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.国際  投稿日:2013/10/16

[藤田正美]朝鮮半島の核武装〜「究極の交渉力」を持った北朝鮮のシナリオ


Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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北朝鮮を訪れた。平壌で地下鉄に乗る。駅の深さは、何と100メートル。長い長い一本のエスカレータで一気に下る。これだけ深いのはもちろんアメリカによる核攻撃を想定していたからである。

一緒にいたガイド兼「監視役」(自分でそう言った)の人が気になることを言った。「これまでのように軍事費にお金をかけなくてもよくなるから、経済発展が加速すると思います」。そこで尋ねた。「軍事費にお金をかけないでもいいということは、核武装したから、ということ?」。彼は「そうです」と答えた。

しかし現在、国連は北朝鮮を制裁中だ。国連安保理決議(1695号、1718号、1874号、2087号、2094号)に基づいて、武器等の輸出入の禁止、資金凍結、人的往来の禁止といった措置を実施している。さらに日本独自の制裁として北朝鮮籍船の入港禁止、すべての品目の輸出入禁止、北朝鮮籍者の日本への入国原則禁止などの措置も講じている。

核爆弾やその運搬手段であるミサイルを開発していることに対する制裁だから、核武装したということになるともはや制裁そのものが意味をなさない。東アジアの小国が、超大国アメリカと対等に交渉できると考えている北朝鮮が、いまさら核武装を放棄するなど考えられない。彼らにとって核武装は「究極の防衛兵器」であり、「究極の交渉力」なのである。

朝鮮半島の核武装は、アメリカや韓国、日本はもちろん、中国やロシアにとっても望ましくない。東アジアの核のバランスを崩すからである。バランスが崩れたときに恐れることはいくつかある。一つは東アジアの大国である日本が、戦後の国民的タブーを破って核武装しようとするのではないか、ということ(日本人的な感覚からは「ありえない選択肢」だが外から見ると極めて合理的な、考えうる選択肢である)。日本には、核爆弾を作るためのプルトニウムは大量にあるし、ミサイル技術もある。

もう一つ中国にとって最悪のシナリオがある。もし核武装した北朝鮮が韓国と統一国家を形成したときはどうなるか。中朝国境のすぐ南に米軍と連携した核兵器があるというあまり考えたくない状態になるかもしれない。中国が北朝鮮への制裁にあまり熱心でないのも、そのへんの事情が背後にある。ロシアにとっても同じことだ。

 

核兵器の質がどの程度のものであれ、とにかく、平壌は核弾頭とそれを運搬する手段であるミサイルを手に入れた。そうなってしまったら、アメリカや中国、ロシアにとって、一歩後退するしか道は残されていないように思える。つまり核兵器を「黙認」してその代わり核不拡散を約束させるのだという解説をしてくれた人がいた。そのときには現在の国連軍と北朝鮮の休戦協定が、アメリカ(そして韓国)と北朝鮮との平和協定に切り替えられるかもしれない。

これがそんなに簡単に進むとは思えないが、まったくありえない話でもなさそうだ。すでにアメリカはそういった「示唆」をほのめかしているし、核保有の「黙認」というのは例もあるからだ。インドとパキスタンだ。とりわけインドは「IAEA(国際原子力機関)に加盟していなかったから、違反行為があったわけではない」と当時のブッシュ(ジュニア)大統領が訳の分からない論理を立てて、アメリカとインドで原子力協定まで結んだ。日本もその流れに追随してインドと原子力協定を結んでいる。

そうなると難しいのが日本の立場だ。アメリカが北朝鮮と平和条約を締結したら、拉致問題を抱える日本はどうするのだろうか。もちろん拉致問題を棚上げするなど政治的に不可能だ。安倍首相がその時の首相かどうかは分からないが、誰が首相でも支持率は急落するし、メディアには叩かれる。実現するかどうかは別にして「すべての拉致被害者が帰国するまで」と言い続けなければならない。そしてそれがある限り、日朝国交正常化や平和条約交渉で北朝鮮はテーブルにつかないかもしれない。

 

世界がいくら制裁しても今の北朝鮮が困窮している様子は見られない。言葉を換えれば、制裁は効果がなかったということなのかもしれない。6カ国協議がどのように変質していくのか、その時、日本はどのような立場を取るのか、日本政府のシミュレーション能力が問われるかもしれない。

 

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