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防衛省・技術研究本部の海外視察費はわずか92万円〜写真やカタログだけで十分な開発ができるのか?(1/2)

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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(2/2)へ続く

筆者はこれまで何度も報じてきたが、2008年度の防衛省・技術研究本部(技本)の海外視察費用は僅か92万円。

これは筆者の年間取材費にも満たない。しかもこれを陸上装備の開発官(陸将、諸外国では中将に相当)の卒業旅行に使っていた。つまり海外視察は「役得」「ご褒美」の類であり、情報収集のためという認識が極めて低い。技本ではまともな情報の収集や解析が行われているとは言いがたい。

開発研究で一番初めに必要なのは情報である。まずこの段階から技本は失格なのだ。実際にインターネットの画像を元に研究を行った例もある。筆者はそれを直接開発担当者から聞いて腰が抜けそうになった。これがアフリカの最貧国の話しならば理解できるのだが。

前回の記事でも書いたRWS(リモート・ウェポン・ステーション)は軽装甲機動車に装着され、試験されたが、ハッチの上に台座を固定し、その上にRWSを装着して行われた。だが通常RWSをハッチの上に装備しない。それはハッチを潰すことになり、車長の肉眼による状況視察ができなるからだ。

 

(軽装甲機動車のハッチ:撮影筆者)

 

(左・トルコのコブラ装甲車・ハッチを潰してはいない:提供ラファール社)

(右・ミニサムソンRWSを搭載したハンビー。これもハッチを潰していない:提供ラファール社)

この点を技本の説明員に聞くと、「何か問題があるのですか?」というような答えが返っていた。RWSを装備しても、車長や銃手がハッチから身を乗り出さす必要がなくなるわけではない。肉眼での確認は必要だし、聴覚や嗅覚などの5感(第6感も)を動員した視察はRWSにはできない。またRWSのビデオカメラはズームは強いが、広角が弱いので、周辺警戒では死角が増える。この点でも人間の目には劣る。またRWSが壊れた場合には状況把握ができなくなるし、攻撃力を失う。

諸外国ではRWSによってはマニュアルで火器を操作ができるものがあり、これらをキューポラの前面に装備しておけば、制限があるにしても緊急時には車長が射撃することが可能だ。軽装甲機動車とよく比較される仏軍のVBLはルーフに3箇所のハッチを備えており、たとえ一つのハッチを潰しても他にハッチが残っている。対して軽装甲機動車は大型の観音開き式のハッチが一つしかない。軽装甲機動車にRWSを装備するならばハッチの前に据え付けるか、ルーフとハッチを再設計する必要がある。

 

(VBL には複数のハッチがある:提供パナール社)

 

「防衛技術シンポジウム」で技本の説明官は、軽装甲機動車は運転席の視界がいいから問題ないのでは、と話していたが、運転席とルーフからでは視界が全く異なる。こんなことは陸自の装甲車乗りでも分かることだが、「身内」である陸自にすら満足なリサーチをしてこなかったことは明らかだ。因みに技本では開発にあたってサンプル品の購入すら行っていない。写真やカタログだけから開発して、まともなものができるわけがない。

防衛省の政策評価によるとこのRWSは軽車輛に使用するとなっており、実際に技本は軽装甲機動車をテストベッドに使用している。だが、軽装甲機動車に搭載する目的や運用が明らかではない。RWSは目的や運用によって開発すべき仕様は大きく異なってくる。軽装甲機動車に使用することが前提であれば、7.62ミリ機銃用の、より小型で安価なものがベターだろう。軽装甲機動車を偵察車輛に転用するのであれば、話は別だが、それでもハッチの上に装着するのは無理がある。

技本のRWSはむしろ、96式装甲車や戦車などより大型の装甲車に適したサイズだ。実際陸幕はこのRWSのサンプル注文し、開発中の機動戦闘車に搭載して試験をする予定だ。これを陸幕から要求もないのに、軽装甲車向けに開発しているのだ、デーブ・スペクター氏のダジャレよりもズレている。(2/2)へ続く

 

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