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.国際  投稿日:2024/4/10

イエレン訪中 EV過剰生産問題で解決策見通せず


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#15

2024年4月8-14日

【まとめ】

・イエレン米財務長官の広州・北京訪問、中国によるEV過剰生産など協議。

・合意したのは、「集中的に意見交換すること」のみ。

・中国側が解決策をとることに同意した訳ではない。

 

今週は岸田総理の訪米がある。「首相訪米・政権浮揚・お土産は何?」的な報道のお粗末さについては先週の産経新聞コラムにも書いた。だが、お粗末さは今週も変わらない。大手マスコミ政治部記者は、筆者のコラムを読んでくれていないようである(当然か)。どうやら、次回総理訪米前にも同じことを書く必要がありそうだ。

岸田外交の評価ほど内外で落差の大きいものはない。多くは安倍・菅両政権から引き継ぎ案件だが、あの二人の総理でも「国家安全保障戦略」3文書改訂「防衛費GDP2%へ」といった政策変更は実現できなかった。韓国との関係も今や良好だし、中露朝を除けば、諸外国の評価も高い。総理訪米については来週まとめて書こう。

それはともかく、4月1日のイスラエルによるダマスカスのイラン大使館領事部攻撃からもう一週間経つ。幸い、今のところイラン側のイスラエルに対する大規模な直接報復攻撃は行われていない。詳しくは後程中東コーナーで書くつもりだが、今中東で起きていることの重要性を理解しないと岸田訪米の意義も理解できないだろう。

今週筆者が最も気になったのは、米中関係だ。米国での最大の話題は久しぶりの「皆既日食」なので、イエレン米財務長官の広州・北京訪問のニュースはあまり大きく報じられていない。今回筆者は、米中が「中国によるEV過剰生産などで集中的に意見交換することなどで合意」したという報道に注目した。

もう7〜8年前になるだろうか。戦狼外交とコロナ禍の前、まだ中国の学者や専門家とある程度気楽に意見交換ができていたころ、ある中国の経済専門家が「日本経済、特にバブル崩壊や失われた十年を中国は十分研究済だ、日本の犯した過ちを中国は繰り返さない自信がある」と豪語していたことを思い出した。

しかし、結果はどうだ?中国の不動産バブルは弾け、バランスシート不況が始まり、デフレで内需拡大が必要なのに、やっていることはその逆、既に過剰気味の生産を更に拡大し、国内で売れない製品を全世界、特に欧米諸国に輸出(状況は異なるが昔日本はダンピングだと批判された)しようとするのだから、批判されるのも当然。

今回イエレン財務長官は記者会見で、「中国の電気自動車などの過剰生産の問題は、世界経済などに影響を与えるとして、中国側に政策転換の必要性を求めていく」考えを示したと報じられた。でも、合意したのは「集中的に意見交換を行うこと」だけで、中国側が解決策をとることに同意した訳ではない。やはり相変わらずの中国だ。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

4月8日 月曜日 ロシア外相、訪中(9日まで)

4月9日 火曜日 スウェーデン、北欧・バルト海諸国との安全保障協議を主催

4月10日 水曜日 NATO事務局長、フィンランド大統領と会談(ブラッセル)

韓国総選挙

仏首相、カナダ訪問(11日まで)

4月11日 木曜日 欧州中銀、金利決定

G7運輸大臣会合開催(ミラノ)

日米比首脳会談(ワシントン)

4月12日 金曜日 韓国中銀、金利決定

独首相、独訪問中のジョージア首相と会談

4月15日 月曜日 国際司法裁判所、アゼルバイジャンに対するアルメニアの訴えを審議

最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢だ。

●イスラエルはイランの報復に備えGPS制御など反撃準備を整えている、これでイランが攻撃すれば、「飛んで火にいる夏の虫」にならないかね

●イランがイスラエルに直接攻撃すれば、仮に米国への攻撃がなくても、米軍は何らかの形で関与せざるを得なくなる恐れがある

●一方、米国内は割れている、民主党のリベラル派はイスラエル批判を強め、議会共和党がイスラエル支持を堅持する中、トランプはネタニヤフに批判的なのだ

●これが、戦略的理由からなら理解もできるが、恐らく理由は「2020年にネタニヤフがバイデン当選に祝意を表した」という「個人的理由」なのだから、恐れ入る

●ガザでは人質解放も停戦も総攻撃もない状況が続いている

●イスラエル軍のハンユニースからの移動は「撤退」ではなく「反転」だろう

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:中国の何立峰副首相と握手す副首相と会うイエレン米財務庁長官 (2024年4月6日中国・広州)出典:Ken Ishii – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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