寝そべり」戦略


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・第20期中国共産党中央委員会第2回全体会議が開催される。

・李克強前首相派は奇策の「寝そべり」戦略に出ている。

・「素人集団」の習政権は混乱を避けられないかもしれない。

 

  今年(2023年)2月26日から28日にかけて、第20期中国共産党中央委員会第2回全体会議(「2中全会」)が開催される(a)。

「2中全会」では、党政機構再編案(「党と国家機関の改革プログラム」)が審議される予定である。その際、李克強首相時代の全スタッフが“排除”されるという。

時事評論家の中には、「共産党の制度改革は政権交代のたびに行われ、名目上は改革というが、実態は人事の入れ替えだ」と指摘する人がいる。今回は単なる人事の入れ替えではなく、党、国務院(内閣)等の各機関が地方も含めて統合され、ますます習近平主席の権力が中央集権化されるかもしれない。

ただし、習主席は、自らが選んだ人材に不安を抱いているのではないか。第1に、部下達の習主席に対する忠誠心の欠如を心配している。第2に、部下達の能力不足を憂慮している(だが、習主席という1人の人間がそれほど多くのことを上手く管理することはできるだろうか)。

ちなみに、2018年3月、党と政府の「制度改革」があった。これを通じて、習主席は李克強首相の権力を弱めたという。多くの国務院部門が党部門に合併され、あるいは党制度統制を装っている。

具体的には、国務院傘下の国家行政学院が中央党校に、国家公務員局が中央組織部に、国務院華僑事務弁公室と国家宗教局が中央統一戦線工作部に、それぞれ統合されている。

一方、習主席による「李克強派」(≒「共青団」)の“排除”とは真逆の見方(b)がある。

昨年10月、第20回党大会以降、「李派」の幹部は国務院から排除され始めた。「共青団」は党のエリート集団であり、「李派」は、党や政府に少なからず存在する。そこで、「李派」は習主席に反旗を翻して、奇策の「寝そべり」(元来の意味は、競争を避けて無理に頑張らない生き方)戦略に打って出た可能性を否定できない。

オーストラリアの学者、袁紅冰の得た中国共産党から流出した最新のニュースによれば、習主席と李強(新首相へ就任予定)は、李首相時代の一部国務院幹部が残留し、新しい国務院に貢献することを望んでいた。しかし、これら高官は残留を辞退したという。党関係者によれば、これは「寝そべり」という形での一種の“抗議”だという。習主席に一切協力しないのである。

特に、国務院の新人事では、李強新首相をはじめ「素人集団」が政府各機関のトップを占める。そのため、政府の各部署がスムーズに回らない公算が大きい。もしかすると、今後、習政権は、政治が混乱するのを避けられないかもしれない。

李首相時代の多くの幹部が新政権への参加を“自主的に”辞退したのは、その混乱に巻き込まれるのを嫌い、習政権が内外の難局にどう対処するのかを見極めるためではないか。

同様に、3月に開催される全国人民代表大会と政治協商会議(両会)では「李派」が“自主的に”参加を辞退している。

話は変わるが、先日の政治局常務委員会で、習近平主席が「鹿を指して馬となす」(道理に合わないことを、権力を背景にして無理に言いくるめる)類いの奇怪な発言を行った(c)。昨年暮れ以来、中国各界からの圧力で、「ゼロコロナ政策」を打ち切り、中国国内でコロナ発生の“津波”を引き起こしている。

けれども、習主席は、突然、自ら指示した防疫政策が、疑う余地もなく正しかったと言い出した。習主席の苦しい言い訳は、早速、両会で厳しい批判を受けるかもしれない。そこで、ひょっとすると、党内の「反習派」に対し、先手を打ったのではないか。

中国民主運動指導者の魏京生は、今年2月、武漢市と大連市で発生した「白髪運動」が保守的性向を持ち、政府を信じていた高齢者達を「反北京」へと転向させたと指摘した。また、ほとんどの社会階層が反共産党に傾いたことを示すと分析している。

更に、魏京生は、「中国偵察気球事件」が米国の反中国共産党感情の新たな高まりをもたらし、習主席が米中関係の緩和に向けて努力するのを難しい状況にしたとも指摘した。

実は、2月9日に発表された最新の「ラスムッセン・レポート」の世論調査(d)によれば、米国民の48%が中国を「敵」と位置づけ、今後5年以内に中国が米国と戦争する公算が大きいと考えている。

なお、中国を「同盟国」と見ている人はわずか11%で、36%は中国を「同盟国と敵国の中間」と見ているという。 

〔注〕

(a)『万維ビデオ』

「中南海が大粛清を開始、習近平は “自ら配置、自ら指揮”」

(2023年2月21日付)

(https://video.creaders.net/2023/02/21/2579987.html)。

(b)『万維ビデオ』

「習近平のジョークを見て、故意に李克強の部下が両会を『自発的に撤退した』という」

(2023年2月18日付)

(https://video.creaders.net/2023/02/18/2578987.html)。

(c)『万維ビデオ』

「習近平が鹿を指して馬としたのは、隠された意図を持つ」

(2023年2月18日付)

(https://video.creaders.net/2023/02/19/2579225.html)。

(d)『中国瞭望』

「中国気球の影響下で米国の世論調査:米中は5年以内に戦争に突入する可能性がある」

(2023年2月11日付)

https://news.creaders.net/us/2023/02/11/2576577.html)。

トップ写真:APEC首脳会議に出席する習近平国家主席。2022年11月19 日 タイ・バンコク

出典:Photo by Lauren DeCicca/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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