「コミュニティバス」の“直球質問”に当局は 「高岡発ニッポン再興」その30
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・公共交通は「誰も取り残さない」とのSDGsに沿った考え方が大事。乗り合いタクシーの実証実験は全市的に実施すべき。
・外出しないと、認知症の発症リスクは高まる。コミュニティバス予算は、福祉の観点も含めて総合的に見る必要がある。
・議会で「きめ細かい路線を張り巡らせるコミュニティバス導入の考えはあるか」と質問。市当局は「予定なし」と一蹴した。
高岡市が打ち出している公共交通ですが、本格運行しているのは、小勢地区と守山地区で、市全体の2%にすぎません。
市全域への拡大という点で参考になるのは石川県加賀市です。乗り合いタクシーが運行していますが、人口の96・1パーセントをカバーしています。ハイエース4台が市内を走り回っています。忙しい時間帯には、セダン型の車両も投入されます。
市内449か所の停留地点と、任意の市内の目的地を結んでいます。距離に関係なく1回500円。市は4000万円投じています。
図)石川県加賀市の乗り合いタクシー運行エリア
出典)加賀市ホームページ
さらに、加賀市は、ソフトバンクとトヨタ自動車が出資するモネ・テクノロジーと提携しています。
乗り合いタクシーに取り付けられている通信機で、必要とあれば、「どういうルートで何時間走ったか」、「どこで乗る客が多いか」など、データを入手できます。
つまり、渋滞する道路や時間帯、事故の起こりやすい場所を分析でき、将来的には都市計画にも利用できるのです。例えば、渋滞が多い道は拡幅工事したりできるようになるのです。ビッグデータに基づく情報が町の形を変えることができるのです。
私は、市当局がこうした乗り合いタクシーの実証実験を全市的に実施すべきだと考えています。手を挙げた地域だけでなく、公共交通である限り、「誰も取り残さない」という考え方が重要だと思います。
それは、国際連合のSDGsにも盛り込まれています。17の目標の1つ「住み続けられるまちづくりを」で、ターゲット、つまり達成手段が盛り込まれています。
「2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者、および高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する」。
つまり、SDGsは交通弱者に配慮し、すべての人々が公共交通機関が使えるように目指すべきだと主張しているのです。SDGsは、経済性や効率性ばかりを追求してきたことを反省し、「誰一人取り残さない」社会を目指しています。SDGsでは、高齢者など交通弱者が生き生きとして暮らしていけるのが、持続可能な社会だとしているのです。
さらに、多くの市民から要望があるのは、コミュニティバスの復活です。私はコミュニティバスを復活するならば、高岡市内のバス事業者に委託して、細かいバス網を張り巡らせるべきだと思うのです。既存の路線バスのルートの修正も含めて、市民ニーズに寄り添う、コミュニティバスが、必要なのです。さらにバス路線が不足している場合、市外含めて別のバス事業者にも協力を仰ぐのも一案です。
その際、思い切った予算が必要です。どのぐらいになるのか。参考になるのは、お隣の富山県射水市です。17路線のコミュニティバスが走っています。料金は一般が200円で、1日乗車券は300円です。射水市はこのコミュニティバスのため、年間2億5000万円つかっています。
高岡市で射水市並みのコミュニティバスを走らせるならば、それ以上の金額がかかるかもしれません。富山県は市町村のコミュニティバスに半分補助を出していますが、高岡市もある程度の出資が避けられないのです。
クルマ依存の社会から脱皮する。そんな都市計画を描くには、きめ細かいルートのコミュニティバスが重要になってきます。1人1台クルマを乗って、渋滞している光景は、脱炭素社会に逆行しています。
また、クルマを使わず、外出しないと、認知症の発症リスクは高まると言われています。部屋に閉じこもっていては、会話もなくなり、発症するというのです。その場合、介護費や医療費の負担はさらに膨らみます。コミュニティバスの予算は、福祉の観点も含めて総合にみなければなりません。導入するならば、ある程度の予算を投じて路線を増やし、高岡市全体の都市計画を描く必要があります。
そこで9月定例会で質問しました。本市では、財政健全化緊急プログラムの終了も踏まえ、きめ細かい路線を張り巡らせるコミュニティバスを導入する考えはあるのでしょうか。
当局は、こう答弁しました。(守山や野村、中田などを対象にした)市民協働型地域交通システムの導入を推進しているところ。議員提案のコミュニティバスを検討する予定はない。一蹴されました。私の完全敗北です。
写真:2018年に廃止された高岡市のコミュニティバス「こみち」のオレンジルートの車両。
出典:国土交通省ホームページ
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。