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.国際  投稿日:2023/6/12

中国若年層の真の失業率


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

 

【まとめ】

・中国の4月失業率は5.2%、人々の実感と異なる。週1時間勤務で「就業」と基準が低いためか。

・失業中の若年層はコロナ流行前より2500万〜3000万人多い。雇用市場全体の約6.2〜7.5%。

・企業の採用減少と経済成長鈍化で今後、数年間は雇用問題がより深刻化か。

 

中国当局の発表した今年(2023年)4月の全国都市調査失業率は5.2%で、前月より0.1%ポイント低下(a)した。現地(出身地)戸籍労働力調査失業率は5.1%、他省市からの外来戸籍失業率は5.4%で、このうち農業戸籍(いわゆる「農民工」=「出稼ぎ労働者」)失業率は5.1%だった。

16〜24歳、25〜59歳の失業率はそれぞれ20.4%、4.2%である。25〜59歳の労働力のうち、中卒以下は4.5%、高卒は4.6%、短大卒以上は4.0%、大卒以上は3.1%だった。

だが、一部の研究者は、これらの数値は統計的に不正確(b)だという。

微信「金融イレブン」に掲載された北京改革発展研究院の王明遠研究員の論文では、全体の失業率は人々の実感と明らかに異なると論じている。王は、失業率統計が歪んでいる理由を分析した。

第1に、中国当局は「就業」基準を低く設定した。国家統計局のホームページによれば、週1時間働くと「就業」となる。それとは対照的に、米国は15時間以上、フランスは20時間以上働かないと「就業」とは見なされない。他方、国際労働機構(ILO)は1週間に10時間以上の勤務で「就業」(c)だと規定している。

第2に、中国の就業率は都市部人口を対象にした調査だが、農民工も集計し始めた。だが、農民工たちは失業後、生活のために帰郷する場合が多い。したがって、調査では失業した農民工を選別するのは困難である。

第3に、中国は現在2億人の「フレックスタイム」就業者がいて、都市部就業人口の約40%を占めている。しかし、彼らの社会保障加入率は20%未満で、失業保険受給や失業登録を通じてだけでは、実際の就業状況を把握することが難しい。

王明遠によると、中国では毎年「再就職者」の数が「定年退職者」数とほぼ同じで、新規就業者は主に大卒新入社員で構成されている。

2013年から2019年まで大卒新入社員数が1300万人前後まで増え、初就職市場の需給はほぼ均衡していた。

しかし、新型コロナ発生以降、雇用情勢は根本的に変わった。毎年、新規雇用が急激に減少する一方、企業が採用拡大で中等職業学校卒業者と短大卒業者が急増した。また、帰国留学生数も日増しに多くなり、就職市場の雇用不足が深刻化している。

失業者数に関しては、A株上場企業(上海・深圳証券取引所で、人民元で取引)の平均従業員数が新型コロナ流行以前より11.9%減少し、中小企業の昨年の市場退出率(登記抹消率)は約10%と推算されている。

さて、王明遠は、16~24歳の失業率20.4%という数字が若者層全体を代表するものではない(d)と論じている。特に16~20歳は、もともと高等教育へ進学しなくても就業率が高くなく、ずっと18%以上を維持している。そこで、王は若年層失業率を新たに定義するため、独自に“16~40歳”の年齢層を選んだ。

王の推計では、新型コロナが流行した3年間で、新卒者のうち累積で約1500万人が就職せず、企業就業者の約10%が失業しているという。そのうち約2500万人が16〜40歳である。

 

他方、王は盧鋒北京大学教授の研究を引用し、過去3年間に少なくとも2300万人の農民工が失業して帰郷し、そのうち約1400万人が若者だと推定されるという。つまり、コロナ流行以降、約5400万人(1500万人+2500万人+1400万人)の若者が失業していることになる。

一方、こうした失業者の中には、例えば、滴滴ドライバーは3年間で1200万人以上、また、宅配便、配達員等のような「フレックスタイム」就業者は約800万人に増えた。けれども、全体の半分の2500万〜3000万人は依然、失業中だという。

以上から、失業中の若年層の絶対数は控えめに見積もっても、コロナ流行前より2500万~3000万人多い。この年齢層は、雇用市場全体(4億200万人)の約6.2〜7.5%に相当する。

更に、王明遠は、企業の採用減少と経済成長鈍化により、今後、数年間は雇用問題がより深刻化するのではないかと危惧する。なぜなら、農村の経済規模は、「ファーウェイ」の10社分、「ペトロチャイナ」の3社分、「京東」(Webサービス会社)の7.5社分程度である。高学歴の若者100万人か200万人を就職させるのがやっとだろう。

この10年間、中国の雇用増は基本的に民間経済の発展によって生み出されてきた。そこで、今後、北京政府は民間経済、特にデジタル経済とサービス業を支援し、若者の起業を奨励する必要があるのではないかと王は主張する。

〔注〕

(a)『中華人民共和国国家発展改革委員会』

「2023年4月の全国都市調査失業率は5.2%に」

(2023年5月25日付)

https://www.ndrc.gov.cn/fggz/fgzh/gnjjjc/jyqk/202305/t20230525_1356377.html)。

(b)『DW』

「週1時間労働は就業にあたるのか? 中国の失業率統計をめぐる論争」

(2023年6月6日付)

https://www.dw.com/zh/%E6%AF%8F%E5%91%A8%E5%B7%A5%E4%BD%9C%E4%B8%80%E5%B0%8F%E6%97%B6%E7%AE%97%E5%B0%B1%E4%B8%9A%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%A4%B1%E4%B8%9A%E7%8E%87%E7%BB%9F%E8%AE%A1%E5%BC%95%E4%BA%89%E8%AE%AE/a-65837480)。

(c)『経済日報』

「中国の失業統計は歪曲されている 学者が新型コロナ発生後、3000万人失業青年増加したと指摘」

(2023年6月4日付)

https://money.udn.com/money/story/5603/7212300)。

(d)『中国瞭望』

「衝撃の事実!中国統計局は失業率を下げるためにこんな方法を考案」

(2023年6月6日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/06/06/2614388.html)。

トップ写真:中国・北京で開かれた就職説明会で採用担当者と話す就職希望者たち。ゼロコロナ政策を経て中国の若者の失業率は過去最高水準にあり、今後さらなる悪化も懸念されるという。(2023年6月9日 中国・北京市)

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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