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.国際  投稿日:2024/3/5

トランプ陣営の対日政策文書とは その1 米日同盟はアメリカ第一外交の基盤


 

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ第二次政権が囁かれる中、「アメリカ第一政策研究所(AFPI)」がトランプ陣営の対日政策を明らかに。

・「米日同盟は21世紀のアメリカ第一外交政策の成功の基礎を築く」とし、日本との絆を重視している

・トランプ政権下で日本は、全世界規模の民主主義と資本主義の発展と保護を進める、強力な存在として地位を確立していく。

 アメリカの大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領がもし再選されたら、そしてトランプ第二次政権が登場したら、その対日政策はどうなるのか、という議論が日本側でも虚々実々に展開され始めた。その多くが確たる根拠もなく個人の願望や想像を述べているようだ。

 そんな虚論を排するためにも、ここでトランプ陣営の明確な対日政策の骨子を紹介しておこう。このサイトでもすでに言及したトランプ陣営のシンクタンクアメリカ第一政策研究所(AFPI)が最近、作成した政策文書である。

 その文書に盛られた対日政策の最重要部分をまず冒頭で明記すれば、以下のようになる。

(1)トランプ陣営が唱えるアメリカ第一外交政策においても日米同盟は礎石となる。

(2)アメリカは日本が軍事能力を高めるため、憲法の改正やアメリカとの核シェアリングをも期待する。

 AFPIはトランプ前政権の最大の政策標語「アメリカ第一」を名称に冠して、同大統領が退陣してわずか3カ月後の2021年4月に創設された。この機関は、まさにトランプ陣営の政策シンクタンクとして機能してきた。学術研究機関でありながら、トランプ氏自身の政治標語「MAGA」(米国を再び偉大に)を常時掲げており、その党派性は明白を極める。

AFPIの理事長、所長を務める2人の女性はともに、トランプ政権の閣僚級高官だった。理事や研究員も大多数はトランプ陣営に関わってきた。米ワシントン中心部の堂々たるビル内に本部を置き、常時100人以上のスタッフが活動している。選挙戦に臨むトランプ陣営は政策面で内政・外交ともにこの研究所に依存してきた。

 同研究所にアジア部門に対日政策について問い合わせると、「これが当研究所としての日本に関する政策の総括です」として、かなり長文の政策文書を提供してくれた。約4000語に及ぶ同文書のタイトルは「米日同盟は21世紀のアメリカ第一外交政策の成功の基礎を築く」とされていた。日米同盟アメリカ外交にとって、特にトランプ陣営が主唱するアメリカ第一外交にとって、不可欠だと言うのである。その内容を読み進むにつれ、このトランプ陣営の研究所が日本との絆を超重視していることを実感させられた。

 そこでこの対日政策文書の全文をこのサイトで紹介することとした。もしかすると来年1月に登場するかもしれない第二次トランプ政権の日本に対する政策を占ううえで有益な資料であることはまちがいないからだ。

 この文書は冒頭の総括と8章にわたる分野別・課題別の記述、そして結論から成っている。では冒頭からその全文を紹介していこう。

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「米日同盟は21世紀のアメリカ第一外交政策の成功の基礎を築く」

 日本は故安倍晋三首相の戦略的なビジョンによって、アジアにおけるアメリカ主体の同盟システムの外交的、かつ軍事的な礎石へとみずからを構築した。アメリカにとっては日本がアジアをも超えるグローバルな影響力を保つ責任ある利害共有国への進化を続け、世界規模で民主主義と資本主義の発達と保護を担う勢力としての自然な位置を占めることは、死活的な利益となる。

 アメリカ、日本、台湾は第一列島線を共産党の中国の攻撃から守るための合同軍事司令部を創設しなければならない。その必要性はこの三者すべてにとって生存にかかわるからだ。安倍晋三氏は首相時代に以下のような趣旨の言明をした。

 「日本だけでは中国の軍事力には均衡をとれない。だから日本とアメリカはその均衡を得るたにに協力しなければならない。米日同盟はアメリカにとっても死活的な重要性を有するのだ」

「強い日本」はアジアでの「強いアメリカ」を支える

 ここ20年以上にわたり、日本はアジアにおけるアメリカ主導の同盟システムの外交的かつ軍事的な礎石となってきた。今後も日本はその進化を続け、アジアを越えるグローバルな影響力を有する、不可欠な責任ある利害保持者への道を歩み続けるべきである。そして日本は全世界規模の民主主義と資本主義の発展と保護を進める強力な存在としての自然な地位を保つこととなろう。

 第二次世界大戦後のアメリカの日本に対する政策は、日本をアメリカに依存させ、日本領土をアメリカの戦略的な軍事基地の拠点として使うことであり、意図しないまま、日本の潜在的な力を抑えてきた。しかしいまや21世紀が前進するにつれて、アメリカは中東などでの選択の余地のある戦争に振り回され、しかも「アジアへの転回」という言葉だけの構えに10年もの歳月を浪費した。その間、日本はアメリカのこの欠陥を埋めるような動きをとり、地政学的に着実な道を前進した。

 アメリカはいまやこの日本の前進のプロセスに関与し、しかも以前のように日本に指図したり、日本の軌道に干渉や管理を試みる必要性がない、という好ましい状態となった。なぜなら日本は自国自身の決定として正しい道への前進を明確にして、アメリカの負担を共有して軽減するという状態になったからだ。

 安倍晋三首相の下で日本は自国自身の防衛力を強化し、アジア地域での影響力を明示するという方向へ積極的に動いた。安倍氏は首相の座を離れた後も、その主張の言葉をさらに積極果敢に打ち出したが、暗殺者により沈黙させられてしまった。

 安倍氏の後継者の岸田文雄首相は安倍氏と同様の積極果敢な軌道を継続することへの意欲を明確にした。この姿勢は中国、ロシア、そして北朝鮮を怒らせることとなった。だがそれは好ましい現象だった。

 このように進化する状況はアメリカにとっても、日本にとっても、さらにアジア全体にとっても好ましいことである。世界のパワー・ポリティックスは変わったのだ。日本は中心的な役割を増していくのだ。この日本の動きを将来も支援することはアメリカの国益にも合致するのである。

(その2につづく)

トップ写真:2019年6月28日 大阪で開催されたG20サミットに集まる各国の首脳達 出典:Tomohiro Ohsumi / GettyImages

 



 




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