私のパフォーマンス理論 vol.49 -日本の特徴-
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
- 日本の特徴は以下の三点 1、継続 2、マニアック 3、集団情緒的
- 8割方は人類としての共通点が多く、2割程度は各国、文化によって違いがある
- 日本人の特性が最大に活かされるのは、少人数の集団で、細かい技術や意思疎通を必要とし、競技自体に歴史があり革新的な技術が生まれにくく、漸進的な改善が効くような場面
よく日本人が活躍すると、日本人の特徴を活かして得た勝利、という話が出るが、実際には競技の現場では国や文化の違いよりは人類であることの共通点が大きいと感じる。日本人の最大の特徴は日本人にこだわるところだろう。他国の選手に質問すると一応それらしいことは言うが、実際にはあまり意識していないように感じていた。それだけ日本文化が濃いということなのかもしれないが。
そうは言ってももちろん文明圏や国ごと文化ごとに違いはある。そしてその違いをある程度認識しておくことが戦略を立てる上でも、自分のエラーを減らす上でもプラスになる。私の感覚では8割方は人類としての共通点が多く、2割程度は各国、文化によって違いがあるというバランスだった。
今回は身体的な特徴や組織的な特徴には言及せず、あくまで陸上競技の現場で感じた日本人個人の中にある特性を説明している。また、当たり前だが日本人の中での個人差も大きい。あくまでそんな傾向がある、という程度で読んでもらえるとありがたい。
私が現場で感じた日本の特徴は以下の三点に絞られる。
1、継続
2、マニアック
3、集団情緒的
以下、説明してみたい。
1、継続
日本人の最大の特徴は継続できることだと思う。継続とは我慢であり、執着でもあり、また決断ができないことでもある。日本人は続いてきた以上、当たり前のように続けるという性質が強い。だから、始めるには労力がいるが一旦始まったものは意識しなくても続いていくし、反対に止めようと思ってもかなりの力を使わないと止められない。要するに慣性の法則が働いている感じがする。
この性質が最大にプラスに働くのは、技術系競技だ。特に細かく繊細な技術を必要とする競技は、動作の繰り返し回数に従って精度が高まる傾向にあるので、このような競技は日本人の継続を好む性質がプラスになる。また、長距離系にもプラスに働く。普通の人たちが熟達していくプロセスで、継続の力が効くので、日本人が平均して能力が高いのはこの継続力があるからではないかと思っている。反対にエリートは五段飛ばしぐらいで成長していこうとするので、一般人のコーチから見ると変化しすぎているように見えて、潰されやすい。
継続するということは、止められないということでもあり、計画しすぎるということでもあり、変化できないということでもある。今思いついたことをその場で試してみるということが苦手、創造性が必要とされるような競技が苦手、思い切った種目転向などが苦手という印象がある。さらに、継続を前提とするので練習も量を好みがちで、年齢が若い時に量が多い練習をこなすので、何度も繰り返して力を出すことはできても、一回で大きな力を出すことができなくなる傾向にある。
2、マニアック
日本人はこだわりが強い。特に細部のこだわりには相当なものがあり、本当に細かな誰も気づかないようなところまでこだわり抜く。これがクラフトマンシップになり、海外からすると驚かれるようなものを生み出す。このマニアックさがわかりやすいのは雑誌の種類の多さだろう。あれほど一つのジャンルが細分化された国は日本しかないと思う。
このマニアックさが最大限に生かされるのはやはり技術系種目のコーチングで、日本は技術をコーチングさせると私の知る限りでは世界で最も優れていると思う。本当に細かい技術や、繊細な感触を伝達することができる。だから、技術種目(卓球、バドミントン)、演技系種目(体操、フィギュアスケート)は日本は伝統的に強い。
一方で、こだわりの強さは、また細かく集団を分けることでもある。この細部へのこだわりが、ただでさえムラ的になりがちな競技の世界をさらに細かいムラに分けてしまう。同じ点より違う点を見出してしまい、小さな流派をたくさん生み出してしまう。また大きく捉えて、要点を掴むことが苦手なので、シンプルな競技では大体遅れをとっている。
日本人はフィジカルが弱いという表現をしているが、私は半分ぐらいはこの細かいことにこだわりすぎる性質が影響していると思う。ざっくりと全体を捉えて思いっきり力を出すことができない。細かいことにこだわり物事を複雑にしすぎてしまう。
3、集団情緒的
日本人は心の民族だと思う。常に人の気持ちを考えているし、相手がこう思っているということを先取りして行うということが日常的に行われる。明文化されない心の読みがいが非常に多い。また自分よりも他や集団を優先する傾向にある。
これが影響してか、モチベーションの理由を外部においた方が日本人は頑張れる傾向にあると思う。自分で勝ち取るというよりも、集団に必要とされてという局面を好む。自分が楽しみたいとか、自分が勝ちたいということよりも、誰かのためにということを動機の理由にする傾向が強い。献身的であり、集団優先的でもある。チーム競技でいい結果が出る時はだいたいこの傾向が強く出る。一体感や絆と表現することもある。
一方で集団情緒的であるということは、受け入れる力が強く、時に強すぎる。慮りすぎて、自分が出せない。また情緒的であるために傷つきやすい。プラスに出るのは先に述べたようにチームの一体感を出す局面で、悪く出るのは意思決定の局面だ。データの正しさよりも、人の心情を察した(特に年配や功労者)意思決定を行う傾向にある。この傾向が強く出過ぎると情緒が論理を上回ってしまい、先に決定ありきで、後付けて戦略が描かれるために、最初っから負け戦を選んでしまうことすらある。
日本人の最大の弱みは、ある特徴を短所として捉える傾向が強いところだ。特徴はあくまで特徴でありうまくいかせば長所になり得る。私は日本人の特性が最大に活かされるのは、少人数の集団で、細かい技術や意思疎通を必要とし、競技自体に歴史があり革新的な技術が生まれにくく、漸進的な改善が効くような場面だと考えている。陸上で言えばリレー競技がこれにあたる。
トップ画像:Pixabay by thepoorphotographer
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。