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運輸行政の転換と高岡市「高岡発ニッポン再興」その55

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・高岡市で超高齢化が進む中、公共交通の在り方は大きな問題。

・免許返納者が急増する中、公共交通の空白地を埋めるのは気の遠くなるような時間がかかると思われる。

・今年から、これまで自治体と国が行っていた赤字補てんをやめ、「やる気のある自治体」を支援する制度に転換した。

 

87歳の母親は去年、車の運転をやめました。そのため、買い物や病院に行く際、知人や私に運転を頼んでいます。しかし、私も高岡市議会などで、忙しくなると、母親の要望に応えられません。バスでも乗ってくれればいいのにというのが、ホンネです。超高齢化が進む中、公共交通の在り方は大きな問題です。課題にどう取り組むべきか。

高岡市は2017年秋に財政危機が発覚しました。その後、廃止になったのは、コミュニティバス「こみち」です。こみちは、2つのルートがありましたが、乗客数は少なかったのです。とりわけ深刻だった1つのルートは、地元からの要求で運行が始まったにもかかわらず、乗車数は低迷しました。

これが高岡市にとってトラウマとなりました。「住民は要求しても、実際には乗らない」というのです。こうした点を踏まえ、市が現在進めているのは「高岡型コミュニティ交通」です。乗り合いタクシーを導入して、路面電車の万葉線や、路線バスの加越能バスなどへの乗り継ぐことを想定しています。

乗り合いタクシーについては、現在3つの地区が対象になっています。そのうち、実際に運行されているのは1つの地区だけです。

今回のやり方は基本的には「実証実験をやりたい」と手を上げた地域で、実施する仕組みになっています。地域住民に積極的に関与をしてもらうのが特徴です。ただ、運賃だけでなく、地域住民の負担もあるため、尻込みする地域も多いそうです。高齢化が進み、免許返納者が急増しています。公共交通の空白地を埋めるのは、気の遠くなるような時間がかかりそうです。

一方、万葉線や加越能バス。こちらの経営は極めて厳しい状況です。乗客数の減少で、赤字もどんどん拡大しています。コロナも追い打ちをかけ、昨年度は、それぞれ1億2000万円ずつ赤字補填しました。毎年赤字が出れば、補てん。その繰り返しで、高岡市の公共交通は袋小路に追い込まれています。おそらくこの状況は他の地域でも変わらないはずです。

私は突破口を求めるため、去年の暮れ、国土交通省の幹部職員に会いました。そこで開口一番こういわれました。

「今年は『地域公共交通元年』です。いままでの支援のやり方を大きく転換します。やる気のある自治体を、国は全面的に支援します」。

現在、路線バスなどを運営する交通事業者に対して、自治体と国が2分の1ずつ支援しています。つまり、赤字補てんです。交通事業者にとっては、乗客の少ないバスを運行し、経営状態が悪くても、自治体と国が助けてくれる構図なのです。それは甘えにつながります。乗客数を増やさなくても、交通事業者は基本的には困らないのです。高岡市の公共交通も同じような状況です。

国土交通省の幹部職員は「このままでは、公共交通のサービスの向上や運行の効率化につながらない」と指摘。来年度からは、公共交通を「リ・デザイン」、再構築するというのです。難しい言葉ですが、公共交通に関しては、事業者任せにせず、自治体が地域全体の公共交通を主導しろというのです。赤字補てんから決別し、事業者が経営改善を行うような環境づくりをすることなのです。そうした自治体に国はあらかじめお金を出すというのです。経営改善して収益が改善。補助金が余れば、自治体や事業者の下に、お金が残る仕組みなのです。

この幹部職員は何度も、「自治体のやる気」を強調していました。その上で、やる気のある自治体として松本市を挙げました。松本市では「公設民営バス」をうたっています。どういうことなのでしょうか。私はさっそく、取材しました。

トップ写真:2018年に廃止された高岡市のコミュニティバス「こみち」ブルールート車両 出典:国土交通省ホームページ