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.国際  投稿日:2024/4/23

イラン・イスラエル直接交戦再開の可能性は?


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#17

2024年4月22-28日

【まとめ】

・イランの対イスラエル直接攻撃により、「直接攻撃はしない」という双方の「心理的バリア」は崩壊。

・両国の宗教保守強硬派が「判断ミス」をしない保証はない。

・今後はイラン・イスラエル直接交戦再開の可能性が高まるだろう。

 

 今週は2024年既に第17回目のコラム、来週にはGWが始まる。「光陰矢の如し」とはまさにこのことだ。冒頭は、先々週のイランによる「周到に準備された(に違いない)限定的」対イスラエル大規模ドローン・ミサイル攻撃に対するイスラエルの「報復」内容を書くつもりだったが、今回は敢えて悲しく辛いコメントから始めたい。

 420日夜、伊豆諸島沖の太平洋で海上自衛隊ヘリコプター2機が墜落するという痛ましい事故が起きた。某有力リベラル紙は淡々と「2機は対潜水艦戦の訓練中、空中で衝突した可能性が高い」などと報じた。だが、悲しいかな、日本でのこの種の事故報道に決定的に欠けているのは、国を守る「軍人」に対する「敬意」である。

 別のリベラル紙に至っては、「あれじゃあ、だれだってこわいですよ」と書き出し、「相次ぐ事故が解せない。・・・突き止めなければならないのは潜水艦の位置よりも夜間訓練に棲む「魔物」の正体である」と書いたが、さすがに違和感を覚えた。おいおい、解せないのは殉職者の死に「哀悼の意」を持たないこと、ではないのかね。

 岸田首相は国会で「大切な隊員を失ったことは痛恨の極みであります。安全な運航に万全を期していきたい」と述べたそうだ。自衛隊の最高指揮官としては当然の発言だろう。マスメディアに「哀悼の意」を示せとまでは言わないが、少なくとも市民を守るための訓練中に殉職した公務員には最大の敬意が払われるべきではないか。

 アメリカでもこの種の事故にメディアが常に「哀悼の意」を表することはないと思う。

 だが、リベラル系メディアですら、「現役軍人」に対しては、その「サービス(国を守る仕事の意)」に感謝すると必ず述べていた覚えがある。日本も、そろそろこのような「軍と市民の健全な関係」を確立すべき時期に来ているような気がするのだが・・・。ついでに言えば、もし事故が在日米軍のヘリだったら、日本のメディアは「哀悼の意」を表さないだけでなく、必ず原因究明まで「飛行停止」を求めるだろう。この傾向は特にオスプレーについて甚だしいのだが、日本のヘリについては「飛行停止」はあまり求めない。反論はあるだろうが、もう一度己の報道ぶりを省みて欲しいものだ。

 おっと、長くなってしまった。続いては、イランの大規模攻撃に対するイスラエルの報復について。イランの対イスラエル直接攻撃により、これまで存在していた「直接攻撃はしない」というイラン・イスラエル双方の「心理的バリア」は崩壊してしまった。これに関し、先週の産経新聞では筆者の見立てを次の通り書いている。

1 イスラエルは必ず報復するが、

2 ネタニヤフが合理的なら、イランが「再報復せずに済む」程度の攻撃を仕掛けるだろう。

 現実はどうやらこの方向に動いたようだが、問題は今後である。イスラエルもイランも戦争拡大は望んでおらず、G7諸国もそれに強く反対しているが、イランとイスラエルの宗教保守強硬派が「判断ミス」をしないという保証はない。「心理的バリア」がなくなった以上、今後は直ちにイラン・イスラエル直接交戦再開の可能性が高まるだろう。 

 続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

4月22日 月曜日 ロシア、アゼルバイジャン首脳会議

イラン大統領、パキスタン訪問(24日まで)

4月24日水曜日 米国務長官、訪中(26日まで)

4月26日金曜日 独首相、NATO事務総長と会談

 最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢だが、前述の通り、イスラエル・イラン直接戦闘は一段落したようだし、イスラエルは今週「過ぎ越し祭」だから、あまり大きな動きはないかもしれない。いずれにせよ、

  • イスラエルは将来の、より洗練された、ラファ侵攻作戦を準備しつつある
  • ネタニヤフを過小評価してはならない、彼は生き残りの術を知り尽くしている
  • という訳で、ガザでは人質解放も停戦も総攻撃もない状況が続くだろう

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:イスラエルの同盟国(米国・英国)が地域紛争の緩和とガザ支援への注力を呼びかける。2024年4月17日。出典:Photo by Amir Levy/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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