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.国際  投稿日:2023/9/25

政権末期の様相を帯びてきた中国共産党


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・幾つかの都市で若者が習政権の「ゼロコロナ政策」に不満を表明した。

・国務院は習主席個人の執行機関へと降格し、李強首相とはまるで主従関係。

・中央書記処第1書記蔡奇は、国家安全会議副主席に就任し李強を凌ぐ権力。

 

かつて長い間、中国共産党幹部と民間企業との間には「政府は人民が勤勉に働いて金持ちになることを認めるが、人民は政治参加の権利を放棄する」という暗黙の了解があった(a)という。しかし、習近平政権下では、この暗黙の了解が崩れつつある。

中国人は屈辱に耐え、苦労することに慣れているが、忍耐にも限界があるのではないか。昨2022年11月、いくつかの都市で若者が街頭に出て、習政権の「ゼロコロナ政策」への不満を表明したことがそれを物語っている。

習主席は毛沢東時代のように高学歴の若者に地方へ行く(「上山下郷」運動)よう呼びかけている。実際、習政権の厳しい取り締まりによって、ハイテクやオンライン教育・訓練分野で数百万人の若者が高賃金の仕事を失った。

習主席は講話の中で、「富の蓄積メカニズム」に対する規制強化を主張した。要するに、北京だけが富をどの程度蓄積することが可能なのかを決定することができる。

だが、中国が豊かになるために必要なのは、国家が統制を強めることではなく、緩めることではないか。政治が経済から遠ざかってこそ、市場の力を解き放つことができる。そうすれば、(人民の不満が高じて)抗議行動や社会不安に発展するリスクを、最小限に抑えることが可能となるのではないだろうか。

この2年間、パンデミックの発生、財政の枯渇、人民と官吏の“無秩序化”によって、中国の政治状況はますます明朝末期の様相を呈していると多くの論者は見ている(b)。

明朝最後の皇帝、崇禎帝はペストに襲われ、自ら命を絶った。習近平政権下の北京は、ますます明末の崇禎時代に似てきたという。

近頃、習主席が頻繁に雲隠れして奇怪な行動を取り、世界の耳目を集めている。重要な国際会議に相次いで欠席したのは、たぶん、今年8月の北戴河会議での内紛と関連があるだろう。

実は、北戴河会議では「クーデター」まがいの事が起きていたという。

習主席は長老たちに総攻撃を受けた。そこで、主席は長老たちに向かい「皆さんは、私が死ぬことを望んでいるのを知っている」、「皆さんは私が暗殺されることを望んでいる」と言い放った。そのため、長老たちは口をつぐんでいる。

ところで、話は変わるが、今年5月10日、習主席は2017年の雄安新区設立後、同地へ3度目の訪問を行った。前2回とは異なり、主席は李強総理ら最高幹部を従えている(c)。 

一見、何の変哲もなさそうな習主席の「雄安新区」訪問だが、この事実は見逃せない。

総書記に首相が同行して視察することは、中国共産党の建政史上類例がないとう。過去の慣例上、総書記と首相は必ず北京に滞在しなければならず、同時に外出することもなく、同じ場所へ一緒に行くこともできない(米国の大統領と副大統領の関係に近いと思われる)。

ナンバー1の総書記とナンバー2の首相である。もし、重大事件・事故があった場合、2人がいっぺんに亡くなると困るだろう。そのため、一緒には行動しないのである。

ところが、今回、何と習主席は李強首相を連れて「雄安新区」へ行った。つまり、李強首相は、昔同様、主席の第1書記であり、首相ではないのかもしれない。

9月13日から14日にかけて、北京で「全国党委員会・政府書記長会議」が開催(d)された。その際、習主席は「重要な指示」(「政治姿勢を高める」等)を行ったが、それを中央書記処第1書記の蔡奇(ナンバー5)が伝えたばかりか、スピーチも行っている。

会議の名称通り、党と政府が統合(鄧小平の「党政分離」と反対の「党政一致」)され、党中央が会議を実施した。

かつて、習主席の党中央と李克強内閣(国務院)とは幹部の指導権では互いに干渉せず、主席が党を、李克強首相が国政を掌握していた。

ところが、今回の党政幹部統合会議では、李強首相が脇役となり、政府秘書官らは現場で蔡奇の訓話を聞いていたのである。習主席が蔡奇を通じて、全国党書記と政府秘書長の管理を一本化し、変則的に李強から権力を奪おうとする動きは、外界を驚かせた。

そのため、最近、党の機構改革を経て、事実上、国務院は習主席個人の執行機関へと降格している。主席と李強は対等ではなく、まるで主従関係である。

一方、蔡奇は、3月に中央弁公庁主任、6月に国家安全会議副主席に就任し、李強を凌ぐ権力を増大させた。

以上のように、習主席は党の規則をことごとく無視しているので、党内は混乱状態に陥っている。

〔注〕

(a)『中国瞭望』

「中国人の忍耐にも限界がある」

(2023年9月18日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/09/18/2649335.html)。

(b)『万維ビデオ』

「学者の判断:中南海は明朝滅亡前夜のようだ」

(2023年9月19日付)

(https://video.creaders.net/2023/09/19/2649589.html)。

(c)『VOA』

「聿文ビュー:習近平の雄安『ミレニアム大計画』は『未完成プロジェクト』になるのか?」

(2023年5月15日付)

https://www.voachinese.com/a/deng-yuwen-on-xi-s-visit-to-xiong-an-20230515/7093630.html)。

(d)『中国瞭望』

「習氏は蔡奇を支持、李強は政府秘書の管理権限を剥奪された疑い」

(2023年9月16日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/09/16/2648669.html)。

トップ写真:全国人民代表大会第4回本会議において 習近平国家主席と李強首相 2023年3月11日 中国・北京

出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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