[清谷信一]防衛省・技術研究本部の海外視察費はわずか92万円〜写真やカタログだけで十分な開発ができるのか?(2/2)
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
陸自は軽装甲機動車をAPC(兵員輸送車)として使用している(世界で四人乗りの軽装甲車をAPCとして使用しているのは陸自ぐらいだ)。陸自では全員が下車し、車輛は鍵をかけて放置する。自ら機械化歩兵の利点を捨てているのだが、これは車輛用の部隊をつくって、車長と操縦手を別途手当すると余計な人件費がかかるからだ。こんな間抜けな運用をしている「軍隊」は陸自ぐらいだ。
車体を放置するので、RWSを装備するならば、搭載火器を奪われないような対策も必要だ。重たい12.7ミリ機銃を取り外して車内に仕舞いこむのか?4人がかりでも相当な時間を食うし極めて危険だ。
普通科小隊は全員が下車して車体を置き去りにするならば、軽装甲機動車にRWSを搭載しても下車隊員の火力支援には使えない。そもそも論でいれば車体が小さく、人間現数人分の重量(予備の銃弾を含めれば300キロを軽く超える)が増加するし、極めて狭い車内に予備の弾薬を搭載する必要がある。APCとして使用している軽装甲機動車にこのクラスのRWSを搭載すること自体に無理がある。
本来このクラスのRWSであれば、96式あたりをテストベッドに使用するのが常識的な判断だったろう。RWSの研究をするのであればせめて7.62ミリ機銃用と12.7ミリ用の2つのタイプを開発し、それぞれ軽装甲機動車と96式で、評価すべきだった。また合わせて、軽装甲機動車のルーフハッチの再設計や各種試験用の改良も行うべきだった。
既に世界中に数多のRWSが存在している。市場では価格競争も起きている。だから陸自に必要なスペックを持った、リーズナブルなRWSの調達が可能だ。しかも既に実戦を経験し、その結果をフィードバックしたものが少なくない。何周も遅れて後追いで、多額の費用を掛けて開発し、コスト高な大同小異の装備を調達する必然性はない。
RWSを必要とするならば、まず外国の製品を幾つか実際に使用してみて、いいものがあればこれをPKO用などで仮に採用し、実際に使って良ければこれを採用すればいい。また不便や使い勝手が悪いのであれば、これを改良するか、国産開発をすればいい。
世の中に無いものならともかく、既に他国に多数存在し技術的に確立されて、他国で普通に使用されておるものを、実際に使ったこともない自衛隊が妄想だけで膨らまして、あれこれ要求を出すと使い物にならなかったり、やたらにコストが高いものになるだけだ。自衛隊の国産装備はその傾向が強い。国内開発をするのであれば、どの程度数量が必要かをリサーチしておく必要がある。ところが防衛省は調達数も決めないで開発を行ってしまう。
RWSのように他国で多々使用されているものを技本で開発する必要はない。陸幕が主導で外国製を調達するり、開発すればよい。米国だってコングスバース社のプロテクター含め外国製を多く使用している。技本は開発を行い(技本自身が試作手段を持たないので、殆ど民間に丸投げだ)、また評価も行う。これでは泥棒が縄をなうようなものだ。実際技本が開発したヘリ型UAVは防衛省のホームページ上の開発事後の政策評価では「大規模自然災害やNBC環境下における偵察に必要で開発は成功した」と自画自賛していたが、筆者が報じたように先の東日本大震災では一度たりとも使用されなかった。
繰り返すが一度もだ。
10式戦車開発中、中核にいた人物によると、技本は知識も経験もないのに不要な検査や不必要な機能を要求する。技本が関わっていなければ10式の開発は半額でできた、と筆者に語っている。また三菱重工の戦闘機開発関係者もF-2戦闘機のレーダーの不具合は長きに渡ったが、これも技本が関わらず、三菱重工が仕切っていればもっと早く解決できたと主張する。
技本は解体、分割すべきだ。まず開発と評価行う組織を分離する。その上で装備開発は各幕僚監部が主導すべきであり、技本の開発部門は基礎開発と実証開発のみを担当する。もう一方は予算配分と評価を担当する。現状では列国に較べて少ない研究費を無駄遣いですり減らしているだけだ。[(1/2)から続く]
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