ジャニーズ事務所の問題が明らかにした「企業と人権」【日本経済をターンアラウンドする!】その15
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・サントリーの対応は企業として当たり前の行動。
・商品宣伝プロセスでの人権侵害は対応せざるを得ない。
・我々は問題行動には声を出すこと、そして、社会として「検証」していくべき。
どう考えても醜い。児童に性加害を日常的に加える、それを我慢させる、加害に対して芸能界でのデビュー(=華々しい成功)をちらつかせる。
まさに、児童虐待。それも東山社長が「鬼畜の所業」という言葉が正確に思えるほどだ。
ジャニーズ事務所はそうした事態を放置し、黙認してきた。ジャニーズ事務所に対して「厳しいんじゃね?」という方々がいるが、そういう人は、過去の暴露本や、「街録」で聞くことができる大島幸広さんの証言、kis-my-ft2の初期メンバーの飯田恭平さんの証言(TBS news dig)を聞いた方がいい。
被害を受ける。逃げられない。我慢しないといけない。しかし、チャンスを逃したくない、でもきつい。矛盾のなかで苦悩する心理状況。数多くの人がどれだけ苦しめられていたのか、がわかる。
人権NGOでビジネスと人権について活動をしていたものとして、企業が求められるその社会的責任について考えたいと思う。サントリーの対応は企業として当たり前の行動だからだ。
■ ビジネスと人権、グローバルスタンダードからしても当たり前
企業は投資家、株主、取引先、消費者などのステークホルダーから色々なことを求められている。最近では、儲け市場主義ではなく、社会的責任を果たす存在になっている。たんなる「宣伝」「広告」としてSDGsにかかわるだけでなく、社会問題解決のためのビジネスを企画、実行しつつある。その中で、人権侵害はリスクとして認識されている。特に、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、企業活動における人権尊重のベースとなっている。
政府の「ビジネスと人権」に関する行動計画」において、人権デュー・ディリジェンスの導入が求められている。具体的には、人権への影響を特定、予防、軽減、影響評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信などが求められているのだ。
これまでプライチェーンでの「人権リスク」について企業は行動を求められ、多くの企業が対応してきた。具体的には商品の製造工程における途上国の工場などで人権侵害が行われていないかが問われ、企業はきっちり対応してきた。
さて、今回の事例は、商品宣伝において、人権侵害が行われていた企業と契約先していたことになり、法務省の「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応」「ビジネスと人権に関する調査研究」報告書によると以下の部分が該当する。
㉔サプライチェーン上の人権問題
企業のサプライチェーン上で人権侵害が発生すること
・指導原則では、自社内部で発生しうる人権に関するリスクのみならず、サプライチェーン(原料生産・調達から、製品・サービスが消費者の手に届き使用・廃棄されるまでの一連のプロセス)全体で発生しているリスクに対しても対応することが求められている
商品宣伝プロセスでの人権侵害、その意味で、対応せざるを得ないのだ。
■ サントリーの統合報告書を見れば、わかる!
それではサントリーの統合報告書を見てみよう。「2023サントリーグループ サステナビリティサイト」として、サントリーグループはサステナビリティについて報告を行っている。
▲写真 出典:「2023サントリーグループ サステナビリティサイト」より
そこでは、「人権方針」を明確に示し、人権デューデリについても、そのやり方などしっかりと記載している。
▲写真 出典:「2023サントリーグループ サステナビリティサイト」、p84
人権方針で「自らの事業活動に関わるすべての人の人権を侵害しないことに努め」と宣言している。この方針に従えば、「オールフリー」のCMにSixTONESの松村北斗さんを使用しているのにもかかわらず、新浪さんが明言したところは当然のことになります。
■ 企業はもう一度「人権」「人間の尊厳」を再考しよう
今回の問題は、巨大権力になったジャニーズ事務所に対してメディアをはじめ誰も疑義を挟めなかったということなのだ。多くの人の暴露や告発が取り上げられなかった。まさに、日本社会の「長いものには巻かれろ」的な権威主義社会の一面を示したものであろう。社長自ら「人類史上最も愚かな事件」と述べた事件を20年前の裁判で敗訴したにもかかわらず放置していた会社とは付き合えないというのは当たり前のことだ。
特に、消費者団体、行政機関も批判を受けても仕方ないだろう。噂があることは知っていたのなら、その有無を契約時に確認したのか?質問したのか?と問いたい。
過去の担当者に厳しい言い方だが、人権原則に従えば「見過ごしてきた」と評価されても仕方ないわけで、今からでも検証を求めたいところである。
告白した元ジャニーズの方々の発言「告発しなかったことで被害者を増やしたかもしれない」とまで悩ませてしまったことに対して、我々は問題行動には声を出すこと、その勇気をたたえないといけない。そして、社会として「検証」していくべきだろう。
トップ写真:サントリーホールディングス本社(2014年1月14日 東京・港区)出典:Photo by Keith Tsuji/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。