"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

「緊急提言 新型コロナ・V字回復プロジェクト」が目指すもの

小黒一正(法政大学教授)

関山健(京都大学准教授)

先般、こちら(https://bit.ly/3fZn1PN)のコラムの掲載があったので、提言の趣旨を理解頂くため、「緊急提言 新型コロナV字回復プロジェクト 「全国民に検査」を次なるフェーズの一丁目一番地に」(https://bit.ly/3g5zZf9)の論点につき、簡単なQ&Aを掲載します。

 

Q1 「緊急提言 新型コロナ・V字回復プロジェクト 「全国民に検査」を次なるフェーズの一丁目一番地に」(以下「サイト提言」という)と「緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大からの「命も経済も守る出口戦略」 」(小黒一正・関山健)(以下「長文論稿」という)は別物ですか?

(回答)はい、別物です。サイト提言の作成が、長文論稿を参考に始まったことは事実ですが、賛同者が論稿の内容に100%賛同するものではないため、別物の扱いとし、サイト提言の注釈1に「賛同者はこの提言の趣旨に同意するものであるが、論稿の個別の箇所については賛同者の間にもさまざまな意見があることを付記しておく」旨の記載をしています。

 

Q2 検査を拡大すると、偽陽性の問題が起こり、医療崩壊を招くのではありませんか?例えば、特異度99.9%の検査でも、東京都の人口(1395万人)では1.4万人も偽陽性になる可能性がある。

(回答)ご指摘の問題は、我々も理解しており、検査の拡大が原因で医療崩壊を招くことがあってはいけないと考えています。このため、サイト提言で「擬陽性は再度検査」、注釈2で「偽陽性・偽陰性の問題は、複数検査で対応」と記載しています。詳細は、こちらのエクセル・ファイル(https://bit.ly/2WSPeix)を利用して数字を変更しながら確認するといいと思いますが、例えば「感染率=1%かつ特異度99.9%」の場合、連続2回検査陽性を「陽性」と定義すると、東京都の人口(1395万人)でも偽陽性は14人になります(検査の独立性が前提)。

また、同じ条件で、連続3回検査陽性を「陽性」と定義するならば、東京都の人口(1395万人)でも偽陽性は0人になり、陽性判定は100%になります。なお、院内感染などの問題もあり、医療従事者の方々の検査を優先する必要があるのは当然であり、このような連続検査の提案は、検査体制が十分拡充された場合であることが条件です。

 

Q3 検査を行っても、それで病気が治るわけでなく、意味がないのではないか?

(回答)当然ですが、我々も検査で病気が治るとは思っていません。むしろ、我々が問題だと思っているのは、把握されていない感染者(特に無症状感染者)が感染を広げることです。現在のところ、新型コロナウイルスの「真の致死率」は分かっていませんが、その死亡者数が750人かつ致死率が1%の場合、潜在的な感染者数は7.5万人となり、回復した人々を除いても、まだ確認できていない感染者が多数いる可能性があります。

現在は、新規の確認感染者数の増加も落ち着いてきており、感染が収束しつつあるのは確かで、このまま、この問題が解決するのがベストなシナリオに思います。しかしながら、外出制限や営業の自粛を段階的に解除し、通常の社会活動・経済活動を行う過程で、再び感染が拡大し、再自粛のリスクもあります。その場合、社会活動・経済活動に及ぼす被害は一層拡大することから、感染が再拡大しても、我々がお互いに感染の有無を確認でき、通常の活動ができるよう、検査拡大の検討や準備を行う必要性があると考えています。

 

Q4 「新型コロナウイルスの感染の状況を定期的に(全国民が2週間に1回)知ることができる」とあるが、これはどういう意味か?

(回答)まず、サイト提言では、「感染の状況を定期的に(全国民が2週間に1回)知ることができる」と記載していますが、これは2つの意味があります。一つはマクロ的な感染状況、もう一つはミクロ的な感染状況です。

このうち、マクロ的な感染状況については、注釈4に「PCR検査に限らず、抗原検査や抗体検査を含め、高精度で有用性が高い検査は積極的に取り入れる」旨の記載をしており、PCR検査に限った提言をしていません。現在のところ、わが国でもいくつかの抗体調査があるものの、サンプル数などに問題があり、潜在的な感染者数も正確に分かっていないことから、まずは大規模な抗体調査を定期的に行い、マクロ的な感染状況を把握する必要があると考えています

また、ミクロ的な感染状況については、「感染の状況を定期的に(全国民が2週間に1回)知ることができる」ためには、サイト提言の「参考」に記載のあるとおり、一日1000万件の検査を行う必要がありますが、注釈4のとおり、抗原検査LAMP法や唾液で感染の有無を調べるPCR検査用試薬なども対象です。

 

Q5 検査をしても、市中で1秒後に感染する可能性もある。そもそも、検査を行う意味はないのではないか?

