新型コロナ鈍い政府の反応
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・政権はウイルス感染症への甘い見方と国の不備に深刻な反省を。
・PCR検査や感染経路追跡、医療充実にまず注力すべきだった。
・コロナ対策国際比較の国民評価で、安倍政権は最下位。
安倍首相は5月4日、全国を対象とした緊急事態宣言の期限を6日から5月31日まで延長すると発表した。予定通り緊急事態を終えられなかったことに対し「1か月で終息する、終えるということを目指しておりましたが、残念ながら1か月延長するに至ったこと、内閣総理大臣として責任を痛感しております。それを実現できなかったことについて改めて、おわびを申し上げたいと思います。」と謝った。
今回の新型コロナウイルス感染症拡大に関し、安倍内閣は欧米や中国、韓国、台湾などに比べ初動に遅れ、対策も後手後手にまわったことが大きな要因になっているが、そもそもウイルス感染症への見方が甘く、国としての備えがほとんどできていなかった事を深刻に反省すべきだろう。
▲画像 緊急事態宣言の延長を表明する安倍首相(2020年5月4日 首相官邸)出典:首相官邸ツイッター
5月4日現在で世界を見渡すと、ヨーロッパ各国は4日に公園、博物館、屋外での運動、ホテルの営業再開。学校についてもドイツは一部で授業を再開しベルギーも18日以降、フランスも今月中の再開を宣言している。またイタリアとスペインは全ての学校を9月に再開すると期日を明らかにしている。一方、韓国では4日から全国一斉の休校命令を順次解除し13日から高校3年生の登校を認めると発表した。韓国では小・中・高・幼稚園で4月9日からオンライン授業が始まっており、台湾も早々と休校を解除したと聞く。
それらに比べると、日本は何と遅れていることか。韓国と台湾がいち早く感染を封じ込めたのはビッグデータやスマホの積極活用で公的保険や出入境管理などの記録を結びつけ感染リスクのある人を素早く発見しスマホで健康状態を監視していたし、韓国は人工知能を活用し検査の大幅な拡大につなげていた。また濃厚接触者の発見や監視などにもスマホを活用していたといい、この取り組みが出口戦略でも大いに役立ったといわれる。
日本では保健所が電話で聞き取りをしながら感染経路を調べるというアナログ式が中心なのだ。感染の有無を調べるPCR検査も日本は10万人あたりの検査数は188件。ドイツ、イタリアは約3000件を超えシンガポールは1708件、韓国は1198件と段違いだ。日本は感染者の数が他国に比べて非常に少ないが検査もれの可能性も多いとみられているのだ。
WHO(世界保健機関)が緊急事態宣言を発したのは1月30日だが、日本の安倍首相はそれから2ヵ月以上経ってからようやく宣言を出した。それまでの日本政府の関心はオリンピックの延期問題にあり「絶対に開催します」と言い続けていたのである。
日本政府のこれまでの対応は社会経済活動の再開とウイルス感染防止の“両立”を模索してきた点にあり、両立の重要性を何度も強調してきた。外出自粛や休業要請があまり長引くと企業のコロナ倒産が続発し日本経済の回復が不能状態になると懸念しているのだ。
しかし命と経済回復のどちらが大切かといえば答えは言うまでもない。経済対策は金融や財政などでいくらでも対策の立てようがあるはずなのだ。むしろPCR検査や感染経路の追跡、医療対策の充実などにまず力を入れるべきだっただろう。
厚生労働省は1日約2万件のPCR検査を目標に掲げているが、実施可能件数は1万6000件といい、実際の実施件数は1日最大で9000件程度にとどまっている。検査が進まない理由として保健所の業務が多忙であることや検査を担う地方衛生研究所の体制が十分でない、検査を担う人の防護服が不足している、検体を運ぶ業者の不足――などをあげている。だとしたら民間の応援を頼むなどの工夫もあってしかるべきなのにそこにも手を付けていない。ウイルス感染症に対する感度が国全体として鈍いのではないかと思わざるを得ない。
参考まで8日付の時事通信のサイトに興味深い記事があったので紹介したい。
「日本の指導者、国民評価で最下位 コロナ対策の国際比較」 2020年05月08日20時33分
【ロンドン時事】23カ国・地域の人々を対象にそれぞれの指導者の新型コロナウイルス対応の評価を尋ねた国際比較調査で、日本が最下位となった。日本の感染者数、死者数は世界との比較では決して多いわけではないが、安倍晋三首相らの指導力に対する日本国民の厳しい評価が浮き彫りになった。
調査はシンガポールのブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが共同で実施。政治、経済、地域社会、メディアの4分野でそれぞれの指導者の評価を指数化した。日本は全4分野のいずれも最下位で、総合指数も最低だった。
政治分野では、日本で安倍政権の対応を高く評価した人の割合は全体の5%にとどまり、中国(86%)、ベトナム(82%)、ニュージーランド(67%)などに大きく劣った。日本に次いで低かったのは香港(11%)で、フランス(14%)が続いた。世界平均は40%で、感染者・死者ともに世界最多の米国は32%、韓国は21%だった。
ブラックボックスのデービッド・ブラック最高経営責任者(CEO)は「日本の低評価は、緊急事態宣言の遅れなどで安倍政権の対応に批判が続いていることと合致している。間違いなくコロナウイルスの指導力のストレステスト(特別検査)で落第した」と分析した。
総合指数でも日本は16と最低で、次いでフランス(26)が低かった。最高は中国(85)。全体的にはNZを除く先進国の指導者が低い評価にあえいだ。
調査は23カ国・地域の1万2592人を対象に、4月3~19日にオンラインで実施した。
なお、本調査を実施したブラックボックス・リサーチ社のサイトに掲載されている図が非常にわかりやすかったので、合わせて紹介したい。
▲画像 シンガポールのブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが共同で実施したコロナ対策の国際比較調査。政治、経済、地域、メディアの4分野でそれぞれの指導者の評価を指数化。出典:Blackbox Reserch
トップ写真:新型インフルエンザ特措法に基づく政府対策本部で発言する安倍首相(2020年4月1日 首相官邸)出典:首相官邸ホームページ
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この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト
嶌信彦ジャーナリスト
慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。
現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。
2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。