[角谷浩一]「政治家は当選すれば独裁的権力を持てる」という理屈を国民は身をもって体験している〜議会制民主主義を「期限を切った独裁」と応えた菅直人と石破茂は同根か?
角谷浩一(政治ジャーナリスト・映画評論家)
自民党幹事長・石破茂が自らのブログで、
「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない本来あるべき民主主義の手法とは異なる」
と書いたことは特定秘密保護法案の審議途中でもあり、大きな話題になった。ブログは一部を撤回したが、2日、官房長官・菅義偉は参院国家安全保障特別委員会で、
「誤解を招かないように一部を撤回するなど、真意をきちんと説明した」
と述べ、担当相・森雅子は
「市民のデモ活動はテロに該当しない」
と説明した。
民主党幹事長・大畠章宏は
「撤回して済むものではない。政治的責任を問わなければならない。力を持たない国民はどうやって政権に意見を言えばいいのか。抗議デモをテロと同じという認識は(表現の自由を保障した)憲法21条を理解していない」
と怒りが収まらない。しかし、権力ある国会議員、ことに与党になると、政治家はどうも気持ちが大きくなるようだ。
民主党政権時に政調会長と公務員制度改革・新しい公共・少子化・男女共同参画担当相を兼務した玄場光一郎は就任早々「マニフェストは生き物だ」と発言した党幹部議員だが、10年に雑誌「味の手帖6月号」でキッコーマン会長・茂木友三郎と対談している。
そこではリーダシップ論になり玄場は一党独裁国家の有効性に言及している。茂木の「リーダーになる人は賢人でなければならない」という条件付きながら「ビナイン・ディクテーターシップ(やさしい専制主義)がいい」との発言に同調しながら
「非常に賢くて、権力を抑制的に使う人が独裁体制でリーダーになったら一番いいですよ。最高に効率よく国が発展する。それは間違いないですね」(同誌から一部抜粋)
と発言している。
この発言はほとんどニュースにもならなかったが影響力の問題で、同じような価値観の発言は起きている。民主党ではまだ首相になる前、10年の3月16日。参院内閣委員会での副総理兼財務相・菅直人は野党自民党・古川俊治の質問に答えて
「ちょっと言葉が過ぎると気を付けなきゃいけませんが、議会制民主主義というのは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだと思っている」
と答弁している。確かに直近の民意を得た首相のリーダーシップの発揮法との考え方はある。英国では閣僚全員が反対しても首相が「GO」サインを出せば進めることができる。しかし、我が国は閣議で1人でも反対する閣僚がいれば、首相がその閣僚を罷免して進めるしかない。その分独裁への歯止めがかかるのだ。
なるほど。
この後、菅が首相になり“独裁”が始まることを思い出せば政治家は当選した段階で独裁的権力を持てるという理屈を国民は身をもって体験しているといえる。石破発言にも同根を感じる。こんな政治家しかいないのか。
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