為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
「力を抜け」と、よくスポーツの世界ではアドバイスするけれど、厳密にそれをやれば立っていられない。このアドバイスの本当の意味は、「必要な所以外の力を抜け、または必要な所だけを意識して動かせ」になる。
そもそも力が抜けた状態がどんな状態かわかる事が難しい。
例えば寝ている状態でも力が入っている所がある。本当に力を抜く為には、力が抜けた状態がどんな状態かを知る事が大事で、その体験をする為に結構時間がかかる。最初は力が抜けた状態自体がわからない。
心理的にも力が抜けない人がいる。
競技人生には常にある種の圧力がかかり続けるけれど、それに向き合いすぎて力む。「無になれ」は究極のアドバイスだけれど、そもそも無の状態を知らず、到達の仕方もわからないので、混乱する。
今の自分は力が入っているのか抜けているのか。自然な状態はどんな状態なのか。何がニュートラルで何が偏りか。過去との比較でしか計れない。そもそも物心ついた時に身体的にも心理的にも力んでいる人もいて、そういう人はそもそもの力を抜いた経験がない。
僕の場合は落差で掴んだ。思いっきり力んでみる。そしてふっと力を抜く。その抜けた瞬間にだけ、力を抜いた状態がある。そしてまた人は気づかずに力んでいく。力が抜けた状態はいつも瞬間にあり、その瞬間を、観察し掴む事で、力が抜けるようになっていった。
力を抜く事を阻害する最も大きな要因は、委ねられない事。力が抜けた状態は静かな静止状態ではなく、流れや動きに委ねて揺らいでいる状態だと、僕は思う。
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