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.国際  投稿日:2024/1/9

ガザの戦闘はもう数ヶ月は続く


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#02

2024年1月8-14日

【まとめ】

・ネタニヤフは「ハマスの殲滅」を完遂しない限り、政治生命を失うので戦闘は止められない。

・ガザでの戦闘は恐らくもう数か月かかる。

・戦闘が南レバノン、紅海にも拡大。最悪、ペルシャ湾海域に波及しかねない。

 

新年早々、想定外の大地震や航空機による大事故が起きた。何とも悲しくてやりきれない年始である。犠牲者の方々に深い哀悼の意を表するとともに、ご家族・関係者の方々に対し衷心よりお見舞いを申し上げたい。それにしても何が起きるか分からないものだ。今年も先読みの難しい日々は続きそうである。

さて、一年前筆者は産経新聞に、例年同様、「2023年に起きないこと」を書いた。①プーチンは諦めない、②中国は台湾侵攻しない、③北朝鮮は暴発しない、④トランプは失速しない、⑤中東は安定しない、⑥EUは分裂しない、⑦印は軍事同盟を急がない、⑧日本は急に変わらないなどと勝手なことを論じた。

幸い、予想が大きく外れることはなかった。されば調子に乗って、今年も「何が起きないか」を勝手に予想してみた。詳細は今週の産経新聞コラムをご一読いただきたいが、今年は「国」よりも各国指導者「個人」に焦点を当てた。プーチンやトランプだけでなく、習近平や金正恩についても「やらないこと」を書いてみたのだが・・・。

続いて、今週もパレスチナ情勢を。筆者の見る現時点での状況は次の通りだ。

●件の産経コラムには「ネタニヤフは譲歩しない」という予測を書いた。イスラエルの国内世論は割れている。だが、ネタニヤフは、「ハマスの殲滅」を完遂しない限り、政治生命を失う危機にある。だから戦闘は終わらない、いや止められないのだ。

ガザでの戦闘は恐らくもう数か月かかる。市街地でゲリラ戦を展開する敵を「殲滅」するのは容易でないからだ。事情通は「イラクのモスルでの対『イスラム国』掃討作戦」が、予定の3か月ではなく、その三倍の9か月かかったことを忘れない。

●問題は今回の戦闘がガザという領域を越え、南レバノン、紅海にも拡大しつつあり、最悪の場合、戦火がペルシャ湾海域にも波及しかねないことだ。それを回避するため、今米国務長官は必死で関係諸国を回っているのだが、見通しは暗い。

●今イランが湾岸内の米海軍などに「手を出す」とは思いたくない。当然火力に勝る米軍は徹底的に報復するだろうが、一回の報復でイラン側が「沈黙するか否か」は分からない。だが、そうなれば、日本のエネルギー源は直ちに止まる可能性がある。

さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

1月9日火曜日 ブータン総選挙(後半)

独外相がエジプトとレバノンを訪問(10日まで)

1月10日水曜日 EU、紅海での軍事作戦を議論

NATO・ウクライナ評議会が緊急会合

1月11日木曜日 韓国中央銀行、金利を決定

国際司法裁判所、イスラエルの対パレスチナ人 ジェノサイド非難について公聴会(~12日)

ベルギー首相、訪中(~12日)

1月12日金曜日 米USTR(特別通商代表)、訪印(~14日)

1月13日土曜日 台湾総統選挙

1月14日日曜日 コモロ大統領選挙

デンマーク女王、正式に退位

グアテマラ新大統領就任

最後に日本内政について一言。通常筆者は内政についてコメントしないようにしているが、今回は例外だ。政治資金規正法違反容疑は重大犯罪に発展する可能性があり、巷の関心がこれに集中するのは十分理解できる。筆者の視点は、日本以外の諸外国がこの「政治資金」問題をどう扱っているか、である。

現在、米連邦議会においてスキャンダルで辞任した議員の辞任理由を1976年以降すべて洗い直している。調べている最中から、日米では議員の辞め方がこうも違うのかと驚く。米国ではsexがらみのスキャンダルで辞める議員が何と多いことか。この日米議員の「辞め方の違い」について面白い視点が見付かれば、今週のJapan Timesに書くつもりだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:病院で治療を受ける、イスラエルの空爆による負傷したパレスチナ人(2024年1月8日ガザ・ラファ)出典: Ahmad Hasaballah/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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