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令和の課題は人口減と高齢化

八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)

【まとめ】

・後期高齢者の増加に伴い、社会保障費も増加の一途。

OECDは財政健全化と「同一労働同一賃金」導入の必要性強調。

・地域ごとの賃金格差が、地方の衰退を加速させる。

 

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令和」の世が明けた。平成の時代、世界経済の急速なグローバル化は世界全体の経済活動を地球規模に拡大させた一方、格差による社会の分断を生んだ。バブル崩壊後の日本でも非正規社員の急増による中間所得層の地盤沈下を招き、戦後の「1億総中流社会」が崩壊した時代でもあった。

戦後の高度成長期を支えた「団塊の世代」は2025年には75歳以上の後期高齢者となり、その子ども世代の団塊ジュニアも35年に65歳以上の前期高齢者となる。特に正規雇用比率、既婚率が低い団塊ジュニア世代の高齢化は日本経済に深刻な影響を与える。人口減少は最大のデフレ要因。高齢化はそれに拍車をかける。

大都市圏では高齢者増が急増し、地方では高齢化と過疎化が同時進行。地域社会や家族の支え合い機能の弱体化と相まって社会保障制度の重要性がさらに増す。19年度予算での社会保障費は18年度当初予算比3.2%増の34兆587億円と過去最大を更新する。社会保障分野の充実には4808億円を計上、消費増税分を活用した幼児教育・保育の無償化などに3882億円を充てる。

▲写真 過疎化・少子化 イメージ 出典:Wikimedia Commons; Doctor Autumnal sky

今年10月には消費税率10%への引き上げを行う。政府は消費増税後の25年度で「基礎的財政収支を黒字化させる」としているが、経済協力機構(OECD)は4月にまとめた対日経済審査報告書で、財政健全化のためには人口減と高齢化による影響から「消費税を20~26%に引き上げる必要がある」と指摘した。

OECDは「同一労働同一賃金」導入の必要性も強調した。非正規労働者の賃金は正規社員の半分程度にとどまり、非正規労働者を含む全ての労働者に適用される最低賃金(最賃)は標準的な正社員の賃金の4割程度だ。

政府は16年に閣議決定した「1億総活躍プラン」全国平均最低賃金(最賃)を時給1000円にする目標を掲げ、この目標を達成するため毎年3%程度引き上げる方針を明記した。「働き方改革実行計画」でもこの目標を達成するため毎年3%程度引き上げる方針を明記した。ただ、ドイツやフランスなど欧州の最賃は1100円を超え、米国や韓国でも最賃引き上げが行われており日本の低さが際立つ。

▲写真 一億総活躍国民会議 出典:首相官邸

全都道府県の現在の地域別最賃(時給)の最高額は東京の985円、最低は鹿児島の761円。最高と最低の差は224円と前年の221円から拡大した。「率」での引き上げが続けば地域間格差はさらに広がることになる。日本弁護士連合会は大幅な最賃引き上げと地域間格差の縮小を求める会長声明を4月に発表した。

最賃引き上げは今夏の参院選での一つの争点となる。公明党は20年代半ばで都道府県の半数以上で最賃を1000円以上とする公約を決めた。共産党は全国一律1000円の時給を主張、自民党も全国一律化の必要性を公約に盛り込む。

「最低賃金を全国一律にすべきだ」。今年1月、『日本人の勝算|人口減少×高齢化×資本主義』を刊行した英国人金融アナリストのデービッド・アトキンソン小西美術工藝社社長は「労働者は最賃が高い都市部に移動。地方が衰退する。賃上げによる生産性向上こそ人口減×高齢化のダメージを打ち消す唯一の方法だ」と欧州諸国など他の先進国同様、全国一律への転換を説く。

アトキンソン氏は自民党幹部とも親交があり、自民党有志議員が「最低賃金一元化推進議員連盟」(会長・衛藤征士郎元衆院副議長)を立ち上げた経緯がある。

かつて人類が経験したことのない急激な人口減×高齢化社会を迎える令和の日本。今度の参院選は「ポスト平成」の新たな社会像はどうあるべきかが争点となる。

トップ写真:高齢者の散歩の風景(イメージ)出典:Pixabay; mabelamberthemessiah