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課題先進都市・大牟田市に学ぶ①空き家と孤立の課題解決は 高岡発ニッポン再興」その78

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・福岡県大牟田市の牧嶋誠吾氏は空き家と住宅確保が困難な人をつなげている。

・住宅確保に困っている人に空き家を安く貸せれば市営住宅を減らせる。

・居住支援協議会は住宅確保が難しい人を支援している。

 

先日、私が住んでいる高岡市の自治会で、80代女性の孤独死がありました。そしてその直後、同じく近所で、50代女性が栄養失調で倒れているのが、警察に発見されました。

1人暮らしの人の危機を身近に感じました。どちらの家も、今後空き家になる可能性が大きいです。こうしたケースは今後とも増え続けるでしょう。空き家や孤立の問題にどう取り組むべきか。私は頻繁に、霞が関官僚や全国の自治体関係者と連絡をとっています。専門書も読み込みます。高岡の解決法を探るためです。

最近注目しているのは、福岡県大牟田市の牧嶋誠吾さんの取り組みです。大牟田市と言えば、旧炭鉱の町として知られていますが、人口は、ピーク時の半分ほどになっています。牧嶋さんは、25年間市職員として、住宅政策と福祉政策などに精通。「一言でいえば、私の仕事は空き家と住宅を確保するのが困難な人をつなげることです」。

▲写真 牧嶋誠吾さん(筆者提供)

空き家にしても、住宅を確保するのが困難な人にしても、今後急増するでしょう。私は、時代のニーズに合う政策だなと思って、興味深くお話を聞きました。住宅部局と福祉部局。2つを経験したからこそできた仕事でした。

牧嶋さんは「福祉と住宅をつなぐ」(学芸出版社)という著書も出していますが、空き家を活用したようと思った理由をこう述べます。

「大工さんたちが当時大切に造った家が空っぽになり、誰も使うことなく放置されているのが『もったいない』という発想から」なのです。

建築住宅課長だった牧嶋さんは、空き家は大事な地域資源ととらえ、住宅確保に困っている人に安く貸せれば、市営住宅を減らすことにつながると考えました。市営住宅はいったん造れば、人件費や管理費などが必要になります。

平成23年、「空き家対策は住宅政策」とし、空き家をどうすれば、高齢者など住まいを見つけるのが困難な人に貸せるのか。牧嶋さんは、不動産関係者などと議論しました。すると、さまざまな課題が見えてみました。孤独死が発生した場合、物件の価値が下がるなどの問題点を指摘する声などがありました。入居後に認知症になったらさまざまなトラブルに巻き込まれるという懸念もありました。

こうした中、牧嶋さんは、国土交通省の居住支援協議会の存在を知りました。居住支援協議会とは、住宅を確保するのが難しい人を支援するための組織です。国土交通省から補助金が出て、都道府県や市町村単位で設置できるのです。

牧嶋さんはさっそく、申請しました。しかし、人口10万人程度の地方都市が申請するのは、当時、珍しいことだったことから、国土交通省はさまざまな質問をしてきました。

大牟田市はなんとか、クリアーして、平成25年、居住支援協議会を立ち上げたのです。不動産や医療・福祉に関する官民の団体がメンバーとなりました。

居住支援協議会はまず、空き家の実態調査を実施しようとしました。ただ、住宅・土地統計調査によると、6万戸弱の住宅の調査になります。調査会社に依頼すれば、数百万から数千万円の費用がかかります。誰に調査してもらうのか。牧嶋さんはある人々の存在を思い浮かべました。それは、福祉関連の部署に配属された経験が生きてきました。

(続く)

トップ写真:大牟田市の空き家 出典:大牟田市の空き家情報サイト 住みよかネット