島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・政治家同士であれば、国賓招待で厳しい言葉が交わされてもよい。
・日本の国賓招待とは、天皇陛下が最大級の応接をすることである。
・誰を国賓とするかは、普通選挙を行っているかで線引きすればよい。
1979年6月29日から3日間、ジミー・カーター米大統領が国賓として韓国に招かれた。1977年1月の大統領就任以来、韓国をターゲットの一つとした人権外交と在韓米地上軍撤退を掲げたカーターと朴正煕大統領の関係は良好とは程遠いものだった。
首脳会談に同席したウイリアム・グライスティーン米駐韓大使によれば、案の定、首脳間で険悪なやり取りが交わされるに至った。
北の脅威に関する朴の「長い、古手の女教師然とした(schoolmarmish)講義」に苛立ちを高めたカーターは、経済力で遙かに勝る韓国がなぜ北にそれほどの軍事的リードを許したのかと朴を難詰し、軍事費の大幅増を繰り返し求めたという。
▲写真 ジミー・カーター米大統領 出典:アメリカ合衆国政府
国賓招待だからといって、言うべきことを言わずに済ませる必要はない。非公開の場で厳しい言葉が飛びかっても一向に構わない。それが政治家同士の間であれば、である。
安倍首相が習近平中国国家主席と握手し、挨拶を交わし、会談する。ビジネスライクにいくらでもやればよいのである。どちらも俗世界の人間だからだ。
しかし日本の場合、国賓招待とは、日本の文化と伝統を体現する天皇陛下が最大級の応接をすることを意味する。
宮内庁のホームページにこうある。
「国賓とは、政府が儀礼を尽くして公式に接遇し、皇室の接遇にあずかる外国の元首やこれに準ずる者で、その招へい・接遇は、閣議において決定されます。皇室における国賓のご接遇には、両陛下を中心とする歓迎行事、ご会見、宮中晩餐、ご訪問がありますが、両陛下はじめ皇族方は心をこめて国賓のご接遇をなさっています」。
ところで、ファシズムは次のように定義できる。
国家主義的な独裁を永遠の統治原理としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のために用いる体制。
現代中国こそは典型的なファシズム体制であり、習近平氏こそは世界最大のファシストである。
▲写真 習近平氏 出典:photo by Haluk Beyazab
そうした人物への「心をこめた接遇」を政府が天皇皇后両陛下に強いることは許されない。
誰を国賓とし、誰をしないか、線引きは簡単である。「普通選挙を実施している国の首脳」を国賓招待とする際の第1条件にすればよい。
首脳間でいかにウマが合わなくとも、普通選挙で選ばれた大統領や首相は、その国の国民の意思を反映した存在である。両陛下が温かく接遇されることが、民主国家日本の理念に叶う。
世界的にこれだけ中国共産党政権への批判が高まっている時に、そのトップの国賓招待はありえない。この機会に原則を確立すべきだろう。
トップ写真:天皇皇后両陛下とトランプ大統領 出典:The White House