"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

バイデン大統領をどう評価するか その2 中国に軍事攻勢を許した

KABUL, AFGHANISTAN - AUGUST 15: Taliban take to the streets during a national holiday celebrating the first anniversary of the Taliban takeover on August 15, 2022 in Kabul, Afghanistan. A year after the Taliban retook Kabul, cementing their rule of Afghanistan after a two-decade insurgency, the country is beset by economic and humanitarian crises. Western governments have frozen billions of dollars in Afghan assets as it presses the Taliban to honor unmet promises on security, governance and human rights, including allowing all girls to be educated. (Photo by Paula Bronstein /Getty Images)

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・第二のバイデン大統領の対外政策の特徴はアフガニスタンの完全な喪失。

・第三にはバイデン政権下で中国の野心的な攻勢がより露骨となった。

・第四はバイデン政権の北朝鮮とイランに対する姿勢の明白な後退。

 

さてこの連載の前回「その1」ではアメリカのバイデン大統領の対外政策の評価として第一にロシアのウクライナ軍事侵攻による戦争が起きることを許容した点を挙げた。今回はさらにバイデン大統領の外交面の軌跡を追うこととする。

第二のバイデン大統領の対外政策の特徴はアフガニスタンの完全な喪失である。

アメリカは2001年の9・11同時多発テロ直後からその実行組織のアルカーイダを保護してきたアフガニスタンのタリバン政権を糾弾した。そしてタリバンに宣戦して、首都カブールから撃退し、民主化を進めてきた。2代目ブッシュ政権によるこの平定作戦はその後のオバマ政権、トランプ政権と、20年ほども続いてきた。

トランプ政権はこのアフガン民主化をやがては止める方針を固め、アフガン駐在の米軍の撤退を計画しながらも、なお米軍の一部を長期に残留させ、タリバン抑止の戦略を保っていた。だがバイデン大統領は就任から半年後の2021年8月、唐突に米軍を全面撤退させ、アフガニスタンでの民主的政権の崩壊とタリバン政権の復活をすぐに許してしまった

その過程ではバイデン大統領自身が現地情勢について錯誤の発言を繰り返し、アフガン、アメリカ両側に多数の犠牲を出した。そして長年の民主化活動は一気に瓦解し、アメリカ側陣営にとってのアフガニスタンの完全喪失となった。

第三にはバイデン政権下では中国の野心的な攻勢がより露骨となった。

中国の無法な膨張に初めて正面から対決したのはトランプ政権だった。バイデン政権もその基本を継ごうとはしたが、対中協力をも強調する。なにしろバイデン政権の指導層は大統領自身を始め中国への関与という名の融和政策をとってきたオバマ政権の中枢にいた人物ばかりなのである。

バイデン政権は中国に対して軍事面での対決を避ける姿勢をとった。トランプ政権が中国の抑止として記録破りの増額をした国防予算を事実上の削減にまで抑えてしまった。バイデン大統領は議会からの超党派の圧力で国防費をいくらか増したが、なおトランプ政権の開始した対中防衛強化の「太平洋イニシアティブ」などの経費を大幅に減らした。中国はその後退をつくように台湾などへの軍事攻勢を強めてきた。

バイデン政権は中国の軍事目的の偵察気球がアメリカ領空に侵入しても1週間以上も放置した。議会下院で多数派となった共和党側はこうしたバイデン政権の対中姿勢は軟弱にすぎるとして、新議会の冒頭で中国への対決を強める対中戦略特別委員会を発足させた。

第四の特徴はバイデン政権の北朝鮮とイランに対する姿勢の明白な後退である。

北朝鮮はいまやアメリカを嘲笑するかのような挑発的な軍拡を誇示する。バイデン政権は北朝鮮の核廃絶という歴代米政権の政策目標を強調せず、オバマ政権時代の「戦略的忍耐」策へと戻ったような消極姿勢をみせる。金正恩朝鮮労働党総書記は核兵器と長距離ミサイルの開発を誇示する。

金総書記はトランプ大統領に対しては請い願うというおとなしい態度で会談を求めていた。核やミサイルでの挑発も一切、止めていた。

その理由は明らかにトランプ大統領が金総書記に対して「炎と怒り」という標語で象徴する軍事攻撃の可能性を明示していたことだった。だがいまでは金氏は軍事対決を避けるバイデン大統領に対して傲慢な軍事挑発を続けるのだ。

イランのアメリカに対する姿勢も強硬になった。イランはいまやロシアのウクライナ侵略を堂々と支援する。アメリカにも戦闘的な態度を露骨にする。だがトランプ政権時代にはその同じイランは革命防衛隊の司令官をアメリカ側に暗殺されても牙を向けることはなかった。

バイデン政権は明らかにテロ国家のイランをこれまでよりもさらに反米の冒険主義的行動へと追いやったという印象なのだ。

(つづく。その1

**この記事は月刊雑誌『正論』2023年4月号に載った古森義久氏の論文「国際情勢乱す米国政治の混迷」の転載です。

トップ写真:カブール奪還1周年記念日に気勢を上げるタリバン(2022年8月15日 アフガニスタン・カブール)出典:Photo by Paula Bronstein /Getty Images