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.国際  投稿日:2022/2/5

中国は「権威主義」か「ファシズム」か


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】
・『ワシントン・ポスト』に掲載されたメリッサ・チャンの記事が話題に。
・チャンは、「中国を再評価し『ファシスト』国という呼び方を検討する時期が来ているのかもしれない」と書いた。
・中国を「ファシスト」国と表現することに抵抗があるのなら、その国の要素を「ファシズム」と呼ぶよう検討すべきだろう。

 

現在、米有力紙『ワシントン・ポスト』に掲載されたメリッサ・チャン(Melissa Chan、陳嘉韻)の「オピニオン:中国はもはや単なる『権威主義』ではない。もっと恐ろしい」(2022年1月31日付)という記事が話題になっている。その内容を紹介したい。

その前に、メリッサ・チャンについて簡単に触れておこう。

チャンは、1980 年、香港に生まれた。3歳の時、両親と米国へ移住している。東部の名門イェール大学を卒業し、米ABCニュースに入社した。その後、チャンは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの修士課程を修了。2007年、アルジャジーラが北京に開設した24時間英語国際チャンネルの特派員に任命されている。2012年、チャンは、政府による記者資格の取り消し決定を受けて中国を離れた(注1)。


写真)アルジャジーラのメリッサ・チャン ケーブルショーにて。カリフォルニア州ロサンゼルス 2014年4月30日
出典)Photo by Michael Bezjian/WireImage

以下、拙訳である(一部削除)。

2009年、私がアルジャジーラ英語放送特派員として中国を「権威主義」と表現し始めると、一部の編集者がそれは行きすぎだとして差し戻してきた。それ以来、私たちはこの呼称をメディア報道等で使用することに馴染んできた。しかし、ジャーナリストやアスリートが冬季五輪のために北京へ向かう今、中国を再評価し、「ファシスト」国という呼び方を検討する時期が来ているのかもしれない。

2008年北京夏季五輪前、国際的メディアは中国が「権威主義」的であることを知っていた。だが、中国政府は、外国報道陣が自由に国内旅行できるような規定を発表した。その旅行で私達が出会った多くの人々は、労働運動家や人権派弁護士として活躍しており、変革的な中国の新世代への道を指し示していた。

その後、北京は活動家を拘束し始めた。政府は、Facebook、Google、Twitterなどをブロックした。中国は世界的人気ソーシャルメディアから切り離されている。

同国は共産主義を基盤としているため、右翼的な「ファシズム」とは相容れないと主張する人がいる。中国の法学者、騰彪は、この国を“全体主義”と呼ぶ。しかし、「ファシズム」の特徴を考えてみると、国内では人種差別、ナショナリズム、家族の伝統的価値観を持ち出し、海外では領土・領海を拡大するため軍備増強する“ストロングマン”を戴く監視国家である。

習近平主席は個人崇拝を打ち立て、公的・私的空間に自らの肖像画を飾っている。中国のプロパガンダは同国の輝かしい歴史を想起させる一方、欧米列強による過去の中国への不当な扱いを嘆く。そして、北京はナショナリズムと犠牲者という両方のカードを使う。かつて中国に駐在し、今はベルリンにいる記者として、私には現在の同国が過去のドイツとどれほど重なるかを無視できない。

習主席は、明確にレバンチスト(復讐主義者)的課題を掲げている。台湾は彼のアルザス・ロレーヌ、インドとのヒマラヤ国境は彼のポーランド回廊、香港は彼のスデーテンランドと見立てている。


写真)2022北京冬季オリンピック開会式に臨む習近平中国国家主席 2022年2月4日
出典)Photo by Ju Peng – Pool/Getty Images

中国は南シナ海の大部分を自国領海だと主張する。また、独自の「九段線」に軍事基地を建設中である。地図上、中国の“生存圏”拡大は国境をはるかに超えている。

21世紀のテクノロジーは、20世紀の「ファシスト」が夢見た監視能力を中国共産党に与えた。顔認証カメラは14億人を追跡し、トイレットペーパーの盗難を防ぐため、カメラは公衆トイレにも侵入する。国家は大手テクノロジー企業との連携により、スマートフォン間で共有されるメッセージやコンテンツを制御し、追跡している。

中国共産党から自由に活動できる組織は、こうしたテクノロジーの覇者も含め、皆無である。中国企業は他の資本主義国の企業と同様、利潤を追求する。だが、党関係者は国益優先と見れば、企業内に踏み込んでくる。最も典型的な例は、億万長者のハイテク企業家、ジャック・マー(馬雲)だろう。マーは金融当局を批判した後、数ヶ月の間、姿を消した。

また、国家はマッチョイズム(男性らしさを誇示)に固執している。それはLGBTQコミュニティと関連付けられ、「女々しい」振る舞いを禁止した。同コミュニティの活動家は政府から報復を受けている。

他方、北京は数十年にわたる一人っ子政策から一転して、男女に子作りを奨励する。そのため、市民の最もプライベートな領域に踏み込み、パイプカットを取り締まることで男性の男らしさを高めようとしている。

北京は、少数民族、特にイスラム教徒のウイグル人に対し、強制不妊手術のような極端な手段で出産を阻む。また、ウイグル人用に、何百もの再教育キャンプを建設した。一部の民主主義国議会では、今、ウイグルで起きていることをジェノサイド(大量虐殺)と呼んでいる。

ジャーナリストや政治家などが、もし中国という国全体を「ファシスト」と表現することに抵抗があるのなら、その国の要素を「ファシズム」と呼ぶよう検討すべきだろう。

 

(注1)メリッサ・チャン「矛盾の国、中国よ、さようなら」『アルジャジーラ』(2012年5月13 日付)

‘Goodbye to China, country of contradictions’ | Features | Al Jazeera

トップ写真)2022年北京冬季オリンピックの開会式に望む中国選手団 2022年2月4日 中国・北京
出典)Photo by David Ramos/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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