"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

水の如くしなやかに「新入社員へ贈る言葉」その4

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・迷ったら、普通の日本人ならどのように言ったり、行動したりするか、考えると良い。

ブルース・リーが残した言葉「Be water」は、水の如く柔軟性を持って生きた方が良いという意味。

・「日本人的」な言動をとり、「Be water」になれば、人生は拓け、楽に生きていけるのかもしれない。

 

私のささやかな人生経験から学んだ事をお話したいと思います。私は、実社会と異なるアカデミズムの世界でずっと生きて参りました。そのため、新入社員の皆様へ贈る言葉など、大それた事を申し上げられません。なぜなら、実社会とアカデミズムはかなりの乖離があるからです。

私が勤めていた拓殖大学でも、海外事情研究所という所は極めて特殊な部署した。真面目に研究さえしていれば、上司から文句を言われる事はありませんでしたし、先生達同士はフラットな関係ですので、上司に気を遣ったり、周りに気を遣ったりする必要もありませんでした。そして、嫌な仕事を押し付けられる事もなく、今、思えば、天国のような職場でした。

最近、つくづく思う事があります。それは、アカデミズムの世界でも、日本人がその世界を作っている以上、そこは“日本社会”なのです。したがって、「日本人的」な言動を行っていれば、周りの人達から好かれます。たぶん、周囲との摩擦も少なくなるでしょう。そして、そういう人が“出世して行きます(大学の場合、学科長、学部長、学長等になりますと、研究する時間が取れなくなりますので、本当に“出世”する事が良いかどうかわかりませんが)。

私は「日本人的」な言動をずっと怠って参りました(性格的に尖っていました)ので、一時、アカデミズムの世界でも生きづらかったです。

しかし、ある時、ここは“日本社会”なので、「日本人的」に振る舞えば、きっと楽に生きられるのではないかと気付きました(今では、気付きが遅かったのが悔やまれます)。その後は、お陰様で、楽に生きて来られた感じがします。

もし、何か迷った時には、「普通の日本人ならば、どのように言うだろうか、どのように行動するだろうか」と考えると良いのではないでしょうか。

そうすれば、大過なく過ごす事ができると思います。困難と思える事も何とか切り抜けられるのではないでしょうか。おそらく、周囲から評価されるはずです。もし、出世を望めば、それが叶う可能性も高くなるでしょう。

更に、申し上げますと、早逝した世界的な映画カンフースター、ブルース・リー(李小龍)の語った言葉、「Be water」には非常に含蓄がありますので、紹介します。

リーは米国生まれの香港育ちで、32歳の若さで亡くなりました。父親は、広東演劇の役者、李海泉で、母親は、白人と中国人のハーフの何愛瑜です。

リーは子役で映画に出演していましたが、『グリーン・ホーネット』で日本人のカトウ役で本格的デビューを果たしました。そして、『ドラゴン危機一発』で香港のトップスターに躍り出ます。その後、『ドラゴン怒りの鉄拳』、『ドラゴンへの道』、『燃えよドラゴン』で世界的スターに上り詰めました。カンフーの天才でしたが、やはり売れるまでは、様々な苦労があったようです。

さて、リーは、ワシントン大学の哲学科を卒業しているせいか、実に “哲学的”なフレーズ「Be water」を残しています(それは、香港人が「雨傘革命」以降、中国共産党に抵抗する際にも、一部の人達に使用されました)。

「Be water」、直訳すれば「水(のよう)になれ」ですが、おそらく「水の如く“しなやかに”生きよ」と言う意味ではないでしょうか。決して「周りに流されながら生きよ」という事ではないと思います。

自分という何ものにも代えがたい自我を持ちつつも、水の如く柔軟性を持って生きた方が良い、という意味だと解釈できます。

結局、夢に向かって進む時、あるいは、人生が辛くなった時には、

(1)「日本人的」な言動をとる、そして、もし可能ならば(2)「Be water」となる、そうすれば、人生は拓け、楽に生きていけるのかもしれません。

末筆ながら、新入社員の皆様には、人生でたくさんの“幸”が訪れるよう、心よりお祈り申し上げます。

トップ写真:中国系アメリカ人の武術家ブルース・リー(1970年代前半)出典:Photo by Archive Photos/Getty Images