経済悪化で習政権窮地へ 【2024年を占う!】国際・中国内政
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・習政権は集団的指導制から離れ、すでに個人独裁制へ。不確実性増し予測困難。
・習派と「反習派」の熾烈な党内闘争が行われ、習主席の部下らも紛争避けられず。
・2024年も経済悪化歯止めかからず、党内分裂で習政権の終焉を見る
かもしれない。
俗に「来年の事を言えば、鬼が笑う」と言われる。特に、中国のような独裁制国家の予測は難しい。1982年以降、中国共産党内では、一応、ルールができ上っていた(a)。そのルールに従って、党内が機能していれば、一定の予測が可能だった。
ところが、習近平政権は、(「権威主義体制」的な)集団的指導制から遠く離れ、すでに個人独裁制へ移行している。そのため、不確実性が増し、予測が困難となっている。
だが、本稿では、敢えて来年の中国政治を展望する。
周知の如く、秦剛前外相と李尚福前国防部長が相次いで失脚(b)した。習主席の肝煎りで2人は抜擢された。だが、理由は不明である(しばしば「腐敗」や「重大な規律違反」というレッテルは、習政権が誰かを恣意的に失脚させるための口実に過ぎない)。
ひょっとして、2人ともロケット部隊の中国ミサイル施設の漏洩問題に関与したかもしれない(ちなみに、李玉超ロケット部隊司令官の米国留学中の息子がリークしたと言われる)。更に、「秦前外相はすでに亡くなっている」という説まで登場(c)した。北京の301病院の中で、自殺したか、拷問に遭って死んだという。
一方、李克強前首相が”変死”を遂げた(d)。元老達が目論んだ「李上習下」を習主席が恐れ、機先を制し、李前首相を殺害した可能性を排除できないとの報道も(e)。
それに対し、元老&「紅二代」である劉源と王岐山の反撃が開始された。
李前首相の葬儀直前、11月1日、劉少奇の息子、劉源は個人独裁を批判する「民主集中制を確立・堅持し、組織・制度構築を強化する」と題する記事を『毛沢東思想研究』というウェブサイトと機関誌へ投稿(f)した。
劉源は民主集中制(党内民主主義)の原則を強調し、少数は多数決に従うべきだと強調した。これが、「反習派」の「紅二代」による習主席への攻撃の嚆矢となった。
一方、11月6日、王岐山は自らが牛耳る『財新』で、次のような社説(g)を掲げた。
今日、中国の経済と社会が直面する課題に対して、人々は「改革・開放」の新たな大躍進を期待し、将来の中国に新たな改革の配当を生み出すことを待望している。「長江と黄河は逆流しない」(李克強の言葉)という改革は駅伝のようなもので、バトンからバトンへと受け継がれる必要がある。
しかし、かつて王岐山の秘書だった董宏と田恵宇が、党規律違反で失脚(h)した。王岐山が習主席と対立した以上、当然の帰結かもしれない。このように、目下、習派と「反習派」との間で“食うか食われるか”の熾烈な党内闘争が行われている。
さて、李強首相と党務を担当する蔡奇が習主席の権力の一部を分担している。近頃、主席が徐々に権力を移譲させようとしている兆候が見られる(i)という。しかし、学者達は、主席は常に調停者の役割を果たし、最終的な決定権を持つと主張する。
彼らは習主席の部下であっても、背景が同じではない(李強は「浙江幇」で蔡奇は「福建幇」)(j)。戦利品の不均等な分配、寵愛を受けるための競争などで、党内での紛争は避けられないという。
結局、2024年、習政権は経済悪化に歯止めがかからない公算が大きい。そこで、ひょっとすると、来年、党の内部分裂で中国共産党政権の終焉を目の当たりにする(k)かもしれない。
〔注〕
(a)『VOA』
「第20期3回全会の度重なる延期がなぜ注目されるのか。『三中全会』と中国共産党の会議システムを理解する」(2023年12月3日付)
(https://www.voachinese.com/a/7381851.html)。
(b)『万維ビデオ』
「第二の秦剛、また副国級レベルが捜査されたか?」(2023年9月7日付)
(https://video.creaders.net/2023/09/07/2645611.html)。
(c)『自由時報』
「外国メディアは7月に秦剛がすでに死亡したと報じた ロシア外務次官が習近平に〔中国ロケット軍が米国への自国ミサイル部隊に関する情報をリークした件を〕密告し、ロケット軍が粛清されている」(2023月12月7日付)
(https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/4513680)。
(d)『中国瞭望』
「李克強の上海での急死に関する新報道」(2023年10月31日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/10/31/2664649.html)。
(e)『万維ビデオ』
「衝撃的な噂:李克強が亡くなる前、反習派は習近平の後継者を準備していた」(2023年10月30日付)
(https://video.creaders.net/2023/10/30/2664150.html)。
(f)『六度世界』
「習近平訪米前、紅二代による突然の攻撃に遭う? 劉源:個人独裁に反対する! 劉少奇の息子が1万字の長文:党の指導は集団指導であり、個人による指導ではない」(2023年11月8日付)
(https://6do.world/t/topic/210762)。
(g)『財新』
「社説|改革には新たな突破口が急務だ」(《财新周刊》 2023年第43期)
(2023年11月6日付)
(https://weekly.caixin.com/2023-11-04/102124637.html)。
(h)『中国瞭望』
「おそらく王岐山もこの場面を予想していなかっただろう」
(2023年11月14日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/11/14/2669304.html)。
(i)『万維ビデオ』
「習近平の健康状態により、政権は次のように構成されるだろう」
(2023年11月29日付)
(https://video.creaders.net/2023/11/29/2674290.html)。
(j)『万維ビデオ』
「この時、この時点で、習家軍は紛争が深刻であることが明らかになった」
(2023年12月7日付)
(https://video.creaders.net/2023/12/07/2677131.html)。
(k)『中国瞭望』
「蘇暁康:習政権は崩壊し始めている」(2023年7月18日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/07/18/2628270.html)。
トップ写真:建国74周年の祝賀のスピーチ後、乾杯する習近平国家主席(2023年9月28日 北京)
出典:Photo by Andy Wong-Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。