"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

北京市、国務院に“反抗”するも腰砕けに

BEIJING, CHINA - MAY 10: Women ride a scooter past a billboard for a COVID-19 vaccination drive on May 10, 2022 in Beijing, China. China is trying to contain a spike in coronavirus cases in the capital Beijing after hundreds of people tested positive for the virus in recent weeks, causing local authorities to initiate mass testing in most districts, close schools and stores, ban gatherings and inside dining in all restaurants, and to lockdown some neighbourhoods in an effort to maintain the country's zero COVID strategy. (Photo by Kevin Frayer/Getty Images)

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・7月6日、北京市が再び新型コロナワクチン接種を厳格に行うと宣言。しかし、翌7日深夜、人民の大きな反発を受け、北京市は突如それを撤回。

・李克強首相が率いる国務院は「経済優先主義」である一方、習近平主席は「ゼロコロナ政策」を打ち出しており、北京市トップもまた習派である。

・「習派」としては、今回「反習派」に対し巻き返しを図ろうとしたのではないか。

 

 

今年(2022年)7月6日、北京市が再び新型コロナワクチン接種を厳格に行うと宣言(a)した。しかし、翌7日深夜、北京市は突如、それを撤回した(b)のである。

周知の如く、李克強首相が率いる国務院は「経済優先主義」である。一方、習近平主席は、「ゼロコロナ政策」を梃子に、秋の第20回党大会で3期目を目指す。

だが、最近、「反習派」の旗頭、李首相の影響力が強くなり、存在感を増している。そこで、「習派」としては、今回「反習派」に対し巻き返しを図ろうとしたのではないか。

目下、北京市のトップは「習派」の忠臣、蔡奇である。そのため、習主席が蔡奇に働きかけて、北京市で(「ゼロコロナ政策」の延長戦上にある)厳格なワクチン接種を実行させようとしたのかもしれない。あるいは、蔡奇自ら、習主席に“忖度”し、厳しいワクチン接種を実行に移そうとしたのかもしれない。

写真)北京冬季オリンピック閉会式で演説をする蔡奇氏 2022年2月20日

出典)Photo by Maja Hitij/Getty Images

既報の通り、5月末、国務院は、コロナ予防を一律に適用しないことを求める「9つの禁止事項」を打ち出し、地方が経済を軽視しないよう要求したばかりだった。北京市が国務院の方針に逆らうとは、習主席が追い込まれている証左ではないだろうか。

まず、北京市の布告を紹介したい。

7月6日午後、北京市政府は同市の新型コロナ防疫に関する記者会見を開いた。そして、同市衛生健康委員会副主任(報道担当)の李昂がワクチン接種作業を促進するための“取り決め”を紹介した。

第1に、老人大学、老人活動所、老人フィットネス娯楽活動場所に出入りする高齢者に対しては、できるだけ早く応対する。

第2に、オフライン教育機関、図書館、博物館、映画館、美術館、文化館、体育館、フィットネスセンター、公演・娯楽施設、インターネットカフェなど人が集まる場所に入る人は、必ず(不適合者を除き)予防接種を受けなければならず、その他、制限・予約された場所には予防接種を受けた人を優先する。

これらの措置は、2022年7月11日(月)から施行される予定だった。

ところが、この北京市の新政策に対し、すぐさま反発の声が上がる。評論家の周暁輝は次のように鋭く批判(c)した(長文なので、一部だけ抄訳する)。

北京市政府の動きは、同市に住んでいてまだ予防接種を受けていない人、特に高齢者に予防接種を受けさせようとしているのは明らかである。

この措置だけでも“憲法違反”であり、国家衛生委員会への公然たる反抗だろう。北京市が導入した最新の制限措置だが、自らが国家衛生委員会よりも大きな力を持っていることを暗示したいのか。それとも、同委員会の言うことは“見せかけ”に過ぎず、委員会が北京市の規制を黙認しているとでも言いたいのか。

データによると、2022年4月17日24時現在、北京市ではワクチン累計接種回数が6095万7500回、累計(2回)接種者数が2309万0900人、累計ブースター(3回)接種完了者数が1555万9900人と報告されている(60歳以上の初回接種率は80.6%に達している)。

北京市の人口2500万人に対し、3回接種を終えた人は約62%、2回接種を終えた人は約92%である。では、なぜ北京は残りの8%の国民にワクチン接種を強制する必要があるのか。

他方、この1年余りの間に、ワクチンの副反応がたびたび暴露されている。

以前に発覚した数百例の白血病を除き、7月4日、1000人以上の子どもの親達が、ワクチンを接種した後に子供が一斉に「1型糖尿病」(膵臓のインスリンを出す細胞が壊されてしまう病気)になったと訴える公開書簡を再び発表した。

北京市が打ち出したこの“違法”な規制措置は、決して人民の福祉のためではない。コロナ予防は単なる口実で、ワクチン会社の在庫を枯渇させるための利権か、あるいは、第20党大会前、市民をしっかりコントロールしている事を示したいからだろう、と周暁輝は喝破した。

結局、北京市の偽装されたワクチン接種義務化命令は、人民の大きな反発を招いた(b)。

一部のネットユーザーは、北京市の公式ビデオと(李首相傘下にある)国務院がこの防疫行為を批判したビデオとを一緒に編集し、「北京市は公然と国務院を罵倒した」、「北京市が中央政府に喧嘩を売った」と揶揄している。

また、別のネットユーザー達は、「国務院はワクチンを義務化すべきではないと言っているが、北京市は偽装義務化しているのか」、「蔡奇はまた主人(習主席)に忠誠心を示している」、「一方では、ワクチン接種は強制ではないと説きながら、他方では、ワクチン未接種の人達の公民権を剥奪している」等と嘲笑した。

(注)

(a)『北京市人民政府』

「北京市:7月11日から次のような集合場所に入る人は必ず予防接種を受けなければならない」(2022年7月6日付)

(http://www.beijing.gov.cn/ywdt/gzdt/202207/t20220706_2765425.html)。

(b) 『万維読報』

「李克強が勝った 北京市、深夜に急停止・・」

(2022年7月8日付)

(https://video.creaders.net/2022/07/08/2502569.html)。

(c)『中国瞭望』

「無茶苦茶だ!北京市、国務院に挑戦 民衆は愕然とする」(2022年7月7日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/07/07/2502133.html)。

トップ写真:コロナワクチン接種を呼びかけるポスターの前をスクーターで通り過ぎる女性 2022年5月10日 北京

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images