"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

ハマスに「落としどころ」はない

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#50

2023年12月11-17日

【まとめ】

・イスラエルはハマス殲滅の目的を達成するまで、南部の掃討作戦を止めることはなさそう。

・ハマスの「非戦闘員を巻き込む」戦法に、イスラエルの「非人道的民間人殺害」も続く。

・ハマスに「落としどころ」はない。何人死んでも「天国に昇っていく」だけだから。

 

本稿は早くも2023年の第50号目となる。ということは、今年もあと2本しか残っていない、ということか。色々な事件があった一年だったが、2023年の回顧は来週、24年の展望は再来週に書くこととし、今週は最近中国関係で持った感想をいくつか書いてみたい。まずは、我がキヤノングローバル戦略研究所の活動から・・・。

先週末、都内某所で「ポスト台湾有事」と題する政策シミュレーションを実施した。2009年に始めたこの種の知的演習も今回で何と43回目である。今回も新進気鋭の国会議員、公務員・自衛官、学者、ビジネス・ジャーナリズムの精鋭が約40人も集まってくれた。何と有難いことだろう。手法は進化し、参加者の世代交代も進んだ。

という訳で、今回もコントローラーの仕事は同僚に丸投げし、ふと過去14年間の歩みを振り返ってみた。当時日本では政策シミュレーションを一泊二日24時間で実施することなどなかったと思うが、近年は日本でもこの種の本格的な「台湾有事」シミュレーションが方々で実施されているようだ。この点は誠に喜ばしい限りである。

しかし、問題は中身だ。欧米で行われるこの種のシミュレーションは実に奥が深い。軍事作戦実施に法的制約が少ないため、状況判断や政策判断は非常に実務的かつスムーズに進んでいく。ところが、日本で行われるこの種の演習では、中国側の「軍事侵攻」を想定するためか、自然と多くの時間が「事態認定」に費されてしまう。

手前味噌ながら、先週末に行った演習はこれとは一味違う。想定では、中国側が武力攻撃に至らない「非有事的」危機を作り、情報戦や経済的威圧等を駆使することが中心。事柄の性質上、シミュレーションの詳細には立ち入らないが、一部については今週の産経新聞WorldWatchに書いたので、時間があればご一読願いたい。

中国関係でもう一つ触れたいのが歌手・谷村新司氏の逝去だ。筆者が2000年から北京の日本大使館文化部にいた頃、当時様々な日中文化交流事業を進めていた谷村ご夫妻にお会いする機会があった。「歌を通じて日中友好を促進する」、今では実施自体が難しい大事業だったが、谷村さんはとにかく精力的だった。

その谷村さんが10月亡くなった。今週都内で「谷村新司を送る会」が開かれたが、会場で流された映像を見て、谷村さんがアリス結成前の学生時代にアメリカ演奏旅行を決行したことを知った。待てよ、筆者は当時ロサンゼルスで彼の歌を聞いたことがあるぞ。当時から谷村氏はもの凄い歌手だった。心からご冥福をお祈り申し上げる。

最後は、いつものパレスチナ情勢だ。筆者の見る現時点での状況は次の通り。

●戦闘を再開したイスラエルはこのままハマス殲滅作戦を遂行する気だろう。今後も目的を達成するまで、南部の掃討作戦を止めることはなさそうだ。

●先週も述べたことだが、ハマスの戦闘方法は国際法違反の「非戦闘員を巻き込む」戦法だ。さればイスラエルの「非人道的民間人殺害」も続くだろう。

●落としどころは何かとよく聞かれるが、ハマスには「落とす所」などない。パレスチナ人の戦闘員や民間人が何人死んでも、彼らは「天国に昇っていく」だけなのだから。

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:イスラエルによる空襲後、破壊された建物を捜索する人々(2023年11月17日 ガザ南部カン・ユニス)

出典:Photo by Ahmad Hasaballah/Getty Images