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.経済  投稿日:2018/11/23

加速する日本の流通システム改革


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・現代のeコマースを支えているのは物流システム。

・日本の搬送機器メーカーは世界トップレベル。

・今後は瞬時に正確にモノを届ける技術開発が流通業を制する鍵。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42930でお読み下さい。】

 

マテハンという言葉をご存知だろうか。物流業界で使われている略語でマテリアル・ハンドリングの略だ。いまやネットショッピングが当たり前の時代になってきたため、ネットで注文された商品をどのように消費者の手元にいち早く、安く届けるかが物流業界の最大の焦点になってきている。

その物流、特に生産や流通の要となる商品をベルトコンベアに載せて運び、区分けする搬送機の分野でドイツのシェーファー社と世界で12位を競っているのが日本の「ダイフク(旧大福機工)」なのである。一般消費者の目に直接触れないのでその名前はあまり知られていないが、物流業界の搬送機器メーカーとしては知らない人はいないといわれるほどだ。

搬送機器は物流センターや工場の生産ラインで商品や部材を回転ローラーに載せて運搬するコンベアが中心となる。ダイフクはコンベアに載せて商品を運ぶだけでなく、商品や部材の入荷、在庫管理、自動仕分け、そして仕分けた製品をトラックに載せるまでの出荷など、一連の物流システムを全て手掛けている。

 

■ 1時間で7600ケースを搬送

例えば千葉県にある流通センターでは総延長がなんと1200mの自動仕分け装置の上を加工食品や日用雑貨品など外部から届けられた商品を約30種類のカテゴリーに自動で仕分けて保管場所に向かう。その後、店舗から発注を受けると必要な品物だけが自動で抜き出し、搬送ラインに載せられ1時間に約7600ケースがラインの外で待ち受ける配送トラックへ運ばれ、消費者のもとへ届けられるのである。

人の手を借りない商品のピッキングや仕分け、ケース詰めなどの光景は圧巻だ。しかも、ただピッキングしてケースに収めるだけでなく、リンゴやミカンなどの果物は形状や大きさ、重さを分類し、糖度や熟し方まで瞬時に判断し、等級別に仕分けし搬送するという。これまで人手で形状や重さ、糖度などを判別していた時代と比べると全くの様変わりといえる。

▲写真 シェーファー社のハンドリングシステム 出典:Schaefer

 

■ ユニクロや半導体、食品、医薬品も自動搬送

ユニクロは今年10月、eコマース用の自動倉庫を本格稼動させたが、省人化率90の世界最先端、最大級の自動倉庫の構築に中心的役割を果たしたのが世界最大手のダイフクだった。顧客にはユニクロ以外に半導体・ディスプレイ、食品、医薬品などの製造、流通、運輸などの業種も抱える。

少子高齢化が進む日本だけでなく人件費の高い欧米や最近労務費が高くなってきた中国などでも工場、倉庫を使わないで自動化、省力化が進んでいる搬送システムが注目されているのだ。また最近は空港手荷物搬送システムも注目され、航空機への積み込みまでを自動化した手荷物の搬送システムや自動チェックインやセキュリティなど空港内の設備監視・制御までを担うシステムまで扱い始めている。

 

■ ジャスト・イン・タイムの搬送・納入

ダイフクは1937年に大阪市で製鉄用鍛圧機械を製造したことからスタートした。しかし大きく変わったのは、約20年後の1959年にトヨタ自動車に日本初のウェブ・コンベヤーを納入。トヨタとの付き合いが始まってからだ。トヨタが稼動させた日本初の乗用車専門工場の自動生産ラインを納入したのがきっかけだった。

トヨタの要求に応ずるため必死となったのだ。余計な在庫を持たないようにするためには決められた時間に部品を決められた部署に持っていかなければならない。搬送機器がトラブルを起こし、生産ラインが止まれば、トヨタの強さの秘密であるジャスト・イン・タイムもストップしてしまうからだ。こうしてダイフクはトヨタの厳しい品質管理、納入時間の厳守などを学んで共に進化してきたのである。

ただ、現代のマテハンは、既存事業の強化だけでなく新たな市場の変化に対応することが求められている。荷物の小口化、個配化、多頻度配送が増え、さらにネット通販の発展に伴い、より多方面、多品種、多頻度の配送が求められるので独自の小口配送システムの確立が重要になっているのだ。従来の顧客の引き合いに対応しているだけでは激しい流通業界の競争に立ち遅れるので、常に先取りできる流通システムの構築が求められているのである。

 

■ 運ぶ、仕分ける、搬送で企業の下支え

いまや2万アイテムを扱い、1日平均5000件のオーダーを受注後、平均で約3時間のうちに出荷するという。しかもダイフクのマテハンは世界規模で展開しており売上高に占める海外比率は67.3(2018年3月期)で、世界の23の国と地域に拠点を設けている。北米は自動車、IT、流通、サービスの中心の国なので、アメリカでトップを目指すとともに今後は中国、ASEANでも伸びが顕著な自動車、エレクトロニクス、飲料、食料、医薬品、ネット通販などの分野でコンサルティングからアフターサービスまでの一貫体制を目指しているという。

マテハンの活用は「運ぶ、仕分ける、保管する」を究めることにあるが、新サービスの提案力、新市場の創造力を求めているうちに日本の企業の底力を底上げする役割を担ってきたといえる。将来は瞬時に正確にモノを届ける技術の開発が流通業を制するカギになってくるという。いまや流通システムの改革は、企業競争力の中で極めて大きなウエイトを占めるようになっているといえる。

トップ画像:ソーターシステム 出典:株式会社ダイフク ホームページ


この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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