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.国際  投稿日:2023/11/8

ガザ問題、米vsイランの代理戦争


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#45

2023年11月6-12日

【まとめ】

・ ガザ問題は、米とイランの覇権争い(代理戦争)になりつつある。

・G7外相会合は、和平プロセス再開による二国家解決とパレスチナ人支援、テロ非難を訴えるべき。

・欧州と中東とインド太平洋地域で抑止努力が必要、中東はその一部に過ぎないことの確認も重要。

 

今週のハイライトは、巷の関心とはやや異なり、米国内政である。米国の選挙というと「4年に一度」と思う向きも多いが、実は今年も行われている。

ざっと調べただけでも7日のelection dayには多くの州で投票がある。例えば、バージニア州、ロードアイランド州、ユタ州では連邦下院議員の補選がある。州レベルではケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピー各州で知事選があり、州議会レベルでもルイジアナ、ミシシッピー、ニュージャージーとバージニア各州で選挙がある。中でもバージニア州の議会選挙には関心が集まっている。関心のある向きはこちらをご一読願いたい。

理由は簡単、来年の大統領選挙を占うのに最も参考になるのは、選挙の専門家や評論家のコメントではなく、一般有権者の投票態度であるからだ。6日にはトランプ前大統領が一族企業の資産不正問題を争う民事訴訟で宣誓証言を行ったが、「反抗的とも受け止められる発言の中で不当な扱いを訴え、判事が証言を打ち切ると警告する場面もあった」と報じられた。

トランプ氏は相変わらずだが、同氏に対する支持率の高さも相変わらずだ。先週の世論調査ではいわゆるSwing States(激戦州)の多くでトランプの支持率がバイデン大統領を上回ったとも報じられた。実はこの点についても様々な報道がある。

例えば、FNNは「過去40年間で10度の大統領選挙の予想を行い、そのほとんどを的中させたアメリカン大学」の某教授から分析、評価を聞いた結果、「アメリカメディアが伝える現時点の世論調査は意味がない」と話した旨報じている。おいおい、その程度なら筆者だって言えるぞぃ。

「選挙の神様」なら「ちゃんと予測しろ」と言いたいところだが、これが現実である。筆者が世論調査よりも、各州の現場の一般有権者の投票動向をしっかり見ることが大事だと思う理由はこれだ。世の中に「選挙の神様」なんて存在しない。米国内政についてはキヤノングローバル戦略研究所が定期的に掲載している「デュポンサークル便り」を参照してほしい。

続いては、いつものパレスチナ情勢だ。筆者の見る現時点での状況は次の通りである。

●ガザ問題の核心は今やイスラエル・パレスチナ問題ではなく、米国とイランの覇権争い(代理戦争)になりつつある。

●一般に、日本の対中東バランス外交は1973年のオイルショックで始まったと認識されているが、それは間違いだ。

●73年に起きたことは、アラブ産油国の理不尽な要求に屈して、日本がイスラエルとの関係を事実上凍結する非バランス外交を始めたことだ。

●それが証拠に、当時欧米諸国でイスラエルとの関係を凍結した国は一つもないではないか。日本は一方的にアラブ産油国側の政治的要求に屈したのである。

●最近のブリンケン国務長官の精力的外交には頭が下がるが、成果は未知数だ。彼の目的は3つ、人道的目的のための戦闘の一時中断、ハマス殲滅後のガザの統治方法、イランによる介入と紛争拡大の阻止である。如何に難しいかは彼自身知っているはずだ。

●今週日本で開かれるG7外相会合は、国際社会の一丁目一番地を追求すべきである。要は、和平プロセス再開による二国家解決、すなわちイスラエルの生存権の承認とパレスチナ国家の樹立に加え、パレスチナ人への支援、テロ非難、国際法に基づく問題解決等を訴えることである。

●同時に、G7の視点は「グローバルな安定と現状の維持」であり、欧州と中東とインド太平洋地域で同時に抑止努力が必要であること、中東はその一部に過ぎないこと、を確認することも重要である。

この点については今週のJapanTimesに書くつもりなので、ご一読願いたい。

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:イスラエルによるガザ地区南部の空襲で破壊された建物を捜索するパレスチナの人々。2023年11月7日、ガザ地区ハーンユニス

出典:Photo by Ahmad Hasaballah/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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