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[小泉悠]<マレーシア航空機MH17便撃墜事件>ロシア・ウクライナ・親露派のそれぞれ展開する三者三様の主張

小泉悠(未来工学研究所客員研究員)

執筆記事プロフィールblogWeb

日本時間7月18日未明、オランダのアムステルダムからマレーシアのクアラルンプールに向けてウクライナ上空を飛行していたマレーシア航空MH17便(ボーイング777)が撃墜された。

機体はウクライナ東部のドネツク州シャフチョールスクに墜落し、乗客・乗員298人全員の死亡が確認された。乗客のうち154人はオランダ人で、ほかはオーストラリア(27人)、マレーシア(23人)、インドネシア(11人)、英国(6人)ドイツ(4人)、ベルギー(4人)などの国籍とされている。

MH17便は高度1万メートルを飛行中、地上から地対空ミサイルによる攻撃で撃墜されたと見られる。MH17便が撃墜された位置は本来の航路よりかなり北にはずれていたが、当日は天候が悪く、雨雲を避けるために急きょ航路を変更したらしい。

現在のところ、攻撃を行ったのが誰かははっきりしていないが、想定されるのはロシア、ウクライナ、ウクライナ東部の親露派武装勢力、の3者であろう。それぞれの主張(政府発表やメディア報道等を総合)は以下の通りである。

ロシア側

ウクライナ側

親露派(ドネツク人民共和国)

以上のうち、ロシア側の主張はいかにも苦しい。プーチン大統領の政府専用機を攻撃するようなことになれば、ロシアから軍事介入を含む最大限の反発が予想されるうえ、欧米の支援も得にくくなるなど、デメリットが大きすぎる(そのうえメリットもはっきりしない)。

どちらかといえば、親露派武装勢力による攻撃であるとするウクライナ側の主張のほうが説得力は感じられよう。ドネツク側の主張を鑑みれば、「ウクライナ軍の輸送機だと思って攻撃したら民間機だった」というあたりが実態ではないだろうか。実際、7月14日にもウクライナ軍のAn-26中型輸送機が撃墜されており、これもドネツク側の攻撃であったと考えられている。

ただ、「ブーク」ミサイルの出所については、ウクライナ側の主張をどこまで信用できるかは分からない。ドネツク側の当初の宣伝では、ミサイルはウクライナ軍基地から奪取されたものだったが、ウクライナ側はこれを否定している。

真相ははっきりしないが、死亡した乗客の大部分が欧米諸国の国民であったことから、ウクライナ側としては責任の一端といえども被せられることがないよう、あくまで「ロシア側が持ち込んだミサイル」ということにしておきたいのだろう(実際にそうであるという可能性も排除されるわけではない)。

 

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【プロフィール】

小泉悠

1982年、千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科を修了。民間企業勤務を経て、外務省国際情報統括官組織専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員。

現職は未来工学研究所客員研究員。

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