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時には『逃げる勇気』も必要だ「新入社員に贈る言葉」その10

佐々木倫子(文筆家/金融アナリスト)

「佐々木倫子の世の中診断 ~人新生を生き抜くヒント~」

【まとめ】

合わない仕事を心や体の健康を害するまで挑む必要はない。時には「逃げる勇気」も必要。

重要なのは、サントリー創業者の鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」精神で挑み続けること。

自分の世界を確立し自立することは、幸せな生活が送れる近道に通じている。

 

さくらの季節はいつもウキウキして楽しい。この時期、真新しいスーツに袖を通した新入社員と思しき人たちが、キラキラとした輝きを放ち、仲間と共に談笑している姿を見ると思わず微笑んでしまう。

 私は短大卒業後、地元・秋田の秋田銀行に就職した。研修後、秋田に帰ると思いきや、東京で学生時代を過ごしたという理由から東京支店に配属される。それを内示された時は青天の霹靂だったが、また友達と気軽に会える喜びに心が躍ったことを昨日の事のように思い出す。その後、東京支店で仕事を始めるや否や、やる気に満ち溢れているもののミスが多かった。上司や同僚に散々迷惑をかけ、すぐに意気消沈する日々に変わっていく。時にミスをして、ものすごく臭いゴミ置き場で伝票をあさったこともあるほどだ。そんな日が続いたが、3年ほど経つと休暇の人の代役を担うまで成長できた。しかし、当時は、そんな日が来ると微塵も思えない日々だった・・・

 仕事に慣れてくると日本の銀行の雰囲気がどうもしっくりこず、シティバンクに転職する。両親からは、いまだにチクチクと「なぜ、秋田銀行を辞めたのか・・・」と言われているが、一生付き合える友達や先輩に出会えたことや、自分の根底にある価値観の形成に一役買ったため、人生で最良の選択をしたと思っている。

 社会に出てから今日まで、とにかく自分ができることを一生懸命やろうと思って取り組んできた。いまだに至らない点は多いものの、多くの方のおかげで今やりたい仕事をしている。これまで5、6社経験してきたが、時に部下との関係に悩み、他の課に異動になるも散々な仕事ぶりで結局、逃げるようにして辞めたこともあった。

 私は理不尽な同僚や上司などの人間関係や、物事、本当に自分と合わない仕事だった場合、心や体の健康を害するまで挑む必要はないと思っている。真面目な人ほど問題を抱え込みやすく、悩むことも多いと思う。時には「逃げる勇気」も必要だ。時が過ぎ、部下との関係で苦悩を抱えていた時代を振り返ると、自分が反省すべき点ばかりだったなと思うものの、逃げるように辞めたことは当時の私にとって必要なことだった。また、困難な状況を乗り切る上で、友人や先輩など、自分の状況を把握している方々に相談できる環境があったことは大きな支えであった。これは、私の心理的負担をかなり軽減してくれた。

仕事をする上で重要なのは、サントリー創業者の鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」の精神で挑み続けることだと私は思う。そして、私利私欲を捨て挑むことで、後に意外な形で返ってきて救われることも少なくない。私は逃げるように辞めたこともあるので説得力はないかもしれないが、忘れた頃の恩で実際にピンチを脱したことがあった。そのため、まずはガムシャラに与えられた仕事をやってみることをオススメしたい。仮に結果がついてこなくとも自信につながり、そこから見えてくることは多いと思う。また、自分の世界を確立し自立することは、プライベートにもいい影響を及ぼし、幸せな生活が送れる近道に通じているようにも思う。

トップ写真:イメージ 出典:piskunov/GettyImages