無料会員募集中
.国際  投稿日:2023/1/8

北京政府に反発する地方政府


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・目下、中国では、新型コロナが再流行している。

・感染者数に関して、今回地方政府は中央政府の意向に背く数字を公表した。

・北京政府の面子を失わせるような地方政府の公式発表は、突然に転換したコロナ規制の緩和政策と中央による各地から医療スタッフを北京市へ派遣する要請と関わっている。

 

目下、中国では、新型コロナ(以下、コロナ)が再流行している

国家衛生委員会の内部情報の推計によれば、12月20日、一日で新規感染者数は3700万人を超えた(a)という。12月1日から20日までの累積感染者数は2億4800万人に達し、総人口の17.56%を占める

一方、英国の調査会社、エアニフティは声明の中で、12月1日以降、中国での累積死亡者数は10万人に達し、感染者数は1860万人に達する公算が大きい(b)と述べている。

同社は、中国のコロナ感染は1月13日に最初のピークを迎え、1日当たり370万件に達すると予想した。また、1月23日、1日当たり2万5000人の死亡でピークとなり、12月からの累積死亡者数は58万4000人に達すると推計している。そして、4月末までに中国全土で170万人の死亡を予測した。

さて、本稿では、まず北京政府の面子を失わせるような地方政府の公式発表を列挙したい

第1に、四川省である。

四川省衛生健康委員会が公表した同省のコロナ感染に関するアンケート調査(第2回)の結果(12月25日までに実施)は、以下の通り(c)である。

省内21市・州、183県の15万8506人の感染率は63.52%で、12月19日の第1回調査結果(46.93%)に比べて16.59ポイント上昇した。また四川省は今度の調査対象者の実際の感染率は63.52%以上だという。地域別では、都市地域の感染率が65.42%、農村地域では54.91%だった。

なお、四川省の人口が約8200万人なので、感染者は5200万人以上となるだろう。

第2は、海南省である。12月23日、同省の保健当局者は、まもなく感染のピークを迎えると述べた(d)。

第3は、上海市で、4万人以上の患者が発熱の治療を受けている。

第4の江西省政府は、12月23日、年明け3月までに人口約3600万人の80%が感染すると発表した。当局によると、この2週間で新たに1万8000人以上が省の主要医療施設に入院し、そのうち500人近くが重篤な患者だという。

第5は、重慶市だが、同市も爆発的な感染者数に見舞われた大都市となった。

第6は、山東省青島市で1日約50万人の新規感染者が増えたと報告している。

12月23日、青島市衛生健康委員会は、『半島都市報』で同市での新規感染者数は1日あたり49万〜53万人だと明かした。

ところが、山東省は、新規感染者は31人と公表している。『半島都市報』の報道はいくつかの通信社に転載されたが、12月24日朝には元の報道が修正され、感染者数が削除されている。

第7は、広東省東莞市である。12月24日、同市当局は「東莞市の感染のピークが近づいている」と発表した。同市の感染者数は1日に25万~30万人の規模で、急速に増加しているという

また、12月22日の時点で、東莞市の公立病院や社会保健機関で働く医療従事者のうち、2528人がPCR 検査や抗原検査が陽性、または発熱していた。

第8は、浙江省衢州(くしゅう)市(e)である。

12月28日、衢州市の陽性累積数は21万例となっている。同月21日に最高(2万5375例)を記録した。また、衢州市は、同市全体の感染率は全人口の30~35%程度だと指摘している。

ところで、今回、なぜ地方政府は中央政府の意向に背く数字を公表したのか

第1の理由として、12月7日、中央政府が突然、コロナ規制を緩和したからではないか。地方政府にとっては「寝耳に水」で、防疫の準備期間がなかった。そのため、地方は感染爆発を避けられなかったのだろう。

第2の理由として、中央政府が北京市の惨状に見かねて、各地から医療スタッフを北京市へ派遣するよう求めた。

けれども、地方では医療関係者数が不足し、病院等の医療機関は患者の対応に追われている。医療従事者すら、大部分がコロナに感染している地域もある。それにもかかわらず、習近平政権は、地方政府に医療スタッフの北京派遣を強要した。

実は、北京は全国で最も医療スタッフが多い地区で、2021年には人口1000人あたり医師5.64人、看護師6.47人が免許を取得し、いずれも中国平均の2倍以上(f)だった。地方から反発が起こるのも無理はないだろう。

一方、地方政府の動きについては「反習派」が関与している可能性を捨て切れない。おそらく、習政権の面子を潰すことがその目的なのではないか。

〔注〕

(a)『FRA』「中国公式内部通報:全国では20日間で2億4800万人がコロナに感染」(2022年12月22日付)

(https://www.rfa.org/mandarin/Xinwen/3-12222022095024.html/ampRFA)

(b)『ロイター』「中国コロナの死亡者数が1日9000人に加速—英調査会社エアフィニティー」(2022年12月30日付)

(https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-china-casualties/china-covid-deaths-accelerate-to-9000-a-day-uk-research-firm-airfinity-idUSL1N33J0W8)

(c) 『中国瞭望』「四川省公式発表:感染率が63.5%を超え、5200万人が感染している」(2022年12月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/12/28/2561854.html)

(d)『万維ビデオ』「めちゃくちゃだ!地方は争って中南海の顔を平手打ちしようと躍起になっている」(2022年12月24日付)

(https://video.creaders.net/2022/12/24/2560398.html)

(e)『中国瞭望』「中国ネットユーザー、春節聯歓晩会の中止を求める 政府の公式態度が明らかに」(2022年12月29日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/12/29/2561991.html)

(f) 『中国瞭望』「北京住民の命は尊いので支援するのか。中国各省の医療スタッフは非常に不満だ」(2022年12月25日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/12/25/2560576.html)

トップ写真:ゼロCOVID対策を緩和した後、症例の急増に直面している中国(北京 2022年12月21日)出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."