(回答)確かに、理論的にその可能性がありますが、Q3の回答のとおり、潜在的な感染者数が多数いる場合、その人々が別の人々に感染させる方が問題に思われます。

では、なぜ、我々が一律の自粛を行う必要があるのかいうならば、ウイルスが目に見えず、感染の有無に関する「情報の非対称性」が存在するからです。また、我々も自分自身の感染の有無を判断できないケースも多いため、外出制限や自粛により、他人との接触を減少させようとします。しかしながら、マクロ的な感染状況や新規の確認感染者数の状況に依存することは当然ですが、もし通常の経済活動を再開するとき、我々がお互いに感染の有無について判別がいたら、状況は劇的に変わってきます。すなわち、そもそも感染していない人々の方が多いはずで、一律の自粛は不要になるわけです。なお、2週間に1回の検査を行っても、ウイルスを100%封じ込めることが難しいことも明らかですが、ミクロ的感染状況の把握のため検査を拡大し、我々がお互いに安心して社会活動・経済活動を行う基盤を整備することが最も重要だと考えています。

 

Q6 マクロ的な感染状況とミクロ的な感染の違いは分かったが、後者の一日1000万件の検査は、相当ハードルが高くないか?

(回答)確かに、我々もハードルが高いことは理解しています。しかしながら、サイト提言の注釈45に記載のとおり、8兆円―12兆円程度の予算での実行が前提で、例えば15000万人以上の有権者が投票する「衆議院議員総選挙」方式などを参考にすれば、理論的には可能だと考えています。もっとも、サイト提言では、「衆議院議員総選挙」方式に強いこだわりがあるわけではなく、感染リスクが少ない方法で検査体制拡充の検討を行う必要があると考えています。

唾液から感染の有無を調べるPCR用検査試薬も承認申請中ですが、長文論稿では、

1)地域や職種を選別しながら、PCR検査や抗体検査等の試行的な実験(例:都内のパイロット・テスト)を含め、まずは1日5万件からでも検査を行い、検査件数や検査体制を抜本的かつ段階的に拡充し、徐々にでも自由に経済活動ができる人々を増やしていくことが重要

2)韓国のドライブスルー方式や東京都医師会の「地域PCRセンター」、現在検討中の歯科医師や医学部等の研究室・アメリカNY方式の薬局の活用

3)体制整備のため、官邸を中心に関係省庁、都道府県および協力団体などが一体となって資材調達、実施、検査結果の集約・分析などを行いうるよう「新型コロナウイルス検査緊急対策ネットワーク」の構

なども提言しています。

いずれにせよ、最も重要なのは上記3)であり、サイト提言でも、「この実現のためには、官民(特に産業界)の知恵や人材を総動員」と記載しています。

 

Q7 検査を「受けない」人をどう扱うのか。検査を強制するのか?

(回答)検査は政府が強制するものではないと考えています。サイト提言では、「希望即検査へ方針転換を」と記載しており、あくまで希望する人全員が検査を受けられる体制を政府は整備すべきだと主張するものです。

なお、長文論稿では、政府がPCR等検査陰性証明書を発行することも提言しています。我々が互いに感染の状況(PCR検査等、抗原検査を含むの結果)を定期的に知ることができるようにすることは、感染拡大防止と経済活動再開を両立するうえで有用だと考えているためです。PCR等検査陰性証明書の発行によって、レストラン、百貨店、映画館など業界ごとに、継続的に陰性の者が安心して社会活動・経済活動を行えるような自主ルールができていく可能性もあると考えています。

いずれにせよ、このような陰性証明書発行や利用方法については、緊急提言の賛同者でも意見が分かれることからサイト提言では記載しておりませんが、重要なテーマであることは明らかであり、このような議論も深まることを期待しております。

トップ写真:新型コロナウイルス抗原検査キット 出典:富士レビオ