【大予測:財政】楽観禁物、基礎的財政収支改善
小黒一正(法政大学教授)
「小黒一正の2050年の日本経済を考える」
急速な少子高齢化の進展に伴い、社会保障費が急増し、財政赤字が恒常化する中、政府債務残高(対GDP)は200%超に達し、いまも膨張を続けている。また、厚労省が昨年12月下旬に公表した「人口動態統計」(年間推計)によると、2016年の出生数は過去最少の約98万人(前年から約2.5万減)で、1899年の統計開始から初めて100万人を割る見通しが確実になった。これは、財政・社会保障の改革が喫緊の課題であることを意味する。
このため、政府・与党は財政再建を進めているが、昨年12月下旬に公表された国の2017年度予算案(当初)において、一つの大きな変化が見られた。それは、国の一般会計予算(当初)の基礎的財政収支が、僅かであるものの、5年振りに悪化したことである。具体的には、2016年度予算の基礎的財政収支(10兆8199億円)よりも、2017年度の赤字幅は214億円拡大して、10兆8413億円の赤字となった。
しかも、財務省は2016年度の税収を当初57.6兆円と見積もっていたが、法人税を中心に約1.7兆円下振れすることが明らかとなり、2016年度予算においては、赤字国債を約1.7兆円増発する事態に陥った。税収見積もりの下方修正は、リーマン・ショックの影響で景気が低迷した2009年度以来、7年振りである。
何故、税収見積もりの下方修正が発生したのか。その一つの可能性として考えられるのは、「景気循環」である。内閣府は、「景気動向指数研究会」(座長:吉川洋・元東大教授)の議論を踏まえて景気循環の判定をしているが、2009年3月からスタートした第15循環の景気の山を2012年3月、谷を2012年11月に確定し、その資料を2015年7月24日に公表している。
これは現在の景気回復が安倍政権発足直前の2012年11月からスタートしたことを意味するが、この資料によると、過去の景気拡張期の平均は約3年(36.2か月)であることが読み取れる。拡張期が6年近くに及ぶケースも過去にあるが、それは例外的なケースであり、景気拡張期はいつ終わってもおかしくない。
このような状況の中、財政再建との関係で、2017年の財政の先行きを占う注目点は「税収」の動向である。もはや、景気循環から税収の上振れが期待できず、むしろ下振れする可能性が高まっているにもかかわらず、財務省は2017年度の税収を57.71兆円と見込んでいる。これは、2016年度(当初)と比較して1100億円増という見積もりとなっている。
1981年度から2015度の約35年間において、国の税収見積もり額(一般会計の当初予算)とその決算額の誤差は上下に大きく振動しており、実際の税収が見積もりよりも5%以上も減少してしまった年度は10回、1割以上減少した年度は7回も存在する。もし既に景気拡張期が終わりつつある場合、2016年度に続き、2017年度の税収も下振れする可能性があり、社会保障改革を含む財政再建の手綱を緩めてはならない。
なお、政府は2015年6月末、新たな財政再建計画を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2015」(いわゆる骨太方針2015)を閣議決定しており、骨太方針2015では、2020年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支(以下「PB」という)を黒字化する従来の目標のほか、2018年度のPBの赤字幅を対GDPで1%程度にする目安を盛り込んでいる。
また、内閣府は2016年7月の経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を公表している。同試算によると、楽観的な高成長(実質GDP成長率が2%程度で推移)の「経済再生ケース」でも、政府が目標する2020年度のPB黒字化は達成できず、約5.5兆円の赤字となることが明らかになっている。
その意味でも、税収の上振れに楽観的な期待を寄せず、政府・与党は2019年10月の消費税率引き上げに向けた環境整備を含め、財政・社会保障の改革を進めることが望まれる。
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この記事を書いた人
小黒一正法政大学教授
法政大学経済学部教授。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。