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イランのイスラエル攻撃は「限定的」

TEHRAN, IRAN - APRIL 14: People gather in support of the Islamic Revolutionary Guard Corps' attack on Israel on April 14, 2024 in Tehran, Iran. Late on Saturday, Iran launched a direct attack at Israel, about two weeks following the Israeli attack on the Iranian consulate in Syria. (Photo by Majid Saeedi/Getty Images)

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#16

2024年4月15-21日

【まとめ】

・イランの対イスラエル直接攻撃は総攻撃ではなかった。

・イランが攻撃の情報を事前に公開しているため、イランの攻撃は限定的なものとなる可能性が高い。

・イランはこれ以上戦闘を拡大する意図がないことを暗に伝えようとしていた。

 

 今週は岸田総理の国賓訪米について書こうと思っていたら、イランの対イスラエル直接攻撃という大ニュースが入ってきた。先週は「幸い、今のところイラン側のイスラエルに対する大規模な直接報復攻撃は行われていない」と書いたが、やはりイランの報復攻撃は不可避だった。でも、今回の攻撃は決して総攻撃ではなかったようだ。

 実際に攻撃が始まったのは日本時間4月14日日曜日の朝。多数のドローンを発射したという報道がまずイランから流された。イスラエルにドローンが着弾し始める前の朝6時過ぎ、フジテレビからの電話で起こされた。早速、戦闘拡大の可能性について聞かれたので、とっさに、眠気眼で次の通りコメントした。これは本当の話である。

 なぜイランの攻撃が「限定的」になるのか。過去40年間、イランは米国との直接戦闘を慎重に避けてきた。米国と戦った途端、イスラム共和制が崩壊する可能性があるからだ。そもそも、イラン側はなぜ攻撃に関する情報を事前に流したのか。なぜ最初から巡航ミサイルや弾道ミサイルで「奇襲」をかけなかったのか?おかしくないか?

 更に、何故、数時間もかけてドローン・ミサイルをイスラエルに打ち込んだのか。そんなことをすれば、イスラエルと米国が迎撃態勢をとってしまうのではないか。実際に南部の軍事基地やゴラン高原に着弾はしたが、損害は軽微だった。イスラエル側に迎撃態勢を整える時間が十分あったのは偶然なのか。筆者は決してそうは思わない。 

 イラン側は攻撃直後に勝利宣言を行い、同国外務省は「本件は終結したと考えて良い」という異例のコメントを発表した。少なくとも今回、イランはこれ以上戦闘を拡大する意図がないことを暗に伝えようとしていたかのようだ。詳しくは今週の産経新聞のWorldWatchにコラムを書いたので、ご関心ある向きはご一読願いたい。

 続いては岸田総理の国賓訪米である。バイデン大統領は共同記者会見 で「過去3年間で、米日パートナーシップが本当にグローバルなパートナーシップ(a truly global partnershipに変化した。これは、少なからず、岸田首相の指導力のおかげだ。これはお世辞抜きの話である(And I mean that sincerely)」と述べた。

 筆者は「あれっ」と思った。通常の外交では「I mean that sincerely」とは決して言わないからだ。これはバイデン大統領の本音だろう。更に、同大統領は「私は岸田首相を称賛(commend)したい、彼は大政治家(a statesman)である」と結んだ。米大統領が日本の首相をこれほど褒めちぎった会見は、これまでほとんど記憶にない。

 今回の訪米は政治レベルと事務方が戦略的に考え抜き、周到な準備を重ねた結果である。日本では別の評価もあるようだが、先ほど見ていたCNNの番組で、ある米下院議員が対ウクライナ支援につき「日本の岸田首相は議会演説で米国が果たすべき役割を称賛していた」とコメントしていた。総理演説にインパクトがあった証拠だ。

 ちなみに、この原稿は15日のハワイ行き機上で書いている。16日に現地シンクタンクPacific Forum主催で旧知のジム・ケリー元米国務次官補の業績を称える夕食会が開かれるからだ。ケリー氏には特別な思い出がある。日米貿易摩擦時代に日米同盟の重要性を説いていた少数良識派の一人、久しぶりに旧交を温めたいと思う。

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:イラン、テヘランでイスラエルへの直接攻撃を祝う市民。2024年4月14日。出典:Photo by Majid Saeedi/Getty Images